第四十九章 篠ノ目学園高校(金曜日) 1.一年三組教室~始業前~
書籍化記念更新、本日の二話目です。
「よっ、蒐、昨日は済まなかったな」
上機嫌で蒐一に挨拶するのは匠である。昨日教わった二丁十手の型が随分楽しかったらしい。
「お早う、匠。朝からテンション高いじゃん」
「そりゃあな。これで師匠に一矢報いてやれると思うと……」
「おい匠、現実世界で少しだけ型を覚えたからって、SRO内でどんだけ通じるかは疑問だぞ? きっちり型を覚えてから行けよ?」
蒐一のアドバイスに、解ってる解ってると手を振る匠。どう見ても解ってる風ではない。
「大丈夫だって。SROの教官はプレイヤーの技を覚えない仕様だから」
「本当に大丈夫か? 結構変なキャラがいたぞ?」
蒐一の脳裏に浮かんでいるのは、東の泉の精霊である。人の話を聞こうとしない困ったちゃんだった。
「……経験談?」
「うん、経験談」
「マジか……本番前に少し練習すっかな……。蒐、昼休みに少し付き合ってくんね?」
「時間が余ったらね」
「オッケ、頼むわ」
両者自分の席に着くと、匠が改まった様子で話しかける。その様子から、蒐一には何の話か想像がついた。
「ところで……蒐は昨日公開されたムービー見たか?」
あぁ、やっぱりと苦笑いする蒐一。無理もない。匠が話を振ってこなかったら、多分自分の方から振っただろう。それくらいインパクトのあるムービーだった……SRO世界の歴史に関する。
「ポールシフトの話? 僕には特に意義深かったよね」
「特に? ……何かあったか?」
あ~……気が付いてなかったかぁ。
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〝遙かな昔、この地には絶して優れた魔導文明が栄えていた。天を読み、地を窺い、森羅万象の悉くを意のままに操ったという。栄耀栄華を思いのままに、喜びの糧を汲み尽くしたという。
しかし、その絶頂の時も永遠ではなかった。世界を襲った大異変により、彼の文明を支えていた根幹たる魔導の力に乱れが生じ、精緻に編み上げられた魔導技術は綻び、築き上げられた栄華は見る影もなく崩れ去った。都は打ち棄てられ、かつての帝国の民は八方に散り、膨大な知識も技術も、その全てが失われ、あるいは散逸するに至った。かつての名残を今の世に伝えるものは、幾つかの地名のみとなっている。
並ぶもの無しとまで讃えられた魔導文明を滅ぼしたもの、それは地磁気の逆転であり、それに付随して起きた地脈の混乱であった。北が南となり、南が北となる。地脈はかつてあった土地を離れ、新たな地に力の迸りを生む。大地は裂け、火柱が立ち上り、あるいは力を失って永久に冷え切っていった。
大地の力を得てその繁栄の礎としていた古代魔導文明は、地脈の流れが攪乱される事で無限とも思われた力の源泉を失い、亡びていったのである……〟
(「アエテルニア年代記」より)
ラテン語の aeternitas アエテルニタスには、「永遠の」という意味があるそうです。
一時間後にもう一話更新の予定です。