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へたれショートとつんつんセカンド  作者: 夏を待つ人
四章 秋の近畿大会
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31話 練習試合VS洛総①

 相変わらずの暑さが続く中、新チームとなって最初の練習試合の日がやってきた。舞台となるのは京都の私立洛総高校である。


 洛総の最寄り駅に到着した私たちは、用意されたマイクロバスに乗ってグラウンドに向かった。今日のこの試合は、洛総側の熱烈なラブコールによって実現したそうだ。


「そんなにうちとやりたいなら、向こうから出向くのが普通だと思わない?」


 移動中、新主将、日菜子先輩は言った。


「相手の監督がどうしてもあっちのグラウンドでってことらしいけど……なにか陰謀の匂いがする」


「……陰謀」


 日菜子先輩は顎に手を当て、真剣に考え込む様子で、


「あっちのグラウンドに罠を仕掛けてたり……さっちゃん、気をつけてね」


 私は適当に「はあ……」と返事をした。この人は、結構天然だってことが最近わかった。


◇◇◇◇


 グラウンドにたどり着くと、あちらはすでにユニフォーム姿で練習を行っていた。整列し挨拶をすると、向こうから監督らしき女性と、選手が一人こちらにやってきた。


 相手の監督は芹沢先生のもとにいき、何度も頭を下げていた。もう一人の眼鏡をかけた部員は、私たちに向かって、


「初めまして、洛総高校女子野球部の主将、嶋村しまむら侑季ゆうきです。今日は、よろしくお願いします」


 彼女は丁重にお辞儀をする。私たちは嶋村さんに先導され、ユニフォームに着替えるところに向かった。道中に嶋村さんは日菜子先輩に「選手権、おつかれさまでした」とか、「神戸海稜に勝ったのはめちゃくちゃ凄いです」などと話しかけていた。とても丁寧で親切そうな印象を受けた。


 そんな嶋村さんは、千庄部員を案内し終わった後、なぜか私のもとにつかつかと歩み寄ってきた。


「青見桜希さん!」


 彼女は私の手を取ると、眼鏡の奥の瞳を輝かせて言う。


「作凛戦見て、私は君のファンになったの。あとでサインください!」


「サインなんて、私、ないですけど……」


「お願いします!」


 私の「でも」っていう言葉を受け取らずに、彼女は消えていく。


「なにあれ」


 近くで聞き耳を立てていたのか、明日葉が横にやってきた。


「さあ……」


「嬉しかった? ファンとか、サイン欲しいとか言われて」


「まあ、悪い気はしなかったけど……それに、ちょっと前みたいに、“上橋沙音璃を倒した人”って言われるよりはいい気分」


 全国のとき、私はいろんな人に話しかけられたけど、誰もが上橋沙音璃を倒した人としか認識してくれなくて、“青見桜希”って名前は全然呼ばれなかった。


「上橋のこと、凄い意識してるのね」


 明日葉は、「良いことだと思う」って意味深なセリフを残していく。私が上橋さんを意識しているっていうのは、自分でも気づいていなかったけど、確かにそうかもしれなかった。


◇◇◇◇


 その後、ユニフォームに着替えた私たちはアップを行った。今日のスタメンの半分ぐらいの部員は旧チームでずっと試合に出ていた。それでも、三年生が引退しチームが変わって最初の試合ということで、独特の雰囲気が漂っていた。


「新しいチームになっての初めての試合、絶対勝ちましょう!」


「オー!」


 円陣を組む。士気が上がっていき、試合開始がやってくる。整列を終え、後攻の私たちは守りについた。


 今日のスタメン。ピッチャーは奈桜なお先輩。私のショート、明日葉のセカンド、それにキャッチャーの日菜子先輩、センターのすみれ先輩、ライトの乃愛。このあたりは前のチームと変わらない。


 ファーストの高村たかむら星奈せいな先輩、サードに宮田みやたはるか先輩、レフトに小野おの結衣ゆい先輩。彼女たちが新たなレギュラー陣である。


「プレイ!」


 球審の野太い声が響く。前チームでも光先輩に次ぐピッチャーとして活躍した奈桜先輩は、落ち着いたマウンド捌きを見せていく。


 先頭バッターを二球で追い込み、四球目、決め球のチェンジアップでタイミングを外し、ショートフライに打ち取る。二人目は三球で内野ゴロに料理する。


 しかし、三人目、左打者の打ったファースト真っ正面に転がった打球。誰もがスリーアウトチェンジを思った瞬間、ボールは星奈先輩ファーストの股の下を抜け、外野まで転がっていった。


