第百六十三章 プリズン・ブレイク~Afterward~ 5.運営管理室
「何と言うか……おかしな展開になってきましたね」
「いや、おかしな展開は――不本意ながら――毎度の事なんだが……」
「おかしさのベクトルが違うというか、拠って立つところが違うというか」
「ロードマップとズレているような、ズレが復旧したような……」
今日も今日とてSROの運営管理室で、十年一日の如き感想を漏らしているスタッフたち。ただし、今回の元凶(仮)はシュウイではなく、ナンの監獄を脱獄した三人組であった。
いやまぁ脱獄クエスト自体や、それに闇ギルドが絡んでくる事までは想定されていたのだが、
「まさか……プレイヤーとしてシアの町一番乗りを果たすとはね」
「いや、そこまでならまだしも、到着の事実を掲示板で公表するなんて」
「一体何を考えてんだ? こいつら」
「そのせいで、ワールドアナウンスが流れる事になったからなぁ……」
アンダーグラウンドな行動を身上とする闇堕ちプレイヤーの利益を忖度して、運営側は彼らの挙動や位置を詳らかにする事を避けている。一般プレイヤーを出し抜く形でシアの町到着を果たした件についても、当初は公表を控える方針だったのが、あろう事か当の三人がその事実を掲示板で公表したため、管理AIも〝だったらいいか♪〟とばかりにワールドアナウンスを流す事にしたのである。
ただ……この件が大っぴらになった事で、運営サイドが当初決めていた方針に微修正が加えられる事になった。
「確か……王都からの第一陣がナンの町に到着した時点でシアの町は部分開放されて、プレイヤーは商人の護衛という形でのみシアの町に入れる。正式な開放は『死刑宣告者』の討伐が成ってから……そういう方針だったと思いますが?」
「その方針が少しばかり変更された」
憮然とした表情で木檜が説明するところに拠ると、
「隊商に同行する形でシアの町に入るより先に、あの三人組がNPCを伴わずにシアの町に入った。闇ギルドの協力があったにせよ――だ。……管理AIはこの業績に鑑み、部分開放のレベルを上げる事を提案してきた」
「部分開放の……?」
「レベルを上げる……?」
「あぁ。具体的には、シアの町におけるプレイヤーの自由度を高める事になる」
つい先日に決定された修正方針では、シアの町における行動の制約を払拭する、それが「死刑宣告者」討伐のインセンティヴとなる筈であった。
しかし、あのやらかし三人組のせいで、その「制約」が緩められるとしたら……
「……これ、下手するとゴッタ沼をほったらかして、プレイヤーがシアの町に行く流れが形成されるんじゃ……」
「その可能性は大いにある」
最初に予定されていたロードマップに鑑みると、本末転倒も甚だしいのだが、
「管理AIはゲームを遅滞無く進める事を優先したんだろうな。進行管理という視点に立てば、その判断も間違ってはいない」
「……上はどういう決定を?」
「取り敢えず、AIの提言を容れてみようという事になった。シアの町の開放がどうなろうと、『死刑宣告者』の討伐を考えるプレイヤーはいるだろうからな」
「まぁ……それはそうでしょうね……」
プレイヤーたちのやらかしによって、二転三転――どころか七転八倒――と修正を余儀無くされる現状に、一同は揃って溜め息を吐いた。
「……それはそうと木檜さん、あの『ドクター・ヘイ』って『トリックスター』なんですよね?」
「あぁ。アイテムを作り出すタイプのトリックスターだ。『サンチェス』などとは違って、積極的にゲームに介入する事は無いと思われていたんだが……」
それがスカラベなんてものを三人組に提供したせいで、思いがけなくも方針変更を引き起こす事となったのは、正直木檜にも予想外であった。
「ゲーム開始前のルーレットで、闇ギルドなんてアングラな部署に配属されたから、ゲームを大きく動かす事は無いと思ってたんだがなぁ……」
「人生何が起こるか判りませんね」
何しろ「トリックスター」のNPCは、自律判断や行動の自由度が高く設定されている。そんなドクター・ヘイが今後もあの三人組と連むとしたら、この後どういう展開になるのか……漠とした不安を覚えずにはいられない運営管理室なのであった。




