第八十四章 トンの町~その片隅で~ 1.瑞葉という少女(その1)
元々は「列伝」用に準備していたキャラとネタですが、本編に使う事にしました。
シュウイとその知人たち――運営管理室含む――がトンの町で賑々しく華々しくやらかしている頃、同じ町の片隅にひっそりとログインしてきた少女がいた。
少女の名は瑞葉。カナの……いや、要たちの友人の一人である。
今日もいつもと同じようにひっそりと静かな……そして少しばかり不本意な一日が始まるのだろうという彼女の予想は、ログイン早々に覆される事になった。
……それはもう、盛大な形で……
「……あれ? カナちゃんからのメール……と、荷物? トレード画面で送って来たのかぁ……何だろ?」
そう呟いて、とりあえずメールの内容を確認していたのであったが……
「……え? …………えぇ? ………………えぇえぇぇっ!?」
こぢんまりとした静かな部屋に、部屋の主の絶叫が響き渡ったのであった。
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ここで少し長くなるが、話の主人公となる少女の事を説明しておこう。
SRO内で瑞葉と名告っているこの少女は、リアルでは大変な人見知り……と言うか、対人恐怖症に近いレベルで人付き合いが苦手であった。登校拒否に陥っていないのが褒められるレベルである。
見るに見かねた両親が、リハビリのつもりでSROを買い与えたのであったが……案に相違して彼女はこれを、より一層進んだ引き籠もりのためのツールとして活用しようとしたのであった。
間一髪のところでそれに気付いた両親と、数少ない友人――要と茜はその稀なる二人――の説得もあって、SRO内で引き籠もる事は断念させたものの、では何をやればいいのかという話になった。
幾らゲームの中だと言って、年季の入った人見知り引き籠もりが、急に社交的外交的になれる筈も無い。本人としては人気の無い山奥に引き籠もって――といきたいところだろうが、残念ながらこのゲーム内での山奥というのは、モンスターの跳梁跋扈する危険域であって、ズブの初心者が入って行けるような場所ではない。よって町中に住まうしか無く、リアルと違って買い物をしてくれる親もいないのだから、必然的に住人と関わりを持たざるを得まい――というのが両親の狙いであったらしい。
町の住人はNPCだから怖くない――と説得されて渋々同意したはいいが、では、そうまでして住む事になる町で何をすればいいのか?
少女としては、そこまでの代償を払ってログインする以上、自分がやりたい事、しかもリアルではできない事を存分に楽しみたい……
――そう考えた少女が選んだのが園芸であった。
リアルでは花壇や畑とは無縁のアパート暮らしでありながら、彼女は園芸にただならぬ熱情を抱いていた。毎年長期の休みには、田舎暮らしの祖母の許を訪ねるのが何よりの楽しみで、事ある毎に庭付きの家に引っ越そうと言っては両親を困惑させる毎日であった。実は欠かさず学校に行くのも、学校の花壇が目当てであったりする。
そんな彼女であるからして、ゲームの中に【木魔法】なるものがあると聞いた途端、その他一切の情報を耳からシャットアウトして、このVRゲームへの参加を決めたのであった。
……そんな彼女が早々にやらかしたのは、キャラクタークリエイトの場面であった。




