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へたれショートとつんつんセカンド  作者: 夏を待つ人
三章 真夏の全国高等学校女子硬式野球選手権大会
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25話 美羽先輩

「初戦の相手は、栃木の作凛さくりん学院に決まりました」


 陽子先輩の言葉に、部員たちは「おお」とかいろんな感嘆の言葉を漏らす。全国女子硬式野球選手権においての、私たちの最初の対戦相手が決まった。


「優勝経験もある名門校です。初戦の相手としてはいきなりの難敵ですが、全然勝てない相手ではないと思っています。試合まであんまり日にちはないですが、自分たちにできることをしっかりとやって、少しでも上に行けるよう頑張っていきましょう」


 あんまり高校野球に詳しくない私でも、作凛学院は聞いたことがあった。何年か前、甲子園優勝していた男子の高校野球においての名門だ。


 乃愛に聞いたのだけど、女子野球部も相当名門らしい。何年か前、女子も全国優勝を果たしていて、毎年のように全国の上位に名を連ねている。当然、今年のチームだって、全国有数のチームであることは間違いない。


◇◇◇◇


 初戦の相手が決まり、私たちの練習にも熱が入った。相手の情報を共有し、対策を練る。一つ一つの連携を高めていき、チームの練度をさらに上げていく。チーム全体が一つとなり、目標に向かって突き進んでいる感じがあった。


 そんな中、美羽先輩は未だボールを使った練習を始められないでいた。県決勝で上橋沙音璃の豪速球を右手にまともに受けた先輩は、ずっと練習の手伝いをしていた。


「無理すればできないこともないんだけど」


 ある日の練習で、美羽先輩はその複雑な胸中を吐露してくれた。


「本番であたしに出来ることがあるとすれば、代走ぐらいだろうし」


 先輩のレギュラーポジションだったセカンドは、今は明日葉が守っている。たぶん、本番でもそうなるだろう。


「桜希ちゃんは、あたしと関長さん、どっちがセカンドがいいと思う?」


「えっ」


 とても単刀直入な質問で、私は答えにくかった。


「いいよ、正直に言って」


「私は……明日葉の方がいいです、私は」


 苦しみながらも正直に言うと、先輩は、


「やっぱり、そうだよね。すっきりした」


「別に、美羽先輩どうこうじゃなくて、私の――」


「いいのいいの。今はもうあきらめついてるし。むしろ、関長さんに、頑張ってほしいと本心から思ってる。気が強そうで、今まで話したことなかったけど、意外といい子だし。“先輩の分まで頑張ります”って言ってくれたし」


 明日葉は結構、誤解されやすいところもある。


「関長さんと、桜希ちゃんにはこの前夢を見せてもらったからさ、もう一回、夢を見せてほしいと思ってる」


 先輩は言った。暑さのせいか、汗が頬を垂れていくのが見えた。


「夢を見せて」


「……はい」


 真っ直ぐ私に注がれる言葉に、私は短くそう答えた。美羽先輩は「お願いね」と言った。


◇◇◇◇


 寝ても覚めても野球の日々は、瞬く間に過ぎていった。これ以上ないくらい、一つのことだけに集中していった時間だった。


 今日は選手権の初日、開幕式と一回戦の三試合が行われる予定である。私たちは朝早くに集合し、会場へと出発した。会場は同じ兵庫県にあるから、移動は全チームで一番楽だ。


 プロ野球の試合にも使われるような、大きくて綺麗な球場で、開幕式は行われた。


 集まったチームたちは、どこも強そうに見えた。各都道府県を勝ち上がった人たちだから当然なんだけど、やはり、どのチームも自信満々な表情を携えていた。


 なぜか、私はいろんなチームの人に声を掛けられた。誰もが、似た感じの声の掛け方だった。


「君が、上橋沙音璃を倒した人?」


 はい、そうです、とはなかなか言いづらく、「はあ、たぶん……」なんて曖昧な返しをするしかなかった。誰もがよくやってくれたね、なんて顔をしていた。最大の敵を倒してくれてありがとう、って感じだろうか。


 やはり上橋さんは有名なんだと感じた。青見桜希というよりは、“上橋沙音璃を倒してくれたありがたい人”としか認識されてないみたいだった、


 午後からは近隣の高校のグラウンドで、最後の調整を行った。私たちの初戦は、二日目の第二試合、つまり明日だ。チーム内にただよう緊張感を一心に感じながら、とにかく不安をもみ消すよう、一心不乱に体を動かした。


