第90話 しっかりして!
ルージュピーク遠征部隊の司令代理の八須賀大佐は、整備主任の興田大尉と2番機SVの有本大尉から報告を受ける。青柳も、側で首を縦に振ったり横に振ったりしているのが見える。
「面白い娘ですね」
2番機CRを務める竜崎葉月中尉が、青柳を見ながら顔をほころばせた。
第2戦団のエース・パイロットと思えない女性らしい笑顔が、御堂に向けられる。
「まだ一週間なので、まだ青柳少尉のことよく知らないんですよ」
第3戦団と交戦し、工廠施設を放棄して『朱雀』へ帰艦したら入鹿がいなくなっていた。そして、GV3Xの新しいSVとして紹介されたのが青柳礼子少尉である。
通常なら2週間はかかる「機体とパイロットの同調調整」を、1週間で完了させるハードな日程。御堂と青柳で、プライベートな会話をする時間はほとんどない。
第2戦団のエース機が、B級機体の調整のために模擬戦を行うのも異例である。しかし、竜崎中尉は不満ではないらしい。
「私は有り難いですよ。実験機とは言え13番機仕様の機体と戦える機会は滅多にありませんからね」
13番機。帝国の盟友であるラインゴルド領の領主に下賜された機体らしい。このGV3Xは、13番機のパーツ機として一緒にラインゴルドへ送られたが、幸運にもそのままの状態で残されていた。
ラインゴルドは、兵を貸すことで成り立っている傭兵国家で、その兵は『ラインゴルド傭兵機団』と呼ばれる。その機団長専用機の強さは御堂もよく知っていた。
(あれが13番機だったんだ)
帝が所有すると言われる22機のA級ジークフリード。その仕様は、重要機密である。
GS4は、GV3Xの量産化を目指した機体で、その仕様は13番機の機密に直結していた。
(だから、他勢力はリスクを冒してもGS4を強奪しようとしたのか)
知らされていなかったと言え……御堂は自分の脳天気さを後悔する。
「こんな機体を任されるんだから、しっかりしないと大変ですよ」
竜崎中尉の口調は穏やかだが、御堂に向けられた視線は厳しいものだった。
「……はい。申し訳ありません」
エース・パイロットの全身から滲み出るオーラと言うべきか……その威圧感に、思わず御堂は頭を下げてしまった。
「こんなに急ぐのも、一機でも稼働する重甲機兵を多くしたいんだと思います。大きな戦闘が近いと覚悟しておいて下さいね」
逆に言えば、同調調整が不完全でも「大きな戦闘」に出なければならない。
(お願いだから、しっかりして!青柳少尉)
打ち合わせを終えた青柳は、御堂のところへ来て屈託のない笑顔を向ける。




