第七十八章 「キャプテン」 17.サンチェスさんの従魔学講座~実習篇~(その4)
サンチェスの説明を聞いて、スライムの評価を大幅に引き揚げた「ワイルドフラワー」の面々。目の色を変えてスライムを見つけ出さんものと力むのであったが……
「……物欲センサーとは能く言ったものね……」
「街の近くだと簡単に見つかるのに……」
野生のスライムとは斯くも見つけにくいものかと、心が折れそうになる一同。
「……いえ……警戒能力が高いからこそ、私たちの目を掻い潜ってるんだと思う」
そう言ったカナは既にサンチェスと契約した身ではあるが、スライムの探索には加わっている。
「……だね。寧ろこの困難さは、スライムの能力の高い証。……そうでも考えなくちゃ、やってられないよ」
「――お、変なスライムがいたぞ?」
「「「「「どこっっ!?」」」」」
お約束と言うか、あっさりとスライムを見つけ出したのは、従魔には露ほども関心の無いタクマであった。何気無く朽ち木を蹴飛ばしたら、その下に隠れていたらしい。
血走った目をしたエリンが【テイム】を、ミモザとサフランが【サモン】を――後者の二人はシュウイに肖ろうとしたらしい――仕掛けるが、スライムはプルプルと震えるばかり。今にも泣きそうな雰囲気である。
「ん~……怖がってるんじゃないかな?」
そう言ったセンは何を思ったか寝転がると、スライムと同じ目線で話しかける。
「怖がんなくていいよ~。食べる?」
自分のアイテムバッグからなけなしのドライフルーツを取り出すと、一切れを自分の口に含んで安全性をアピールした上で、それをスライムにそっと差し出す。と――スライムは暫く躊躇していたが、やがて怖ず怖ずと触手を伸ばしてそれを受け取った。スライムが落ち着いた頃合いを見計らって、センが小さく「テイム?」と呟くと……スライムの身体が光に覆われ――
「あ、成功したみたい」
スライムはつぶらな瞳でセンを見上げていた。
「ね、ねぇセン、今更だけど……能く見るとその子、眼があるみたいに見えるんだけど……」
躊躇いがちに声を掛けたエリンであったが、
「おぅ。だから変なスライムって言ったろ?」
あっさりとタクマが切って捨てた。
「ちょっと拝見を……ほほぅ……複核持ちの特異個体ですな」
「「「「「「「複核持ち?」」」」」」」
「ワイルドフラワー」の面々だけでなく、タクマとシュウイも怪訝そうな声を上げた。聞けばスライムに稀に見られる変異個体で、通常一個である筈の核を二個以上持ったものだという。
「この個体の場合は、二個の核が同じくらいの大きさなので、丁度目のように見える訳ですな。普通はどちらかが小さいものなのですが」
「えぇと……サンチェス? その複核持ちというのは、普通のスライムとは何か違うの?」
主人であるカナがサンチェスに訊ねたところ、
「あくまで一般的にですが、複核持ちは概して能力が高い傾向がありますな。二倍とまではいきませんが」
「可愛いから問題無し!」
可愛いは正義、それ以外は不要――とばかりに、センが議論の打ち切りを宣言した。
「まぁ、センがいいならそれでいいけどさ」
取り敢えず、警戒役としてスライムをテイムするというミッションはクリアできたようだ。




