第七十八章 「キャプテン」 16.サンチェスさんの従魔学講座~実習篇~(その3)
警戒能力というならスライム――と聞いて訝る一同。
あんな目も耳も鼻も無いようなモンスターに、警戒役など務まるのか?
「簡単に見つけられて簡単に斃せる――って事は、警戒能力なんか無いんじゃないの?」
「お嬢様方がお考えなのは、人里近くにいるスライムですな? あんなやつらは論外です。世間知らずの青二才か、堕落した生活を送っている連中ですからな」
「堕落……青二才……」
およそスライムには似つかわしくない形容詞である。
「ねぇねぇ船長さん。この近所のスライムは違うの?」
「この近在と申しますか、森の中にいる魔獣は、仮令スライムでも一味違いますな。警戒心も隠形の能力も高いです」
サンチェスがあまりにさらりと話すので、皆もさらりと聞き流しそうになったが……これはそう軽々にスルーできる内容ではない。
「……つまり……同じ種類のモンスターでも、個体差があるって事よね?」
「それも、棲んでいる環境で能力まで異なるって……」
「そこまで気にしてるプレイヤーって、いるかしら?」
「個性の違いには気付いていそうだけど……」
サンチェスと知り合って以来、立て続けに爆弾情報を押し付けられているような気がする。今まではシュウイの役どころだったのだが……
「……何か……従魔もいないのに、偉そうな事ばかり言ってるような気が……」
「重要なのは確かだし、知った者の義務なんじゃないの?」
ぬけぬけとした表情で正論を吐くシュウイが恨めしい。
「……報告は後廻しにして、スライムに話を戻しましょう。この辺りで見つかるスライムは、警戒役をこなせそうなのね?」
「然様です。一般的に言いまして、弱い生き物ほど警戒能力は高いというのが常ですからな」
「成る程……」
「言われてみれば……」
サンチェスの説明を聞き、ウンウンと頷いて納得する一同。
そして――気が緩んだ頃合いを見計らって爆弾を投下するのが、サンチェスという曲者であった。
「それに、弱いモンスターほど育成の仕方次第で化けますからな」
またしてもさり気無く放たれた爆弾発言に、ギョッとした様子で振り返る一同。
「育成の仕方……?」
「例えば餌などですな」
「「「「あぁ!」」」」
この時シュウイとカナ、そしてタクマとセンの脳裏には、ズートの葉の事が思い浮かんでいた。
ツリーフェットたちの言うところでは、ズートの葉には生き物やモンスターの能力を向上させる効果があるらしい。これはズートの葉に限った事ではなく、押し並べてレア度の高いものを与えれば、モンスターの能力は強化されるのだそうだ。ただ、元から強力なモンスターではその効果は目に付きにくく、逆に弱いモンスターでは強化の効果がはっきりと出るらしい。
そうと判ればズートの葉を融通してほしいところだが、シュウイが貰ったような毒の無いズートの葉は、【錬金術】や【調薬】の素材として珍重されるらしい。マハラとシルに餌として与えるつもりのようだから、貰えるかどうかは微妙である。
(……種子を貰って、自前で育てた方が良いのかしら。……そう言えばあの子、栽培スキルを取ったって言ってたわよね……)
カナが【栽培】持ちの知人の事に思いを馳せている傍らで、サンチェスはまたしてもさらりと小型爆弾を放り出す。
「それに雑食のスライムは、餌代という点でも懐に優しいですからな」
「餌代……」
「すっかり忘れてた……」
餌付けと召喚契約の話題で盛り上がっておきながら、餌代の事まで気が回らなかったらしい。ウンウンと頷いているシュウイ――子亀と幼虫の飼い主――を見て、猛獣系のモンスターと契約するのは難しいのだろうか――などと考える「ワイルドフラワー」であった。




