第四十九章 篠ノ目学園高校(金曜日) 3.放課後(その1)
「そう言えば、五日後に第二陣の参入が始まるよな」
親水公園の四阿で、缶ジュースを飲みながら匠が話を振ってくる。
「あ~……もうそういう時期だねぇ……」
「日向ぼっこしてる年寄りみたいな発言はスルーするけどな、蒐、それまでにナンの町に来れるのか?」
いつになく真面目な様子の匠を珍しそうに眺めていた蒐一であったが、やがて視線を宙に彷徨わせて日程を算段する。
「……ちょっと難しいかな。お世話になった各方面に色々と挨拶に行かなきゃならないし、ナンの町に拠点を移すんなら、幾つか準備しておかなきゃならないものもあるし……」
準備が必要なものの最右翼は、錬金術と調薬用の素材である。ここの運営の性格を考えると、トンの町で入手可能な素材がナンの町でも同じように入手可能かどうかは大いに疑わしいのだ。後々の手間を省くために、蒐一は今のうちに素材となりそうなものを買い集め、狩り集めておく所存であった。
他にも、蒐一が拠点をナンの町に移した場合、素材の売り先をどうするかという問題がある。事情を知っているナントがこの町から動かないのであれば、蒐一も素材を売るために定期的にトンの町を訪れる必要がある。それでなくとも、トンの町には薬師の師匠であるバランドがいるのだ。トンの町との縁は簡単には切れそうもない。
「そっか……やっぱりか」
「何だよ匠、それがどうかしたのか?」
訝しげな蒐一を残念そうな目で眺める三人。やっぱり気付いていないようだ。
「だからぁ~、もうすぐご新規さんが来るんだよ?」
「そう。蒐君のいるトンの町にね」
あ……。
「蒐、しばらくの間トンの町は新参でごった返すぞ。覚悟しとけ」
無闇矢鱈とボルテージだけは高そうな新参で町がごった返す事を考えて、ウンザリとした思いを隠せない蒐一。
「……面倒なやつも多いんだろうね……」
「う~……蒐君が変なのに絡まれる未来が見える~」
「止めてよ! 茜ちゃん! 縁起でもない」
「蒐は絡まれ易いからな。落ち着くまでしばらく出ない方が良い……って、和歌山の祖父さんとこに行くんだっけ」
「丁度良いタイミングかもしれないわね」
「ま、帰ってきた頃には少し落ち着いてるんじゃねぇか?」
「そうあってほしいよ……本当に……」
凹んだ気分の蒐一を元気づけるように、要が声をかける。
「さ、いつまでも落ち込んでないで、食事に行きましょう」
「お、そう言えば、今日は要が蒐に奢る日だったっけか」
「ほらほら、蒐君、元気出して~」
「うん、ありがとうね」
昨日は蒐一と匠が所用で抜けたため、幾つかの事案が未検討に終わっている。その事を話すべく、一行は要の案内する店へと向かった。
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