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Only Life of Arcadia  作者: kaisen
第2章 タルトレット
56/103

55.攻城戦準決勝その1…ユーカ視点

よろしくお願いします。

「一度ほぼ倒したのに、完全復活プラスパワーアップってどういうことよ!」


 私は苛立ちを吐き出すように戦闘斧を振るった。

 またも、あの面倒なかぎ爪に弾かれる。


 ゴウという火炎の音を聞きながら、私は地面に着地した。


 もどかしい。

 やはり空は厄介だ。

 キャロンは問題ないが、私はいちいち高度の低い所を狙って、下から攻撃しなきゃいけない。

 そして、下からの攻撃は必ずと言っていいほど、かぎ爪に阻まれていた。

 

 戦闘斧を大きくするのは有効だが、振りまで大きくなるのが難点だ。

 不意打ち的に何度か使っているが、まあ空中の相手に大振りの攻撃は当たらない。

 諦めとコスト節約の点から、今はいつものサイズで戦っているが、こちらも攻撃が通り難い。


 このままでは、ジリ貧だという確信だけが強くあった。


 耳をつんざくような鳴き声とともに、炎を纏った羽が無数に飛んでくる。


 さっきから使ってくるこの攻撃が、やりづらさに拍車をかけている。

 空中からの遠距離攻撃は、防ぐにも躱すにも一苦労だから。

 

 それに、キャロンにはタイムリミットがある。

 カゲツのコストが尽きたら終わりだ。

 あいつのコストの最大値も増えているはずだから、多少は大丈夫だと思うが、早めに勝負をつけたいことに変わりはない。


「あぁ、もう!どうしたらいいって言うのよ!せめて、あの翼をどうにか出来たら…」


 不意に、キャロンが咆哮した。


 竜の威厳あふれる声があたりに響き渡る。

 その力強さに、“レディモナク”の動きも少し止まった。


 隙ありとばかりに、キャロンが“レディモナク”に飛びついた。

 その頑強な爪で翼に思い切り裂傷を刻む。

 さすが、竜種の一撃は違う。


 ただし、これを今までしていなかったのには理由があったようだ。 


 ノーリスクで今までの攻防をひっくり返せるような攻撃ができるわけがない。

 キャロンは自らの爪にダメージを負い、“レディモナク”と一緒に空中から落下してきた。


 凄まじい音とともに、二体の大型モンスターが私の目の前に落下してきた。

 衝撃と粉塵が尋常じゃないことになっている。

 私は足を思い切り踏ん張りながら、少し顔を背けて、湧き上がっている粉塵が目に入らないようにした。


 粉塵が収まってきたとき、目を向けた場所にはにらみ合いをする二体の姿があった。

 どちらも、もはや大きく動き回るほどの力は残っておらず、かといって相手をねじ伏せられない訳ではない。

 隙を見せたほうがやられるという、一触即発の状況になっているのだ。

 つまりは、私たちにとってチャンスだということだ。


 私は、戦闘斧を構えなおして、大地を蹴った。


 目標はキャロンの後ろで睨みを効かせている“レディモナク”だ。

 奴の体力は私の攻撃で全損させられるはず…!

 この攻撃特化型オーブなら。


「<女王の乱獅子(ストレングス)>!!!」


 私は“レディモナク”とにらみ合っているキャロンの脇から飛び出した。

 奴が気づく前に、私のオーブで息の根を止める!

