第百六十一章 プリズン・ブレイク~脱獄クエスト第二弾~ 2.脱獄
何でこんな事になっているのか……と、絶賛混乱中の二人に、
「おー……本気で飲むやついたんだな、軟化薬」
――という、感心とも呆れともつかぬ口調で声をかけた者がいた……鉄格子の嵌った窓の外から。
〝そんな胡乱なものを飲めと言って寄越したのかい!〟――と、中っ腹になりかけたボウであったが、今はそんな事に気を取られている場合じゃないと思い直す。首尾好く脱獄が成功した暁に、まだ腹の虫が治まっていなければ、その時に一言云ってやればいい。
ちなみに、二人が収監されているのは監獄の「塔」の中。言い換えれば、地上からはそこそこの高みにある場所なので、気軽に〝窓の外から声をかける〟事ができるような位置ではない。
遅蒔きながらもその事に気付き、怪訝に思ったボウが懸命に頭を動かして、今や遙かな頭上――グニャリと蕩けたように寝ころんだ形なので、窓はずっと上にある――に位置する窓を見上げると、何者かがこちらを覗いているのが見えた。
「悪いがあまり時間が無ぇ。取り敢えず身体は動かせる筈だから、壁に寄っかかるようにして身体を支えて立ってみろ」
相変わらず正体は知れないが、薬の事を知っているからには闇ギルドの関係者だろう。なら、ここはそのアドバイスに従うべきだ。ヘンテコな薬を寄越した以上、その取り扱い方についても熟知しているのが当然ではないか。
そう判断したボウは素直にアドバイスに従い、同じようにアドバイスを耳にしたらしきゴーマもこれに倣う。
どうにか壁に寄りかかる形で窓の傍に顔を近付けると、
「おっし。そのまま鉄格子を潜り抜けろ」
「いや……潜り抜けろって……」
「格子の隙間、どう見ても頭の幅より狭いんだけど」
「あぁ、その石頭も軟っこくなってる筈だから気にすんな」
無茶を言うと思ったが、ここまできた以上は〝毒を食らわば皿まで〟である。取り敢えず何か考える事は止めて、無心に頭を鉄格子に押し付けると……頭も身体も変形して、狭い鉄格子を潜り抜ける事ができた。その様子だけ見れば、スライムの魔人か新種の妖怪と言っても通りそうだ。
(……何でもありだな、このゲーム)
頭だけ鉄格子の外に出た時点で目が闇に慣れたらしく、男の姿が見えてきた。ついでに、男を中空に浮かばせているものの正体も。
「気球……か?」
「おうよ。闇に紛れるように細工した特別製よ」
監獄塔の壁スレスレに浮かんでいる黒塗りの気球。そのゴンドラに乗っていた男に手を引いてもらって、ボウはどうにかゴンドラに乗り移る。続いてゴーマも引き込んだ後、気球はフワリと移動して、
「……ダラクも助けてくれんのか?」
「一人だけ残しても何だしな。〝行きがけの駄賃〟……違うな、〝ものはついで〟ってやつだ」
〝もののついで〟で救出されるダラクが少し不憫に思えたが、素より文句を言える立場ではない。頭を下げて謝意を表して……訊きたかった事を訊く事にする。
「あぁ、軟化薬の効果は三十分もしねぇうちに消えるって話だから心配すんな」
――それは重畳。




