第八十七章 トンの町 6.新参スキル奮戦録(その3)
「ふぅっ……どうにか撒いたか……?」
「ちょっとビート! 不用意な発言は控えてよ。フラグが立ったらどうすんのよ!」
「悪い悪い、けど大丈夫だろ。掲示板の情報でも……」
「お……おぃ……あ、あれ……」
「あ?」
「何よ?」
新人冒険者たちが仲間の指している方向に目を遣ると、そこにいたのは……
「「「「ろ……ろくろっ首!?」」」」
・・・・・・・・
咄嗟に拙いと思ったシュウイが、素早く身を隠してスキルを解除する。元の姿に戻るところは見られなかった筈だから、万一彼らに出会す事になっても、最低限の誤魔化しはできるだろう。とは言え、今は逃げるのが最善手であるのだが……
(う~……何だかこっちへ向かってるし、今は姿を見られるのが一番拙いよね)
謎の妖怪ろくろ首を討伐せんものと意気上がる新人たちは、手に手にボーラを振り回してこっちへ駈けて来る。鼻息を荒くして目の色を変えている姿が幻視できるようだ。
ちなみに、ボーラは取り扱いが簡単な割に効果が高いという事で、今や冒険者必携の狩猟具となっている。お蔭でナントはほくほく顔なのだが、それはさて措き――
ここは行方を晦ますのが一番と判断したシュウイは、素早くシルとマハラを回収すると、隠蔽系のスキルを発動させる事にした。
まずは【地味】か【隠蔽】か【擬態】かとスキルリストに目を遣った際に、ふと目に入ったのが【化石】というスキル。確か石に変わるスキルじゃなかったか……?
心に迷いが生じたのが悪かったのか、【擬態】を発動させようとしたつもりが、なぜか【化石】を発動させてしまう。
(あぁっ! しまった! ……けど、やり直してる時間が無い!)
既に新人たちの姿は目に見える距離にまで迫っている。もはやこれまでと肚を括ったシュウイは、そのまま【化石】に命運を託すのだが……
「ちっ……一体どこへ逃げやがった」
「ろくろ首なんて妖怪、実装されてたんだね……」
「今ちょっと調べてみたんだけど、河童が目撃された事もあるみたいよ」
「そっちは討伐済み?」
「ううん。一度目撃されただけで、その後は見つかってないみたい」
「んじゃ、俺たちがあのろくろ首を狩れば、SRO初の妖怪ハンターか?」
「おしっ! 気合いを入れて探すぞ!」
――と、新人たちがメートルを上げているその直ぐ脇に、当のシュウイがいたりする。
シュウイの主観ではただ動かずに立っているだけなのだが、他の人間からは石に見えるらしい。何しろ今も新人たちが、その岩に荷物を立てかけたりしているのだ。
ともあれ、姿を見られるという最悪の事態は避け得たようだが、問題は……
(……一向に立ち去る気配が無いんだよね、この連中……)
立ち去るどころか携帯食料まで取り出して、選りにも選って当のシュウイの目の前で、ろくろ首の討伐計画なんぞをぶち上げているのだ。誤解の結果とは言え、シュウイも内心では些かお冠であった。
このままでは埒が明かないと判断したシュウイは、本日三個目のニューカマースキルに頼る事にした。
(……これが自分に降りかかってくるのか、それとも連中に効果を及ぼすのかは判らないけど……膠着した事態が打開される事を祈って……【暴走】!)
自分が〝【暴走】する〟のか、或いはここにいる連中を〝【暴走】させる〟事になるのだろうと思っていたシュウイであったが、暴走の方向、もしくは目的地を指定するようにとのメッセージが出た事に戸惑う。しかし、迷っている時間は無いとばかりに、目の前に居座る新人たちに向けて暴走するよう設定したのだが……
――その瞬間、地獄が現れた。
書籍版の読者の方はお気付きでしょうが、新人冒険者の会話に出てくる河童のエピソードは、書籍版の挿話を踏まえたものです。その話では、シュウイが【通臂】を使用したところを冒険者に目撃され、河童と誤解される事になっていました。