◇◇◇◇


 練習が終わると、宿舎となる旅館にやってきた。会場と同じ県に住む私たちは、一回帰ったって余裕で明日の第二試合に間に合うけど、大会の規定で、全チームは近くの宿舎に泊まらないといけないらしい。 

 

 夕食後、軽く外でバットを振ったりと体を動かし、その後、ミーティングを行った。

 

 映像とデータで作凛学院の情報を確認した。


 最も要注意人物はエースで三番の、今永いまなが令音れいねさん、18歳以下の日本代表候補になっている右投手。ストレートとカーブ、チェンジアップとどの球も一級品で、世代屈指の好投手だ。


 今永さんの脇をしっかりと固めるかのように野手の守備力は高い。打線も好機と見るや、一気に畳みかけてくる、高い集中力を誇るチーム。


 それと、明日のスタメンも発表された。私は今までと変わらず一番ショート、明日葉は、美羽先輩の空いたとこにそのまま入り、二番セカンドだった。


 最後、陽子先輩の言葉でその場は締めくくられた。


「ずっとこの、全国の場を目指してきました。正直、今も夢のようです。でも、せっかくここまできたんだから、一個でも多く、そして一番を目指して頑張りましょう」


 部員たちの志気は、間違いなく最高潮だった。


◇◇◇◇


 入浴を終えると、私は陽子先輩たちに呼び出された。何の話だろうと、先輩たちの部屋に行くと、そこには、四人の先輩たちがいた。


「おっ来た来た」


 和風の部屋に、陽子先輩、光先輩、美羽先輩、麗先輩。


「何の用事です?」


 こう勢ぞろいな感じに待ちかまえられると、部屋に入るのも気後れしてしまう。


「別になにも無いよ、ただ、桜希ちゃんと遊ぼうと思って」


 光先輩はそう言って何かを取り出した。それはトランプだった。


「遊ぶ……」


「そ。遊ぶ」


 なんで……という言葉を飲み込み、おとなしく座って、みんなの輪に入る。始まったのはババ抜きだった。


 光先輩、陽子先輩、麗先輩、美羽先輩、私の順でゲームは進んでいく。


 美羽先輩の手札から一枚取ってみると、それは見事にジョーカーだった。なんとかポーカーフェイスを貫いたつもりだったけど、


「ぷっ」


 次の光先輩は、私を見て思いっきり吹き出した。


「持ってるでしょ」


「も、持ってないです……」


 完全にバレていた。そんなに私はわかりやすい顔をしていたのか。


 光先輩は、私のカードを取ろうとする。それはジョーカーだった。のに、光先輩は私の顔を一瞥いちべつすると、さっと他のカードに切り替えた。


「桜希ちゃん、わかりやすすぎ」


「そうですかね……」


「本当、可愛いわ」


 光先輩の発言を皮切りに、私にとって恥ずかしい時間が続いた。


「野球をやってるときはあんなにかっこいいのに、モテるでしょ」


 と美羽先輩。


「いや、そんなにです」


「彼氏は? 居たことないの?」


 と麗先輩。


「ないです……」


 まるで修学旅行の夜みたいな雰囲気だった。私は身を小さくして、質問を否定し続けているしかなかった。


 でもそのとき、唯一ずっと口を閉ざしていた陽子先輩が、急に口を開いた。


「彼女は?」


「えっ?」


 思わず、素っ頓狂な声を出した。


「彼女はいたの?」


 なんだか変な雰囲気になった。陽子先輩は真顔で、とても冗談を言っているようには見えなかった。


「いないですけど」


「ふーん」


 光先輩が「ほら、桜希ちゃんがジョーカーだからね」って場を改め、私への拷問タイムは終わった。


 結局、ババ抜きはほとんど私が負けた。


「おやすみなさい」


「うん、おやすみ」


 先輩たちにそう言って、自分の部屋に戻る。楽しくて、リラックスのできた時間だった。明日の決戦の前に、先輩たちが私へ計らってくれたのかもしれない。


「何してたの?」


 戻ってきた私に、明日葉はそう訊いた。


「恋バナ」


 同じ部屋のみんなは、すでに就寝の準備が整っていた。


「そう言えば、彼氏、いたことあるの?」


 少し控え気味に明日葉は訊いてきた。また同じこと質問された。


「ないけど」


「じゃあ、彼女は?」


「無いに決まってるじゃない」


 私が寝る準備を整えると、消灯をした。私が豆電球にしてって言ったから、部屋はほんのちょっとだけ明るい。


「明日、がんばろうね」


 眠ったまま、小さくつぶやくと、隣の明日葉はちゃんと反応してくれた。


「うん」

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