第八十四章 トンの町~その片隅で~ 4.瑞葉という少女(その4)
結局、NPC相手ならどうにか話せるという事で、トンの町の住人相手のお手伝いなどを引き受ける仕儀となり、どうにか糊口を凌ぐ事ができた。シュウイも受けた領主の庭師からの依頼クエストもどうにか熟したが、幸いにして彼女の園芸の知識が評価されたらしく、折に触れて依頼を出してもらえるようになったのは僥倖であったろう。尤も、手付きも足許も危なっかし過ぎるので、木に登っての剪定はさせられないという事で、専ら花壇の世話ばかりであったが。
結局、資金とスキルが不如意という事で、ナンの町に移動する事もできず、トンの町に居続ける事になっていた。そんな彼女の許にも、第二陣の参入の時には指導依頼が舞い込んだのであったが……この時は〝無理です、とてもできません〟と土下座する事で免除してもらっている。ギルドとしてもさすがに無茶振りだとの認識はあったらしく、この話はそれで沙汰止みとなった。
そんなこんなで引き籠もり……とまではいかないにせよ、プレイヤーとの交流はほぼ絶ったような状況にあったため、同じトンの町に住んでいながら、シュウイは瑞葉の事を知らなかったのであった。
ちなみに、瑞葉がこうも閉じ籠もりを決め込んだ責任の一端は、実はシュウイにあったりする。
珍しくも出歩いていた時に偶々シュウイの凶行――「大剣」ビッグの生体解剖――を目撃した事で、プレイヤーへの恐怖感がいや増したらしい。その日を境にプレイヤーとの関係遮断に拍車がかかり、今ではプレイヤーの姿を見ると隠れるまでに悪化していた。お蔭で【気配察知】と【隠密】を取得できたのは大きいが、これでスキル枠が完全に埋まったのも事実である。
その一方で、NPCの「住人」とは問題無く会話できるまでに改善していたのだから、差し引きで変化無しというところであろうか。ちなみに、リアルでは相手をNPCと思い込めば、当たり障りの無い挨拶程度なら熟せるようになって、親を安心させている。
……実際には安心していい状況ではないと思うが……
さて、そんな彼女の――ゲーム内における――日常はというと……
「う~ん……やっぱり駄目かぁ……」
難しい顔付きで彼女が睨んでいるのは小さな植木鉢。食べた後の果実の種を埋めておいたのだが、一向に発芽する気配が無いのである。
「【発芽】のスキルも使ってみたんだけどなぁ……なぜだかファンブル判定を受けちゃうし……」
【発芽】というスキルが存在する以上、プレイヤーが種子を発芽させる事ができる仕様になっている筈だ。なのに、それが不可能という事は……
「……何かの条件を満たしてないんだろうなぁ……【鑑定】してみても、種子は休眠扱いになってるし……」
種子が死んでいるから発芽しないというのなら、それはそれで納得できる。しかし現状は、種子の休眠を打破できないため発芽しないという事になっている。
つまり……
「種子としては発芽可能だが、その条件を満たしていない――って事だよねぇ……」
ここで面白いのは、種子ではなく市販されている苗であれば、問題無く育てる事ができるという事だろう。そうやって育てている鉢植えが、彼女が借りている部屋の窓辺に並んでいるが、何れもスクスクと育っている。
「挿し木とかも、現段階ではロック状態みたいだし……」
一度挿し木を試みたところ、《現時点では挿し木はロックされています》という表示が現れたのである。何かの条件を満たさないと解放されない仕様らしい。
ともあれ、当初予定していた畑ではないにせよ、一応は園芸と言えそうな事ができているので、まぁまぁ不満の無い生活を送っていたのであった。
・・・・・・・・
――そんな代わり映えのしない日常が、ある日を境に一転する事になった。知人からの一通のメールとともに。
「……あれ? カナちゃんからのメール……と、荷物? トレード画面で送って来たのかぁ……何だろ?」




