第六十八章 追捕クエスト第一幕~「マックス」~ 1.とある村
「……おい、ここって……」
「あぁ……間違いなく未開放の場所だな……」
「リーダー、確かにここだって言われたんだよな?」
困惑と期待、そして不安を綯い交ぜにしたような声を出しているのは「マックス」のメンバーたちである。
「間違い無いって。……大体、道を間違えて未開放の場所に着くなんて事が、ある訳無いだろうが」
「……それもそうか」
――と、納得しているメンバーたちだが、【迷子】という壊れスキルによって既にスーファンの町に辿り着いたプレイヤーがいると知ったら、どんな顔をするであろうか。独りその事を知っているタクマは、素知らぬ顔を決め込んでいるが。
「そうなると……これはいよいよ開放クエストの線が濃くなったな」
「クエストクリアーでこの町が開放されるって事か?」
「けどよ……何っつぅか……ナンの次の町にしちゃ小さくないか?」
「途中の宿場町という事じゃないか? ……いや……それにしても小さいか?」
「町というより村って感じだよな」
一同首を傾げたものの、とりあえずその事は後回しにする。手配犯を捕まえてクエストをクリアーすれば、どのみち判る事だ。
「……で、どうするよ?」
「結構面倒な状況だったよなぁ」
捕縛を依頼された脱走犯がこの町に潜んでいるのは確からしい。既にギルドのメンバーが、先行して潜入捜査に当たっているという。目立つ動きをすると脱走犯に気取られる虞があるので、独自に動く場合は注意しろと言われている。
ギルドから受けた依頼はあくまで脱走犯の「捕縛」なので、殺してしまっては依頼は失敗扱いになる。更に面倒な事に、脱走犯は魔法避けの防具か何かを着用しているらしく、魔法による攻撃は効果が無いらしい。
「つまり、魔法でなく物理でとっ捕まえなきゃならん訳だな」
「それもできるだけ無傷でな。多少の怪我ぐらいは仕方ないが、傷付けない方が良い値が付くらしい」
「……何だか狩りの獲物みたいだな」
「マンハントの対象なんだから、獲物っていうのも間違っちゃいないわな」
「やっぱり、捕縛系のスキルが受注の条件か」
「だろうな。タクマは取得したんだよな? 【捕り手術】」
「あぁ。ここへ来る前に【介者剣術】に進化させたけどな」
歌枕流の捕り手術も――体捌きなどを少しSRO仕様に合わせる必要はあるが――特に問題無く使えたという事を蒐一から聞いた匠は、放課後に歌枕流捕り手術のお復習いを受けた上で、取得した【捕り手術】を【介者剣術】に進化させていた。【捕り手術】取得早々に発生したクエストなので、それほど難しい技倆を要求されないだろうという判断と、先々の事を考えると戦闘能力を高めた方が良いだろうという判断の結果である。対人戦闘スキルが次の町を開放する必要条件だとすると、それは要するに今以上の対人戦スキルが必要になるという事であり、
「人型モンスターの強化――か」
「今までにもゴブリンやオークとかは出てきたけどな、ここで敢えて対人戦を強調してくる事を考えると、魔法無効の人型モンスター、それも格闘戦を得意とするようなのが出てくるんじゃないのか?」
「もしくは、敵対的なNPCとかな」
「ダチが言うには、トンの町でも対人戦の訓練はできたそうだけどな。ただ、その時の教官が、先へ進むなら対人戦スキルが必要になるみたいな事を言ってたらしいんだわ」
正確には、トンの町周辺ではまだ必要の無い技術――と言ったのだが、主旨としては間違っていない。
「……ヒントは最初から用意してあったって事か」
「けど、掲示板とかにゃ流れてなかったよな?」
「抑、対人戦闘の訓練を受けたヤツがいるのかどうか」
「聞いても気付かなかったのかもしれんしな」
「この話はこのくらいにしとこう。それより、これからどうする?」
壁役の発言に、ふむと考え込む一同。
「……ギルドの話じゃ、先行して潜入捜査をしている者からの連絡を待てって事だったよな? それまではあまり目立つ事はするなと?」
そういうサントの視線は魔術師に向けられている。――正しくは、その頭上に機嫌好く鎮座している小さなフクロウに。
「……目立たない――ってのは、もう無理なんじゃないか?」
「ここへ来るまでにも、あちこちでチラチラ見られてたよな」
口々に指摘するメンバーに、憮然とした表情と声でマギルが答える。
「……仕方がないだろう。ログインした途端に、従魔が召喚されたがっている、召喚しないと好感度が下がる――というメッセージが出たんだぞ?」
マギルの答えにうわぁと引いた感じの一同。
「……まぁ、そういうメッセージが出たって事は、そのチビの召喚はこのクエストには影響しないって事でいいんじゃないか? 運営だってそこまで鬼畜じゃあるまい」
「だな。そんな罠を仕掛けたら、モフモフ党から非難が殺到しそうだ」
「んじゃ……とりあえず宿を決めて、窓に合図を下げとくか?」
「そうだな。しかし……合図が〝窓に笠を下げておく〟――って……」
「どっかの時代劇に出てきそうなシチュだよなぁ……」




