第七十八章 「キャプテン」 10.運営管理室(その3)
「結局はノンレアスキルを拾っただけか……」
「……少なくとも、新規参入組に不利益は無かった筈だ。あの少年にしても、得る事のできなかった【鑑定】スキルが入手できて、重畳といったところだろう」
「ババを引いたのは俺たちだけかよ……」
「不審に思われてはいないのか?」
「不利益を被った訳ではないし、余計な詮索はしない事にしたようだな」
「疑われなかっただけマシと思う事にしよう……」
深い溜め息を吐いた一同に向かって、
「あのぉ~……トンの町のレアスキルはどうしますかぁ? まだ絞りますぅ?」
間延びした声で質問を投げかけたのは、スタッフの中の紅一点、一言夕子であった。
一同、一層深い無力感に囚われつつ――
「……いや、通常の状態に戻そう。運営上の利点が得られなかった以上、あまり恣意的な操作を続けるのは望ましくない」
「今ならまだ微調整の範囲だと言い抜ける事ができるだろうしな」
「それ以前に――これ以上あの少年が有用スキルを得て強化されるのは拙いだろう」
――という事で、運営管理室の実験は、ひっそりと終熄を迎えたのであった。
「……それにしても、何でまた【鑑定】なんて有用スキルを拾ったんだ?」
「単純に考えれば、捨てられていたんだろうが……」
【鑑定】は早期に取得が推奨されているスキルであり、これが捨てられるような事は考えにくい。スロット枠の制限に引っかかったとしても、他のスキルが先に捨てられそうなものだ。
「……何か想定外の事態でも起こっているのか?」
「……おぃ……余計なフラグを立てるんじゃない」
「かと言って、放っておく訳にもいかんだろう。異変を見逃すような事になっては、管理室の責任を問われるぞ」
「彼が拾った【鑑定】の来歴を追跡できないか?」
「……一応やってはみるが……当てにせんでくれ……」
スタッフの一人が苦心惨憺悪戦苦闘孤軍奮闘していたが、やがてその甲斐あって探り出した事情とは……
「……二つ目の【鑑定】を拾ったのか……」
「……確かにあり得ない事ではないな……」
「同じスキルを二つ持っている事による利益と弊害は何だ?」
「利点としては……【鑑定】はどうだか知らんが、【警戒】とかでは新たなオプションを取得できた筈だ。レベルが上がればWになるかもしれん……あの少年の【素材鑑定W】のようにな」
「成る程……弊害は?」
「これはもう、成長速度が低下する事に尽きるな。スキルが成長するための経験値が、二分されて振り分けられるせいなんだが……」
「それを嫌って捨てられた訳か……」
う~むと納得した一同であったが、
「……待て。重複取得を嫌ってスキルが捨てられるという事は……」
「……今後もあの少年がそれらを拾う可能性は無視できんな……」
「【素材鑑定W】の再来という事か?」
「レアスキルであればそういう事にはなりにくいだろうが……」
暫く黙っていた一同であったが……シュウイにはレアスキルを与えておいた方が、まだしも問題が無いだろうという結論に落ち着いたようである。
「で……他にはどんなスキルを拾ったんだ?」
「……他にもノンレアスキルを拾っているなんて事は無いだろうな……?」
戦々恐々としてリストを確認した一同であったが……
「……相変わらず、微妙なスキルばかり拾ってるなぁ……」
「使い方によっては絶大な効果を発揮するんだが……」
「何気に物議を醸しそうなスキルも拾ってるな……」
「いつかは登場すると思ってたんだが……彼が入手したか。……使うと思うか?」
「愚問だな。彼には使う以外の選択肢は無いだろう」
「阿鼻叫喚が幻視できるような気がするな……」




