第七十三章 トンの町 7.ズートの実(その2)
「いや……ご厚意はありがたいのだが……自分まで呼んでもらっていいのだろうか?」
「気にするでない」
「……どちらかと言えば、共犯者として巻き込まれてほしいというのが本音なんだけどね……」
「成る程……そういう事なら……」
「人聞きが悪いなぁ……ただのお裾分けですよ?」
シュウイとしては、試食よりもその後の種子の植え付けの方が本命である。実はそのための手数料のようなものだ。テムジンにはその辺りの事情を改めて説明しておく。
「……成る程、そういう事情であるなら承知した。幸か不幸か自分の工房には庭が付随しているし、知らぬ顔で植えておけば当分は気付かれないだろう」
戴きものをして「不幸」呼ばわりはどうかと思うが、本人はついぞ気付いていないようだ。――と、いう事は、テムジンの本音がつい漏れたという事なのだろう。幸い、シュウイの方も本音云々のところまでは気付いていないようであったが。
「うちの店の裏にも小庭はあるけど、そこで大丈夫かな? 防犯のために塀で囲ってあるから人目には付かないと思うけど」
「ここの裏にも庭があるが、薬草だのなんだのが植わっておるし、それに混じっておれば気付かれんじゃろう……当分は」
「えーと……何か面倒が起きそうなら、無理にとは言いませんけど……」
「いや、自分としては巻き込まれてみたいな。こういうのもゲーム……旅の醍醐味だろう」
「僕の方も同じだね。と言うか、領主様に献上するんだから今更だろうし」
日当たりの条件を確認して、問題は無さそうだと判断したシュウイが、人数分のズートの実を切り分ける。各自に種子を渡そうという配慮であったが……
「……うわ……小さな種子がたくさん……」
「……シュウイ君、鳥撒布種子だっていうなら、抑種子がそんなに大きい筈は無いよね?」
「……言われてみればそうですね……」
とりあえず【錬金術】の【分離】で種子を果肉から取り出したシュウイは、訝しげな様子のバランドとテムジンに説明を始める。鳥撒布種子は、鳥類の消化管内で果肉が取り去られる事で発芽率が高まるのだと。
「……成る程。そういう事であれば、儂が【分離】しておいたものも渡しておいた方が良いじゃろうな」
確かに、駆け出しのシュウイと特級薬師のバランドでは、習熟の度合いが大きく違う。検証のためには両方試しておいた方がいいだろう。
「僕としてはあまり差は無いような気もするけどね。ツリーフェットを通してズートの親木がシュウイ君に依頼してきたというからには、シュウイ君ならできると判断しての事だろうし」
――という、ナントの意見もまた説得力のあるものではあったが。
「……ほほぉ……ズートの実は以前にも食した事があるが……これは一際美味いようじゃな」
「あ、そうなんですか?」
「うむ。以前に食したのは結構長く店晒しされておったものじゃしな。新鮮さというやつが違うのじゃろう」
「これだけの味なら、領主様も満足してくれそうな気がするね」
「ふむ。味の方は上々だが……特に効果は付かないようだな。素材としてはどうなんだね?」
「えぇと……葉は【錬金術】と【調薬】の素材になるみたいですけど、僕のレベルじゃ遠いですね。実は特に何もないみたいです。普通に食材ですね」
「食材か……人間でなくとも美味く感じるようだな」
そういうテムジンの視線の先には、夢中になって実を食べているシルと……果肉をそっちのけで皮の方に齧り付いているマハラの姿があった。
「幻獣を従魔にしていると聞いた時も驚いたが……怪我をした幼虫を助けるために召喚契約をしたとはな」
「え? でも、僕たちの争いが原因なんだから、フォローするのは当然じゃありません?」
心外といった表情で言われてみれば、反駁するのは難しい。道理とか道義としては、シュウイの方に軍配が上がるのかもしれない。ただ、普通のプレイヤーはそんな事をしないだけである。
「まぁ、それはいいんじゃないかな。……シュウイ君のする事だし」
「……それもそうか……」
「そうじゃのぅ」
理解してもらえたのはありがたいが、その口調に何やら釈然としにくいものを覚えるシュウイ。
「まぁ、デスヘッドは成虫になれば結構手強いモンスターだし、強化できるっていうんなら、試してみてもいいんじゃないかな」
「はい、そうします」




