第七十九章 運営管理室(その2)
……再びどんよりした空気が漂い始めた中、
「使役獣の好感度上昇に関連する情報については、どのみち早い時期に明かされる予定だったからな。予定どおりと言えない事もない。……あぁ、そう言えば……」
――と、木檜は思い出したように付け加える。
「……戀水を締め上げて訊き出してきたが……予想が当たったぞ。マスクデータも確認してみたんだが、あの幻獣の好感度は凄い勢いで上がっていた。……戀水のやつは喜んでいたが……」
スタッフたちが何とも言いがたい表情を浮かべる中、徳佐が言うには、
「まぁ、こんな序盤で幻獣とその主人が不仲になったりしたら、そっちの方が面倒です。ここは順調と考えるべきじゃないですか?」
「……そうだな。……そう考えた方が、精神衛生の上でも好いか……」
力業で――という気がしなくもないが、取り敢えず現状を前向きに捉える事にする。
「残る問題は付喪神ですが……」
「これはなぁ……あの杖の経験値が貯まってしまったせいだから、仕方が無いとしか……」
付喪神システム。それはSROに仕掛けられたギミックの一つである。
永く使用している道具に魂魄が宿り、道具自体の性能を補正するシステム。同じ道具を長期間使用していると道具にレベルが存在するようになり、レベルが上がった道具は付喪神に進化する可能性が生まれる――というものであった。
「同じ道具を続けて使用――というのがトラップのつもりだったんだが……」
「中盤くらいまでは、プレイヤーは道具を順次良いものに更新するだろうと読んでいましたからねぇ……性能の高い道具を使ってクエストをクリアしないと、先には進めない筈でしたから」
「終盤まで更新の必要が無い武器とか、出るのはもっと先に予定してましたからね」
「例外はβプレイヤーの特典武器とかだが……経験値はリセットしてあるし、序盤のモンスターが相手だと、却ってコスパが悪くなるように設定してあるからな」
「実際、特典武器を標準装備にしているβプレイヤーはいないみたいだし」
βプレイヤー対策は万全であったが、想定外への対策が不充分であった。
「意地悪く、低レベルの道具を大事に使った場合ほど付喪神が宿り易くなるようにしたのが……完全に裏目に出たな」
「低レベルの武器ではモンスター相手には苦しい、従って経験値は入りにくく、必然的に付喪神化しにくい……という予想だったんだが……」
そんな甘い想定など、易々と覆すのがシュウイである。
「裏を掻いたつもりが……更にその斜め上を突っ走ってくれましたから……」
スキルコレクターのせいで戦闘スキルが得られなかったシュウイは、持ち前のパーソナルスキルで杖術を駆使してモンスターを狩ったため、彼の主武器である杖――何の変哲も無いただの木の棒――が異様なまでの戦果を挙げる事になり、結果として貯め込んだ経験値の御利益で、短時間のうちに付喪神へと成長する運びになったのである。
「あの少年の杖はまだ覚醒してはいないようだが、それも時間の問題だな」
「問題と言うなら……本当の問題は、付喪神の情報が一般プレイヤーに流された場合だろう。プレイヤー全体の行動が変化するぞ?」
「当初想定していた流れは、完全にひっくり返された。今後の計画を見直す必要があるだろう。……それは俺たちの仕事じゃないのが救いだな」
「いや待て、計画を見直すと言っても、あの少年の動きが読めない以上、シミュレーションなどできんだろう」
「『スキルコレクター』の行動パターンのデータを寄越せと、こっちにお鉢が廻って来るかもしれん訳か……」
どう転んでも面倒事から逃げられそうにない事を悟り、溜息を吐いて項垂れるスタッフたちであった。




