第八十三章 トンの町 19.新人たちの相談(その3)
「「う~ん……」」
一通り店を見て廻った二人であったが、
「……調味料は意外とすぐに手に入ったよね」
「あんまり入荷しないから、基本的に『異邦人』には売ってない――って設定だったみたいですね。僕らはシュウイ先輩とナントさん、バランドさんの紹介もあるから特別枠で売ってもらえたみたいですけど……」
「あんまり触れ廻らないでくれって、釘を刺されちゃったよね」
期せずして、調味料の情報が広がっていない理由を知った二人であった。
「そっちはともかく……調理道具が意外に揃いませんでしたよね」
「普通に家庭で使う分は置いてるんだけどね」
当てが外れたのは、野営用の調理器具であった。
「……言われてみれば……普通に生活してる限り、野営の調理道具なんか使わないよね……」
「ギルドで売ってるプレイヤー向けのものしか、無いって事ですよね……」
シュウイのサジェスチョンを容れて、少しでも品質の良いものを入手できればと思った二人であったが、その目論見は早々に潰えた形であった。
「せめてコッヘルみたいな携行性の高いものがあれば――と思ったんですけど……」
「プレイヤーメイドのものって無いのかな?」
「造ってるプレイヤーがいないか、いたとしてもトンの町を出て行ったか」
「……βプレイヤーの鍛冶師の人がいるって、姉から聞いたんだけど……」
「その人、基本的に刀鍛冶で、鍋釜とかは造ってないみたいですよ?」
「そうなんだ……」
二人がこうまで調理道具、それも携行性の高いものについて気にしているのは、もうじきそれが必要になりそうな気がしているからであった。
モック向けの指導クエスト「技芸神への奉納」が発生した以上、遠からず件の場所へ向かう事は確定したようなものである。そうである以上、旅や野営の用意を整えておく事は必要な訳であった。
「まぁ、その前に中間テストがある訳ですけどね」
「気が滅入るから、その話題は止めようよ……」
「いえ……出発にはまだ時間があるって言いたかったんですけど……」
「でも、さすがにいきなり旅立つなんてハードルの高い真似はしないんじゃないかな? その前に、フィールドで昼食を作るくらいから始めるんじゃないの?」
「……ありそうですね。……だったら、できるだけ早く用意した方が良いのかな?」
「一度実地で試してみてからの方が良さそうな気がする。誰か経験者に訊くのが良いんだろうけど……ウチの姉、この手の事では役に立たないからなぁ」
不名誉な事に、SRO屈指のメシマズパーティの名を恣にしている「ワイルドフラワー」。そのメンバーである姉の事を思い浮かべて顔を顰めるエンジュであったが……実際のところ、中世ヨーロッパレベルの道具縛りという悪条件の下では、多少の自炊経験など焼け石に水である。いや、仮にキャンプの経験があったとしても、便利な道具がほとんど無いという条件下では、さして目覚ましい働きは期待できないだろう。必要なのはキャンプの知識や経験ではなく、サバイバルのそれなのだ。
「……プレイヤーだと、どのみち団栗の背比べじゃないでしょうか。寧ろこっちの世界の……ギルドの職員さんとかに訊いた方が良いかも」
「……そうだね。そうしてみよう」
当面の目標が決まった二人は、その足を冒険者ギルドへと向けるのであった。




