第五十九章 トンの町 3.運営管理室
「どういう事だ!?」
「初級を取得したのに、解放されたレシピは二種類だけなのか!?」
「なぜだ!」
運営管理室はまたしても怒号の中にあった。
「え、えぇと……【分離】とか【抽出】とかは制限無くできるみたいですけど……」
「当たり前だ! そんな単純なものはレシピとは言わん!」
「複数の手順を経て作成するレシピはどうなんだ!?」
「……やっぱり、あの二種類のポーションだけですね……」
頭を抱えたスタッフたちは、中嶌を解放すると、今度は大楽に詰め寄った。
「大楽、どうなってるんだ?」
「待て、今、徳佐が『語録』を見てるはずだ」
「徳佐!」
「『亘理語録』には何て書いてあるんだ!?」
「亘理語録」……それは、彼の行方を辿る事もできず、邪道アーツの詳細を調べるのも道半ばの運営スタッフが、次善、いや三善の策として纏めた、在社中の亘理の言動を収録したデータベースである。こんな妙な事を言い出したのが誰かは判っていない――いい加減ハイになっていた誰かだろうとは思うが、多分本人も憶えていない――が、怪しげなその名称に反して、案外に使える手引き書となっていた。
「待ってくれ……これかな? 〝見慣れた筈のものも、視点を変えてみると新鮮に見える事がある。プログラムでも、以前に作ったものとは別のプロトコルで作ってみると、思いがけない発見がある〟……」
「…………」
「他に……無いか……?」
「……あぁ、こういうのもあるな。〝ピタゴラスの定理も、その証明法は何通りもある。既に判っている事実を、敢えて別の解釈で証明するというのは、知的遊戯としてもエレガントなものではないか〟……」
「……何がエレガントだ……」
「つまり……これって……」
「以前に作った事のあるものについてだけ、【調薬(邪道)】とか【錬金術(邪道)】の初級で作るレシピが解放される、って事ですかぁ?」
朗らかな声で一同に留めを刺した――と言うか、介錯を行なった――のは、新たに配属された新人の一言夕子。周りから「一言多い子」と認識されている(一応)才媛であった。
その声にがっくりと頽れるスタッフたち。
何しろシュウイは調薬も錬金術もほぼ初心者。つまり、作れるレシピが元々少ない。従って、折角取得した【調薬(邪道)】でも、作れるレシピはほとんど無い。まして、シュウイが収奪する激レア素材を使ったレシピなど、入手するのはいつの事になるか……
「……何だってそんな仕組みにしたんだ、亘理のやつは!?」
「……元々、邪道スキルは普通の調薬や錬金術の上位互換っぽかったしな。取得者が初心者だなんて事態は想定しなかったんだろうよ……」
「どうする……? このままでは俺たちの目論見が……」
「根底から崩れるな」
しれっと言い放った徳佐に一同が殺気の籠もった眼を向けるが……
「俺たちは既にルビコン川を渡ったんだ。それを肝に銘じて、何か打開策を考えるしか無いだろう」
この男は不貞不貞しく言い放つのであった。




