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へたれショートとつんつんセカンド  作者: 夏を待つ人
三章 真夏の全国高等学校女子硬式野球選手権大会
29/101

27話 一回戦VS作凛学院②

 光先輩は打たれる気がしなかった。一回、二回と完璧に作凛打線を封じ込めた。しかし三回、アンラッキーなことで初めてのランナーを背負う。


 この回の先頭、相手の七番打者はボールを打ち損じた。ふらふらと力の無いフライ、でも飛んだコースが絶妙で、センターと二遊間の中間に落ちるポテンヒットとなる。初めてのランナー、にわかに作凛サイドは盛り上がる。


 それでも、一人ランナーが出たことを意に介す先輩ではない。続く打者をピッチャーへのフライに打ち取り、この回、最初のアウトをとる。


『九番セカンド、山林やまばやしさん』


 作凛のラストバッターは左だった。背丈は小さく、どう考えても長打を打つような感じに見えない。


 三球目のこと、カキンと鋭い音、それなりに捉えられた打球だった。明日葉セカンドの守備範囲に飛んでいったボールは、蜘蛛の巣にかかった虫のようにあっさりと捕まる。


 二塁付近を守っていた明日葉はボールを取り、そのままグラブトス――タイミング良く二塁へ入った私は、キャッチし、瞬時に一塁へ。一塁審が「アウト!」と右手を上げた。ゲッツー、一気にアウトを二つ取り、チェンジとなる。


「ナイス」


 明日葉とグラブでタッチしあう。ゲッツーはめちゃくちゃ気持ちいい。セカンドとショートのすばやい動きと連携が必要であり、成功することは二遊間としての冥利みょうりに尽きる。


◇◇◇◇


『一番ショート、青見さん』


 この流れのまま乗っていきたい三回裏、私に二回目の打席がやってきた。先頭の九番、未来先輩が三振に倒れた直後の打席。


 相手の投手、今永さんは一回に陽子先輩にタイムリーヒットを許した以降、一人もランナーを許していない。先制こそできたものの、決してこれからも点が取り放題ってわけじゃない。


 一球目、それは私の体を通っていく。身の危険を感じる球だった。


 厳しいとこを徹底的に攻めてくることは頭に入れておかないといけない。特に私の得意なところ、内角に安易な球がやってくるという考えは捨てる。基本は外角で攻めてくるはず。内角には今みたいな当てる覚悟の、捨て球しかこないかも。


 二球目は外へのチェンジアップ、球審が「ストライク」とコールする。


 三球目は外角高めのストレート、球審の判断を仰ぐまでもないボール球。


 ここまで打てそうな球はない。ワンストライクツーボール、もちろん狙いにいっていいカウントだけど、ここはフォアボールでもいい。後ろのバッターを信頼しているから。


「ボールフォア」


 その後二球ボールが続き、一塁へ歩く。


 明日葉が打席へ入る。ベンチのサインをうかがうと、芹沢先生は“任せる”というサインを出した。


 任せると言われても、難しい。今永さんのクイック――投球モーションはめちゃめちゃ早い。キャッチャーの肩も強く、盗塁ははっきりいって難しい。


 試合前の明日葉の言葉を思い出す。“わたしのことを気にせず自由にやって”と。だから、隙があれば狙っていこう。大きめにリードをとってみる。


 今永さんはセットポジションから素早く振り返り、一つ牽制を入れてくる。早い。私の帰塁はギリギリだった。


 セットポジションに入り、静止、もう一回牽制、慌てて戻る。明らかに警戒されていて、なかなかスタートのタイミングを図れない。


 ようやく投じられた明日葉へいく一球目、ストレートをあっさりと明日葉は見逃した。


「ストライク」


 投球を見送った明日葉は、なにか言いたげな表情で私の方を見た。おそらく、「なんで走らないの?」みたいな。


 簡単に言うなよと思いつつも、あっちにはなにか考えがあるのかもしれない。行ってみよう。


 投手がセットポジションからちらりと私を一瞥し、一つ牽制を挟んでくる。これは余裕を持って戻れた。


 再び投手が構える。一定秒の静止の後、右足がまっすぐに上がる。同時に私は足を駆ける。


 走っている途中、ちらっと打席を見た。明日葉は打った。それはショートの守備範囲へのゴロ。でも、ショートは二塁ベースカバー中で、そこにはいない。守備陣をあざ笑うかのように、ボールは外野へ転がっていく。