 懐に潜り込んで戦闘斧を振りかぶる。


 この瞬間、かなりの熱気が私を襲った。


 不意に私の体は持ち上がり、“レディモナク”との距離がぐんと開いた。

 その視界に見えたのは、地に落ちてなお炎の羽を付近にまき散らしている奴の姿だった。

 私が先ほどまでいたところなど、もはや火の海になってしまっている。


「あ、危なかった…!ありがとう、キャロン」


 私を運んでくれたのはキャロンだった。

 口に私の服の端をくわえて後ろに大きく飛びのいてくれていたのだ。


「ちょっと厄介ね…。地上に降りてもこうしてあの攻撃をしてくるとなると、うかつに近寄ることもできないわ…。どうにか、活路を見出さないと」


 私はオーブの性質上遠距離攻撃を持っていない。

 キャロンにある遠距離攻撃は火球を放つことだけ。

 これでは近接攻撃がしづらく、火炎系の属性持ちである“レディモナク”を倒すことはできない…。


「どうにかして、近接攻撃を当てなきゃいけないってことよね…」


 私は策をめぐらせる。

 例えば、あの羽をかいくぐって攻撃する。

 これは物理的に不可能だ。

 あの密度の攻撃をかすりもせずにあれを躱せるプレイヤーはいないだろう。


 戦闘斧を巨大化させて、私の射程を広げるというのも一つの手である。

 けれど、これはどれだけ頑張ったところで命中しない可能性のほうが高い。

 空中よりは当たる確率が高くなっているが、巨大化させればさせるほど、取り回しは難しくなるのは事実。

 せめて、“レディモナク”の動きを止めることが出来たらよかったのだけれど…。


 大きく距離を取った私とキャロンだったが、“レディモナク”はしつこくこちらを追いかけてきた。

 ついでに言えば、戦闘の結果、このあたりの森に炎が燃え広がり、私たちの逃げる先も制限されている。

 どちらかといえば私たちのほうが追い詰められている状況だ。


 同じように“レディモナク”を追い詰められたら良いのだが、いい考えが浮かばない。

 要するに、退路を塞げる何かがあればいいってことなんだけど…。


 攻撃を躱しながら私はあることを思い出した。

 環境調査である。

 攻城戦は実際のエリアの環境をそのまま使って行われる。

 プレイエリアの制限はあるが、元からある地形が変わらないのは絶対だ。

 ならば…。


「今回のエリアは“スイーティオの森”。ということは、“タルトレット”の街を囲う壁があったわね。あそこにおびき寄せられれば、あるいは…」


 私はキャロンを連れて全力で駆け出した。

 目指すは、ここから北西、一番近くの城壁のあるところ。

 私は、そこで勝負を決める!


 炎と羽の攻撃が私とキャロンを追い立てる。

 地上の下りたのにかなりの速度で走れるというのは、やはりさまざまに強化された結果だろう。

 私に届きそうな危ない攻撃は遠距離攻撃だけだが、油断はできない状況が続いた。


 目の前に城壁が見える。

 あと数十メートルといったところだ。


 あの、城壁の上に乗れたなら…。

 だけど、私の跳躍力ではあの城壁の下からでは届かない。

 どうしようか。

 何も考えなければ私たちが追い詰められておしまいだ。

 

 ふと、キャロンに目をやる。

 彼女はカゲツが全力で召喚しないと話すことができない。

 戦闘の時は大抵、話せるレベルで召喚していないのだ。

 それでも、彼女はこちらの意思をくみ取ってくれる。


 私は、キャロンに話しかける。


「聞いて。私はあの城壁の上から、“レディモナク”にとどめを刺すわ。そのために、私をあそこへ連れて行ってほしいの。方法は何でもいいわ。最悪、あなたに登れば届くかもしれない。とにかく、奴が動かない状況で、上が取りたいのよ。協力して」


 キャロンは理解してくれたのか、優しくひとつ鳴いた。


 そして、右の手で私を持ち上げる。


 いや、まさかとは思うけどね…。


 案の定、キャロンはそのまま振りかぶった右腕をうならせ、私を城壁のほうへ投げ飛ばした。


「確かに何でもいいって言ったけど!言ったけど!」


 私の体はかなりの速さで宙を飛んでいった。

 城壁を軽く飛び越えるのではないかという軌道に驚きを隠せない。

 城壁が段々と近づいてきて、街の中の風景を覗ける程度になった。

 これでは街の中に入ってしまうと思い、目をつぶったその瞬間。


 ガンッと強い衝撃が私の顔面に走った。

 私の体はそこで前に進まなくなり、ずるずると城壁まで滑り落ちていった。

 ちょうど城壁の上で、プレイエリア制限がされていたらしい。

 そこに激突して、そのまま降りてきたわけだ。


「全く…無事に着くことはできたけど」


 私はかぶりを振って、戦闘斧を構えなおす。

 ちょうど、キャロンが攻撃をいなして後退しながらこちらへ向かってくる。

 もう少しで城壁の真下、つまり退路が少ないポジションになる。


 私は、気合を入れ直す。


「<女王の乱獅子(ストレングス)>」


 大きさは最大。

 つまり、威力も最大。


 神経を研ぎ澄ませる。

 キャロンがきっとタイミングを作ってくれる。


 二体のモンスターが戦いながら、ようやっと城壁の真下にきた。


 キャロンが壁を背にし、うまく近接攻撃を処理している。

 その攻防を上からじっと見ていた。


 ふとした瞬間、城壁を背にするモンスターが、キャロンから“レディモナク”に変わった。

 キャロンはそれを逃さず、わざと大きく接近する。


 お約束のように、“レディモナク”は燃え滾る羽を周囲にばらまき始めた。

 キャロンはそれを待っていた。

 私も、それを待っていた。


 “レディモナク”の真下に射出され続ける羽は上に届くはずもなく、キャロンは完全に遠くに避難している。

 “レディモナク”自身はこの攻撃を始めてしまえば一定時間、このままである。


 私は城壁の上から飛び降りた。戦闘斧を大きく振りかぶって。


「<剛毅万衝(グラウンドブレイク)>っ!!!」


 私の体ごと戦闘斧が“レディモナク”の体の中心を目掛けて落ちていく。

 奴の体の中心に直撃した戦闘斧はいとも簡単にその体を貫通し、戦闘斧が地面にたたきつけられた。


 揺れる大地。

 広がる衝撃。


 私は、その中心に立っていた。


 そこにいたはずのモンスターの姿はもはやほとんど光の粒に変わり、天に昇っていく。


「よし」


 私は息を吐き出し、短く呟いた。


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