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へたれショートとつんつんセカンド  作者: 夏を待つ人
六章 春の全国高等学校女子硬式野球選抜大会
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55話 先輩としての先輩

 ようやく冬は終わり、待ち望んだ春がやってきた。目指してきた全国高等学校女子硬式野球選抜大会が眼前へと迫ってきている。


「ナイス!」


 明日葉がセンター前へヒットを放ち、二番の私の打席となった。


 春が兆しを見せる、三月最初の週末。今日は練習試合を千庄のグラウンドで行っていた。全国高等学校女子硬式野球連盟に所属するチームは、二月まで規則で対外試合が禁止されていた。だから、今日が今年初めての対外試合である。


「ストライク」


 一回裏、今シーズン初めての打席、初球のストレートを見送った。今日の相手、岡山学芸高校も選抜出場校である。マウンド上の右ピッチャーは、全国相応のレベルであり、試運転に最適な相手と言えた。


 二球目、ゆったりと軌道を変えながらボールがストライクゾーンの外へと逃げていった。余裕を持って見送り、ワンストライクワンボールなった。


 三球目、外、低めへのストレートを逆らわずはじき返す。ライナー性の打球は、レフトとセンターの間を抜けていった。


 ツーベース、私は二塁まで到達した。その間に一塁ランナーの明日葉が帰り、一点を先制する。


 決して簡単な球では無かったと思う。威力十分の外角低めへのストレート、秋までの私だったら、芯で捉えたとしても打球が上がらず、ショートライナーとかに終わっていた。冬にスイングを改造し、トレーニングに励んだ成果が出たのかも。


 練習試合はその後、千庄のペースで進んだ。先制、中押し、だめ押しと効率よく点を取っていき、最終的には六点を奪った。


 乃愛と舞香のリレーとなった投手陣は、二人がそれぞれ一点ずつに抑えた。6-2、完璧なチームの滑り出しだった。


◇◇◇◇


 選抜の組み合わせは一月末に決まっていて、千庄の一回戦の相手は、東海代表、私立岐阜女子である。バスケ部は日本一経験がある、スポーツの強い高校として有名だ。


 けど、女子野球に関してはあんまり実績が無い。組み合わせを聞いた千庄部員は、少しだけ安堵の息を漏らした。岐阜女子の全国での成績は、春夏含め出場二回、一昨年の二回戦進出が最高である。


 去年の夏はくじ運悪く、いきなり日本一経験のある。作凛学院との試合となった。一回戦、私たちに接戦の末勝利した作凛は、そのまま準決勝まで勝ち上がった。そんな昨夏のことを考えると、今回のくじ運は悪くないのかもしれない。


 もちろん油断は禁物だってことはみんなわかっている。目指す場所が具体的になった私たちは、より一層、真剣に練習に取り組んだ。来る大会に向け、みんなの思いは一つ、余計なことを頭から取っ払い、進むだけである。


 ただ私には、どうしても一つ、気になることがあった。それは背番号のこと、誰がエース番号“1”を付けるかである。


 候補は三人、乃愛と舞香と、昨秋に背番号1を背負った奈桜先輩だ。


 私としては、乃愛にエースナンバーを背負って欲しい気持ちが大きい。冬の間、凄く努力してきたのを見てきたから。けれどもそれは舞香と奈桜先輩も同じであり、未だ三人のピッチャーとしての実力は横一線だと思う。


 ある日の練習終わり、私は日菜子先輩に、誰がエースナンバーを背負うのか、何気なく聞いてみた。そしたら、


「ああ、一番は奈桜だよ」


 と、あっさりと答えが返ってきて、拍子抜けだった。そんな私の様子を察してか、


「なに、親友をエースにしろ、って圧力をかけに来たの?」


 私は「なわけないです」と頭を何度も横に振った。


「残念ながら、メンバーは提出済みなの。みんなの競争を煽るために、まだ発表してないけどね」


「やっぱり、先生は誰をエースにするか、悩んだんですかね?」


「だろうね。まあ、私から見ても、三人の実力は伯仲しているから」

 

 先輩は目を細めながら、話を続ける。


「乃愛が、三人の中でピッチャー経験が一番少ないせいか、一番成長しているのは間違いないと思う」


「冬の間、すっごい頑張ってましたから、エースになりたいって語ってましたから」


「うん、見るからに球が力強くなった。でもね、奈桜や舞香も同様に成長してる。

 奈桜が言うには、千庄はピッチャーが良くなれば全国制覇も夢じゃないから、光先輩みたいな絶対的なエースがいなくても、三本の矢で頑張るだって。

 でもやっぱり三人の中での一番、チームのエースになりたいとも言ってた。なんというか、お互いがいい感じに刺激しあって、切磋琢磨してる」


「相乗効果って奴ですね」


「そうそう」


 春が芽吹いてきたとはいえ、まだまだ日が出てる時間は短い。空は闇に包まれており、グラウンドを上から照らす照明が無かったら、視界は暗闇に染められてしまう。


「私たち、どこまでいけると思う?」


 先輩は、私に視線を当てた。


「どこまで……?」


「選抜、どこまで勝ち上がれるか――さっちゃんの率直な考えを聞かせて欲しい。」

 

 冷たい風がグラウンドを吹き抜けていった。先輩は、真剣なまなざしで私の答えを待っていた。


「どこまで勝ち上がれるかは相手との兼ね合いですけど。千庄は、桐葉とか海稜とか、トップクラス以外には十分戦える……と思います」


「なんか歯切れ悪い」


「だってそんなわかんないし。先輩はどう思います?」


「私も、あなたと同意見」


 遠くに、既に制服への着替えを済ませ、帰宅の途に着く部員たちの姿が見えた。


「乃愛が待ってるんで、そろそろ……」


「待って、最後にもう一個。キャッチャーとしての私はどう思う?」


 先輩は、去ろうとする私の腕を掴んだ。表情には、一種の不安が見て取れた。


「とっても安定感があって、見てて安心できます」


「じゃあ、主将キャプテンとしては?」


「たまに頼りないような、基本的には信頼してますけど」


「ふーん。ちなみに、私のあなたへの評価、聞きたい?」


「まあ、ちょっとは」


 先輩は、私の腕を手放した。


「後輩としては、とても素直で、たまに生意気だけど、かわいい後輩。選手としては、凄い頼りになる、日本一の選手だと思う」


 照明に照らされ光る先輩の顔を探ってみたけど、私を面白がるような面もちは感じられなかった。


「どうもです。私も、先輩としての先輩はとっても好きです」


「ややこしいな」


 私はさようならを告げ、部室へと向かった。けど先輩は、思いにふけっているのか、その場に立ち続け、黒色の空をぼーっとずっと眺めていた。

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