 私は二塁を強く蹴り、三塁へ向かった。レフトが捕って投げたボールとの競争は、私が勝った。もちろん明日葉も、一塁への占有権を得る。ワンアウト一塁三塁、追加点のチャンスを作った。


「ナイスバッティング!」


 大きな声で称えると、明日葉は控えめに右手を上げた。


『三番サード、吉川さん』


 陽子先輩もきっちりチームバッティングをした。ショートへの緩いゴロは二塁へと送られ、アウトカウントが一個増える。でも、その間に私がホームへ帰ってきて、二点目を獲得する。


◇◇◇◇


 四回表の作凛の攻撃は一番から。さすがの快投を見せている光先輩だけど、ここは二巡目に入っていくところ、注意していかないといけない。


 一番打者を、光先輩は八球目でサードゴロに打ち取った。バッターの粘りも大したものだけど、先輩の投球も凄かった。何度ファウルを打たれても、最後までストライク投球を続けた。


 しかし、二番打者には、今日初めてのクリーンヒットを打たれてしまう。二番、左バッターの打者は、三球目の甘く入ってきたボールを華麗に捉える。


 ライト前ヒットでワンアウト一塁。ゲッツーチャンス。打席には三番、今永さん。エース対決。


 初球だった。強く叩かれた白球は、私のテリトリーへと誘われるようにやってくる。左足を少し先に出し、正面で捕球、すぐさま持ち替え、送球へ、という流れのはずだった。


「あっ」


 焦ってしまった。グラブに収まるはずのボールは、暴れる。グラブからこぼれる。慌ててボールを拾おうとしたけど、ボールはうまく手に取ることができない、再度ボールを落とす。ようやくボールを拾うことができ顔を上げると、すでに一塁ランナーは二塁へ、バッターランナーは一塁へ、それぞれ到達したあとだった。


 球場に灯されるエラーのランプ。やってしまった。ダブルプレーでこの回が終わるはずが、私のミスでワンアウト一塁二塁のピンチとなったしまった。


 気まずい思いをしながら、光先輩にボールを返す。そんな私のもとへ明日葉がやってきて、


「ドンマイ」


 と、一言だけ置いて、すぐにポジションへ戻っていった。


「青見ちゃん、楽に楽に」


 さらに陽子先輩が言う。


「もう一回打たせるからね」


 と、今度は光先輩。


「はい!」


 私は思いっきりまとめて返事をした。みんなの声掛けが、素直に心に響く。次は絶対アウトにする。決意を込め、グラブを強く拳で打ち付けた


『四番キャッチャー、江守さん』


 ふくよかな体格を揺らし、相手の四番が打席に入る。右投げ左打ちの彼女は、典型的なプルヒッター、打球の大半が右へと飛んでいく傾向がある。私は守備位置を二塁ベース近くまで行くほど、右に寄る。


 二球目、すさまじい音が鳴った。ガキーンという金属音、ボールは低空飛行で、一二塁間へ。


 あらかじめ一二塁間を詰めていた明日葉が、飛んだ。ボールが地面で跳ねた瞬間を捕らえる。すぐさまに立ち上がって、一塁へ送球し、アウト一個もぎとった。


「ナイス!」


 ファインプレー、超絶美技、千庄サイドは大いに盛り上がった。ほとんど抜けてた打球、抜けてたらやばかった。あとでお礼言わないと。


 次のバッターを、光先輩は見事に空振り三振に切って取った。先輩は「よっしゃー!」と吠えた。今日の試合で初めてのピンチをファインプレーと三振で乗り切った。


 今日の試合の流れは間違いなく私たちのもの、誰が見たってそう言うだろう。


「ありがとう、助かった」


 ベンチに戻ってきた私は明日葉へ言う。さっきのファインプレーがなければ、私のエラーが致命傷になっていたかもしれない。


「別にあんたのためじゃないし」


 やっぱり明日葉のプレーは見てて気持ちがいい。気分が引っ張られ、私もやらなきゃって気持ちになる。


「いいコンビね」


 水分を取り一息ついていた私たちに、陽子先輩は言った。


「どちらかがミスしても、もう一方がカバーする。最高の流れだね。ありがとね、二人のおかげで打点も稼がしてもらったわ」


 先輩の二つの打席で、私はいずれも本塁を踏んでいる。今日の先輩の打点は2だ。


「まだまだこれからです。追加点取りましょう」


 明日葉は言った。まだまだ前半の四回、油断は禁物。だけど、ここまでの流れは圧倒的に私たちだった。

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