第92話 切実な弱音
「貴女が戦闘を回避することを考えていたのは意外ですね。敵機の撃破数を増やすチャンスではありませんか?」
「でも……相手は第3戦団です。士官大学校の同期生が何人も仮配属しています」
第3戦団は、仮配属の士官候補生を最も多く受け入れている。同期生のうちでも重甲機兵のパイロットを志願した者は、ほとんど顔見知りである。
(玲なら、同期生でも気にしないで戦えるんだろうな)
不意に入鹿のことを思い出した。
赤塵の丘。
GS4でA級ペルセウスを撃破した後……御堂は、機体を降りた敵パイロットを殺せなかった。そのため敵の罠に掛かってしまい、GS4を奪われそうになる。
御堂自身も殺されるところだったのを、入鹿に助けられた。
(玲は、生身の人間を殺すことに躊躇がなかった)
模擬刀で入鹿と戦っても、御堂には負けない自信がある。剣技でも、重甲機兵でも、入鹿より強い自信はあった。
(でも、真剣で戦ったら勝てる気がしない)
戦場では、入鹿のような非情さが求められているのだと思う。それを理解してなお、御堂には割り切れないし、そうなりたくない気持ちもあった。
司令官室に甘い匂いが漂った。コーヒーのおかわりと一緒に、テーブルには焼きたてのクッキーが運ばれた。
刀自古が「ちょうど焼き上がったから」と勧めてくれ、御堂も「ありがとう」と礼を言ってクッキーを口にする。甘さを控えめにして、とても美味しくできていた。
「美味しいです!」
思わず声に出してしまう。安全保障局の行政官より、刀自古にはメイドのような仕事の方が似合っているのではないか……と御堂は思ってしまった。
刀自古は何も言わなかったが、少し得意そうだった。
「それと……撃破数を増やしたいって気持ちは、あんまりないんです」
独り言を呟くように御堂は言った。
「正直、どうしたら一番良いのか全然わかんないです。急に1人になっちゃったし」
言わないつもりだった言葉が、思わすこぼれてしまう。一言を口に出してしまうと、そのまま本音が漏れ出してしまった。
「玲とは、いろいろと意見を違えてたんだけど……上手くやっていけると思ってたんですよ。あたしに足りない所を玲に埋めてもらって、玲の足りない所をあたしが埋めて……なのに急にいなくなって、後任の青柳少尉はよくわかんないし」
御堂が吐き出す初めての弱音……刀自古は、黙って聞くしかない。
刀自古は、入鹿=大兄皇子が何処に行ったかを知っている。しかし、それは御堂が知るべき情報ではない。




