第百六十五章 その頃の彼ら~リャンメンの村~ 1.使役職三人娘
「え? ……長く居座ってると思ってたら」
「そんな事やってたんだ……」
「ん。動物と付き合うには、まず警戒心を解くところから。害は無い、いても当たり前……というところまで持って行ってからが本番」
アルファンの宿場町から南西に、一日ほど行った場所にあるリャンメンの村。そこの広場の片隅――喫茶店は素より、お食事処なんて気の利いたものはここには無いので――に腰を下ろして談笑に励んでいるのは、メイ・ニア・フランネルの使役職三人娘である。
コボルト――の肉体美(毛皮を含む)――に魅入られたフランネルがこの村を訪れた経緯については既に述べたが、メイとニアまでがここを訪ねて来たのは何故か。
二人の場合は別にコボルトに惹かれた訳ではなく、満腹度の実装に伴って食料の保存に、延いては使役獣の餌の確保にも影響が及ぶのではないかと心配になって、保存食に一家言ありそうな山村の住人の知恵を借りにやってきた……という次第なのであった。
そんな二人が旧知のフランネルとあっさり再会できた理由は簡単で、この村には宿と言えるものがただの一軒しか無いからである。なので投宿すれば相宿になるのは自明な訳だ。
尤も、だからといってメイとニアが、すんなりフランネルと邂逅できた訳ではない。二人がログインした時には、既にどこかへ外出しているという事が多かったのだ。
あの業の深いフランネルの事だから、夜討ち朝駆けでコボルトの集落を探し廻っているのではないかと思っていたが、事実はそこから少し外れたところにあった。
「まさか朝っぱらから村の人たちのお手伝いをして廻ってるなんて……」
「ん。コボルトたちは朝が早い。目視するにはこちらも早出する必要がある」
……少し説明を加えておくと、リャンメンの村人もコボルトたちも、その生活サイクルは基本早寝早起きである。畢竟、コボルトたちが所用で村を訪れるのも早い時間帯の事が多く、その場に居合わせようと思ったら、フランネルも早起きする必要がある。――ここまではいい。
問題なのは、そんな早朝から何もせずにコボルトが来るのを待ち構えていれば、村人は素より肝心のコボルトも不審を抱くだろうし、最悪警戒される可能性だってあるという事だ。その難局を打破するための方途として、フランネルは村人のお手伝いという手段を選んだ訳だ。
尤も、〝お手伝い〟とは言ってもボランティアではない。要は細々した雑用を、ギルドを通さずに受けているだけだ。
他所でこんな事をした日には問題にしかならないのだが、ここリャンメンの村にあるのは冒険者ギルドの出張所のみ。村唯一の宿の受付が冒険者ギルド出張所の受付を兼ねている……という有様だから、ギルドの側も手間が省けて歓迎している。
何よりそんな早朝は、宿の方だって朝の支度で忙しいから、ギルドの受付なんかやってる暇は無い。それが細々した雑用程度というなら猶更の事だ。手間が省けてwin-winではないか。
「コボルトたちもそれは解ってるから、冒険者ギルドに来るのはもう少し遅い時間になる。その頃までに村の雑用を終わらせておく」
その〝村の雑用〟に際しても、コボルトたちが視野に入るような動線を既に構築しているというのだから、フランネルの執念恐るべしである。
「推しのためなら労苦を厭わないわよね、本当に」
リアルでこんな真似をしていれば、ストーカー認定待った無しであろうが、フランネルに言わせると、〝人間如きのためにそこまでする必要は認めない〟との事であった。
――閑話休題
「二人がここへ来たのは保存食のため?」
「うん。ほら、運営が満腹度を実装するって事は、食糧の確保や保存に関して何かしてくる可能性が強いじゃない?」
「そうすると、あたしたちの食べ物はともかく、ウルフたちのご飯がね」
そこまで心配する必要は無いかもしれぬが、〝転ばぬ先の杖〟として用心はしておきたい……というのが二人の意見であった。
そうなると、保存食の他に代用食についても知っておいた方が良いような気がして、
「こういうのってやっぱり、〝小麦以外の野生食材〟の活用に詳しい人に訊くのが一番だと思って」
「で、あたしたちが知ってる中で、そういうのに詳しそうな人がいるのはここなのよね」
「ん。確かにそれは大事」
聞けばフランネルは村人たちとの交友の中で、「灰干し」などの保存食について教わる事があったという。何か唐突にそんな話題が出て来たので少し訝しんでいたのだが、メイとニアの話を聞いて合点がいったようだ。
「灰干し……そんな方法があるんだ」
「ウルフたちのご飯になるかどうかはともかく、あたしたちの保存食にはなりそうよね」
――斯くして、メイとニアはフランネルの助力の下、村人たちとの交友を深める事に励むのであった。
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「あ、そう言えば『ワイルドフラワー』の三人が、使役獣と契約できたみたいよ」
「……その話、詳しく」




