第160話 人を見る目
月夜見が手を付けなかったポタージュスープが入った汁椀を手に取り、太后は振袖の警務官を呼んだ。
「もう、下げていいわ」
振袖の警務官は、汁椀を受け取ると庭園を出て行く。
月夜見は目障りなものが消えて、少しホッとする。そんな月夜見を、太后は面白がるように笑う。
「ところで、月夜見様のお気に入りのパイロットはどうなさるんですか?」
御堂のことだ。太后のもとには、刀自古からの情報がそのまま伝わっている。
「御堂准尉に関しては、私の責任は大きい。彼女の可能性の一つを潰してしまった」
御堂が優れた操縦技術を持ち、才能あるパイロットであることは間違いない。その点に関しては、射流鹿の評価も同じである。
「他人からも好かれる性質だ。周囲の者も、多少の無理は利かせるよう努めてくれる。天性のカリスマ性と言って良いだろう」
だが、だからこそ御堂が身に付けなければならないモノがあったのだ。
新型機の慣熟中の所属不明機による襲撃への対処。フラッグ戦でのイルドラ軍の奇襲攻撃に対する対応。
御堂は、明らかな判断ミスを犯した。
「若さ故の経験不足から、判断ミスをすることはある程度は仕方のないことだ」
失敗は挽回すればいい。第2戦団は、規律に厳格ではあるが、失敗を挽回する機会を奪うことはしない。
「失敗に対する寛容と甘さは、似て異なる。私は、甘い対応をしてしまったようだ」
ルージュピークの工廠施設での命令違反は、判断ミスでは済まされない。そして、州議事堂包囲戦での再出撃も。
「私が御堂に目をかけている、との噂も流れていた。間違いではないのだが……それが、彼女やその周囲の者に、やって良いことと悪いことの判断を誤らせてしまった」
自身の降格も更迭も、当然の処分だと月夜見は思っている。
「お前や刀自古の言った通りだ。私には『才能を見る目はあっても、人を見る目がなかった』と言うことだ。私は、彼女に不足するものが自制心だと気づけなかった」
「あら、珍しい」
自嘲的な月夜見を見て、太后は大袈裟に驚いて見せる。
月夜見と太后の会話が微妙なタイミングで途切れた頃、振袖の警務官が庭園に戻ってきた。
「茉莉花。月夜見様がね、ご自身の『人を見る目がない』」のをお認めになったの。だから、貴女と射流鹿の結婚を反対する人はいなくなりました」
「待て、それとこれとは話が違う!」
この、太后の護衛を努める振袖の警務官が、射流鹿が16年前に結婚を申し込んだ女性である。
月夜見だけが「この女は、射流鹿に相応しくない」と反対していた。
ー第七章 おわりー




