第五十六章 運営管理室 1.奪われたレアスキル
運営管理室の面々は、本日何度目かになる心因性の頭痛に襲われていた。
「【迷子】でスーファンの宿場町に飛んだだけでなく……」
「街道開放クエストを想定外の方法でクリアーして……」
「挙げ句にレアスキルを根刮ぎか……」
さすがに今回は、木檜からも擁護の声は上がらない。代わりに、スタッフを宥める声がかけられた。
「まぁ、クエストは一応無効と判断されたようだし……」
「当然です! あんな非常識で再現性の無い方法、運営として認める訳にはいきません!」
木檜の発言を途中でぶった切って言い募る大楽。
その様子に苦笑を隠そうともせず、遮られた言葉を続ける木檜。
「トンの町にいる薬師のAIが、良い仕事をしてくれた。上手く結末を付けたじゃないか」
「まぁ……その点は認めるに吝かではありませんが……」
渋々と言った感じで同意する大楽であったが、そんな収まりの付きそうな空気を読まずに割って入るのが、徳佐という男である。
「それはそれとして、根刮ぎにされたレアスキルの方をどうにかしないと拙いと思うけど……」
「あぁ……それもあったな……」
「中嶌、持って行かれたスキルは何だ?」
「あ、はい……」
中嶌がログを確認したところ、シュウイに根刮ぎにされたのは……
・【福笑い】 笑うと幸運値が微上昇。作り笑い不可。
・【掘り出し物】 獲得したアイテムなどが値打ちものである確率微上昇。
・【堆肥作り】 付近の有機物を堆肥化する。
・【ろくろ首】 首が伸びる。偵察に便利。
・【メビウスの壁】 塀の表と裏を往き来できる壁抜けスキル。
・【整理整頓】 片付け物が上手になる。
「――ちょっと待て! 【メビウスの壁】だと!?」
「馬鹿な! 空間魔法のトリガースキルじゃないか!!」
「何だってそんなスキルを置いていた!?」
「あの少年があんな反則な方法で来るなんて、誰が予想できるんだ! 運営としては役立つスキルもセットしておかなきゃ拙いだろうが!」
唖然とした後に逆上して喚き立てるスタッフたちであったが、それをチーフの木檜が一喝する。
「落ち着け! 【空間魔法(初級)】を獲得するためには、空間魔法の属性が設定されたスキルを一定数集める必要があるのは知っているだろう」
一喝されて少しは頭の冷えたスタッフが、しかし怖ず怖ずと木檜に質問する。
「確かに……空間魔法はこの方法以外では獲得できない隠しアーツですが……」
だからどうしたと言わんばかりのスタッフに、噛んで含めるように説明する木檜。
「空間魔法を取得するためには、【アイテムボックス】の取得が必須だ」
それを聞いて一部の者が、あぁ、という顔で頷いた。【アイテムボックス】は有用なスキルで、それなりに広く使われている。言い換えるとレアスキル扱いではない。よって、レアスキル蒐集に邁進する「トリックスター」が獲得する可能性は低い。従って……
「空間魔法があの少年の手に落ちる可能性は、ごく低いと言えるだろう」
シュウイの場合、PvPやPKKで奪うという可能性もあるが、そこまで気にしていては何もできない。彼らが懸念しているのは、【トリックスター】というユニークスキルによって、シュウイが【空間魔法】を――運営の想定以上に――得易くなるのではないかという事である。【空間魔法】自体はレアアーツではないので、シュウイが獲得する可能性も無視はできない。あくまで問題なのは、他のプレイヤーが【空間魔法】を取得するのに先駆けて、ただでさえバランスブレイカーの「トリックスター」が【空間魔法】で突っ走るという事態であった。下手をするとチート扱いで炎上しかねない。
「まぁ……予想と違って、彼は【トリックスター】のせいで引き籠もりプレイを余儀無くさせられているようだが……」
「現状で最も引っ掻き回されているのは、運営の我々ですよ……」
「展開を進めてくれているのは確かなんだが……」
「案外彼なら、【空間魔法】を取得しても死蔵するんじゃないか?」
「可能性はあるが……それを期待する訳にもいかんだろう」
微妙な空気になりかかったところで、徳佐が話の流れを元に戻した。




