第百六十章 「ワイルドフラワー」使役獣獲得事情 8.運営管理室
「結局『ワイルドフラワー』が総浚えしていきましたね……」
ポツリと呟いた中嶌の台詞にも、運営管理室の面々は寂として言葉を発しない。と言うか、どこか呆れと諦めが混じったような空気が満ちている。
「これも偶然なんでしょうか? それとも……神の思し召しってやつなんでしょうか?」
やや間を置いた頃、何とも言えぬ表情で大楽が疑問を発するが、それも故無き事ではなかったろう。何しろ半日とたたぬうちに「ワイルドフラワー」の三人が、何れも使役獣を獲得するに至ったのだ。それも見事に訳有り・癖有りのものばかりを。
これが最初から仕込まれたチェーンクエストであるというなら、彼らの疑念もここまで膨らみはしなかったであろうが、
「……木檜さん、重ねて伺いますけど、チェーンクエストじゃないんですよね?」
「違う……筈だ。少なくとも俺が確認した限りでは違っていた」
――そう。
エリンたちが頭を悩ませていたように、この一連の展開はチェーンクエストではなかった。正確に言えば、ミミックジャガーとトラップスパイダーの幼体は同時に出現する事になっていたが、それと〝傷付いた幼獣〟のクエストとは無関係の筈だったのである。
これらが一連のチェーンクエストに見える理由は唯一つ、〝傷付いた幼獣〟をハイディフォックスだと「看破」したクリフトが、ミミックジャガーとトラップスパイダーのクエストを示唆する情報をもたらしたから――という一点に懸かっているのだが……
「〝傷付いた幼獣〟のクエストは、元々木檜さんが提案したんですよね?」
「あぁ。戀水のやつにイチャモンを付けられたせいで、不完全な形になったがな」
木檜が最初に提示した原案では、〝種族未定の「小動物」と契約後、最初に出会うNPCが種族その他を決定する〟という、些かギャンブル要素の強いものであった。
木檜の原案の肝は、「小動物」が出会う可能性のあるNPC――種族決定のキーパーソン――は複数用意されており、どの「キーパーソン」に出会うかによって、その後の展開が大きく変わるというところにあった。
もしも〝害獣の子供〟と認定されるような事があったら、害獣を救助したプレイヤーに対して一部住民の好感度が下がり、「小動物」の方も一部の住民に対して敵意を抱くような展開も考えられていたのである。
そうなれば畢竟、使役主たるプレイヤーも「一部住民」に対して隔意を抱くようになるであろうから、プレイヤーと住民との間に多様な関係が生まれる……というのが木檜の主張であったが、これに「モフモフの女帝」こと戀水が大反対を唱えたのであった。曰く、使役獣が無意味に不幸になる展開は容認できない――と。
社内のモフモフ党からもこれに追随する声が上がり、CANTEC社の上層部も、実装するにしてもナンの町では時期尚早という判断を下し、好感度に関する部分は当分凍結、実施するにしても様子を見てシアの町以降で――という話に落ち着いていた。
まぁ今回のケースでは、「小動物」を連れて行った先のクリフト氏が、これを益獣……ハイディフォックスの幼獣だと認定してくれたお蔭で、余計な軋轢は生じなかった訳であるが、
「その牧場主が、ミミックジャガーとトラップスパイダーのクエストを示唆する事になったのは……」
「偶然かどうかはともかくとして、当初予定されていた展開には無かった」
こちらは使役職の初級者に使役獣を紹介するためのクエストであったから、クエストの存在を暗示する手懸かりとして、「不審な場所」の噂が拡がるように仕組んであった。ただ、ナンの町半壊騒ぎの迸りでその「噂」が顧みられなくなった結果、予想外に拡がった「噂」がいつしかクリフト氏の耳にまで達していた……と、考えれば一応の説明は付く。
ただし勿論、これ以外の説明も可能な訳で……
「偶然でないとしたら、管理AIが手を廻したんだろう。しかしその場合でも、最初から計画していたとは思えない。好機を活かしたというところじゃないか」
「言い方は悪いですけど、不良在庫の処分ってとこですか」
「言い方……まぁ、使役獣の需要と供給が、上手くマッチした結果だろう」
ナンの町半壊の余波を受けて未回収のままになっていたクエストを、丁度使役獣を探していた三人に、これ幸いと管理AIが押し付けた……という可能性も無くはない。
「今回は綺麗に収まりましたけど、使役職プレイヤーの人数とかによっては、ミミックジャガーとトラップスパイダーのどちらかが選ばれない可能性もあったんですよね?」
「あぁ、その場合も別に悄気たりはせず、これ幸いと逃げて行く設定になっていたけどな」




