第五十七章 ナンの町 3.「ワイルドフラワー」(その3)
「……良い勘をしてるな、この女の子」
「彼女も『トリックスター』の知人ですよ」
「またか……なんだってこう、彼を中心にストーリーが進むんだ……?」
「特異点か何かですかね……木檜さん?」
「いや……『トリックスター』にそんな効果は無い筈だが……」
「ワイルドフラワー」の弟子入りクエストの進み具合をモニターしているのは、運営管理室のスタッフたちである。言い換えると、運営管理室が気にする程度には、「ワイルドフラワー」の弟子入りクエストは重要なクエストなのであった。
「身体を動かす感覚の再現とその習得、それがSROの目標の一つな訳だが……」
「【魔力操作】は、言うなればその最も漠然としたケースになるんですよね?」
「あぁ。身体を動かすのと違い、目に見えないものを動かす感覚を、果たしてプレイヤーがどの程度身に付ける事ができるか……クローズドβでは中々難しいという結果になったからな」
「あの後でかなり修正と改良が入っていますが……」
「一般のプレイヤーがどの程度使いこなせるか、それが問題だからな」
「一般プレイヤーに混じって参加しているモニターからの報告では、普通の身体スキルは良い結果を出してるんでしょう?」
「だが、あくまで既知の動きが洗練される程度のレベルらしい。全く未知の動きの感覚を、あるいは身体の動かし方を修得できるかどうか、その試金石みたいなものだからな、これは」
「とても大っぴらにできない裏事情ですね……」
「だが、上の方としては、SROの意義はまさにそこにあるという認識だからな」
「木檜さんはどうなんです?」
「ゲーム好きが面白いゲームを作る、それ以外に何があると思うんだ?」
・・・・・・・・
「……ねぇ、カナ。使役魔術の次の段階って、どういうもんなのかな?」
何やら考え込んでいたエリン――「ワイルドフラワー」のリーダー――が、怖ず怖ずといった様子で口を挟む。
「……『呪縛』みたいな事を心配してるのかしら?」
「あぁ……いや、あたしたちがどうこうっていうんじゃなくてさ……」
「そういう能力を持つ敵が解放されないか――って事よね?」
「そう。無いとは言えないだろ?」
エリンの懸念を聞いたカナはしばらく考えていたが
「……そうね。私も無いとは言えないと思う。けど、ゲームバランスという視点で考えてみると、そういう敵が出てくるのはもっと先……少なくとも、『次の段階』に至ったプレイヤーが複数と、『呪縛(仮称)』を得たプレイヤーが現れて後の事でしょうね」
「う~ん……カナ、【魔力操作】のコツを教えるのって、あたしたちにできると思う?」
「……どうかしらね。少なくとも、現状で【魔力操作】の課題をクリアーできてない私がどうこう言える立場じゃないとは思うけど」
「あ……うん……御免……」
「まったく……リーダーは相変わらず『失言大姉』ね」
「大姉っていうより大姐だけどね」
「ちょっ!?」
「リーダーが言いたいのは、この手の弟子入りクエストが、そこまで頻繁に発生するかどうかって事よね?」
「……言いたい事は他にもあるけど……とりあえずは、そう」
バーバラの弟子入りクエストの発生条件は
・使役術系のアーツを持っている。
・住民の従魔術師・召喚術師・死霊術師の、少なくとも一人と会話した事がある。
・使役術系のアーツを持つ知り合い(パーティメンバー以外)がいる。
の三つであるが、三番目の条件は――運営の予想を裏切って――難しくはない。SRO内での不遇を自覚している使役術系のプレイヤーは、互いに連絡を取り合って、使役職解放を目的とした一種のギルドを作っていたのである。なので大抵のメンバーは顔見知りなのであった。
ただ……このクエストを最初に受けたのが、プロパーの使役職でないという点は、やはり運営の予想を裏切っていたが。