 乃愛ライトが打球を処理する。千庄サイドに、なんだか変な雰囲気が流れた。


「星奈先輩、ドンマイです!」


 その空気を察知してか、すかさず明日葉が先輩に駆け寄っていく。さらに乃愛の返球を受け取り、今度は奈桜先輩ピッチャーにボールを渡すときも一声かけていく。


 続く四番の打席、打球はセカンドへ――明日葉はしっかりとゴロを処理し、この回は無失点で終わることができた。


◇◇◇◇


 一回の裏、千庄の攻撃は私から。相手は右のサイドスローで、左の私にとっては打ちやすい部類の投手だ。


 明日葉は早いカウントから打ってもいいと言っていた。


 そして初球、ホント簡単に打てそうな球が来たので打ちにいった。ボールはあっさりとセンターの前に落ちた。


 明日葉が打席に立つ。一塁ランナーとなった私に出たサインは盗塁だった。これを一球目に決め、ノーアウト二塁、さっそくのチャンスを迎える。


 バントで送ってもいい場面だろうけど、先生は明日葉に任せた。明日葉はボールをじっくりと見ていった。ストライクをファウルで躱していき、ボールカウントを増やしていく。八球目、最後はセカンドへのゴロを放ち、私を三塁に進めた。


 作凛戦でも思ったけど、明日葉は二番として完璧な仕事をしてくれる。私の代わりに後のバッターへピッチャーのボールを何回も見せてくれ、さらにはランナーまで進めていく。


 ベンチに戻った明日葉は、今日の四番打者、星奈先輩と話をしている。打席で見たピッチャーの様子を伝えているのだろう。


 チームが明日葉中心に回っている気がした。プレーで引っ張り、声掛けとか細かい部分でもチームメイトを鼓舞していく。陽子先輩は、新しいチームは私と明日葉のチームになるとか言ってたけど、それはちょっと違うのかもしれない。


 新しいチームは明日葉のチーム。早くもそんな雰囲気が出てきている。新しい主将、日菜子先輩もそれを望んでいることをほのめかしていた。


 三番のすみれ先輩は打ち取られ、次はさっきエラーをしてしまった星奈先輩。新四番に指名された先輩は、左打席に入る。


 明日葉は凄い。でも、私は? なにかを変えないといけない気がする。じゃないと、私は明日葉に置いていかれる。


 星奈先輩は、四球目を叩いた。打球はファーストとセカンドの間を強く這っていた。私が本塁に帰り、先輩の汚名返上となる先制のタイムリーヒットとなった。


◇◇◇◇

 

 試合は千庄ペースで進んでいった。初回に先取点、四回にも追加点として二点を奪った。奈桜先輩はしっかりと低めにゴロを集めていき、六回表まで三安打無失点、完璧な内容だった。 


 六回裏、下位打線がチャンスを作り、ツーアウト二、三塁で、私の四打席目を迎えた。一打席目こそヒットを打てたものの、以降は全然駄目。空回りしている感じ。


 マウンドには変わらず右のサイドスローのピッチャー。とにかく落ち着いて、自分の出来ることをやらねばならない。一球目、


「ストライク」


 ショート回転した球がストライクゾーンの外へ逃げていく。二球目、三球目とボールが続く。


 決着は四球目、打者を焦らし惑わす遅い球、チェンジアップが甘く、打ってくださいと言いたげにど真ん中にやってくる。迷わず強振する。バットはボールを芯で喰う。


 打球はライトとセンターの真ん中を割っていく。私は一塁を蹴り、二塁へと到達した。二人のランナーが還り、試合は五点差となった。


 私は塁上で、ベンチのみんなにポーズをしてみせた。そんなとき、浮ついた声が横から聞こえてきた。


「ナイスバッティング、やっぱ凄い!」


 鼻息荒く私に話しかけてきたのは、相手の主将でショートを守る、嶋村さんだった。


「ホント惚れ惚れする」


「どうも」


 嶋村さんは、私を恍惚の表情で見ている。とにかく適当にあしらおうと考えた。でも、そこで嶋村さんは少しその表情を変えた。


「あ、そうだ」


 とは言うものの、急に思いついた感じはなく、用意してきたものを満を持して披露しようとした様子だった。


 そして、彼女が次に言い放つ言葉たちは、あしらうことなんて出来やしない、想像もしていなかったものだった。

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