54.実況席からー準決勝1組目その2
明日も更新する予定だったのですが、諸事情によりできません…。
次回は日曜日更新となります。
落ち着いたら毎日に戻したいです。
申し訳ございません。よろしくお願いします。
ラトと二人の獣人プレイヤーの戦闘は開始直後から激しさを極めていた。
オーブのよる攻撃の応酬が延々と続いている。
今までブラックボックスであった二人の能力も戦闘の合間に段々と観ている人にもわかるようになってきた。
一人は完全なる“兵器型”だ。
ただし、その姿は変身する類いの“魔術型”であるかのように変貌していた。
巨大な剣と盾と禍々しい鎧に身体を飲み込まれ、呪われて暴走したモンスターのような姿である。
およそ人間のものとは思えない骨格とその身体能力がこの形容を全く違和感のないものにさせていた。
もう一人もとてもわかりやすい“魔術型”であった。
シンプルに遠距離から火炎系の攻撃を仕掛けてくるのだ。
ただし、その炎は竜の息吹のように長く広範囲に放出される上、詠唱の省略が可能なようだ。
一般的に見るとかなり破格の条件をしている。
そもそも、詠唱省略は単発で威力が控えめなものが可能になりやすい。
大掛かりな技を詠唱を省略して使ってくることは一定以上の脅威があると言えるのだ。
ラトとこの二人の攻防は目まぐるしいものだった。
前に進ませたくないラトは己がフラッグの方へ行くよりも、二人の妨害をしようと能力を使う。
対して、フラッグへ直進したい二人はどうにか振り払おうと能力を使っていた。
一人がモンスターの如くラトに突っ込み戦いを始めれば、もう一人が火炎を放つのをやめて即座に突破を図る。
しかし、ラトも承知したもので、目くらましを一発放ち、動きが止まったところで両方の位置に爆発を起こす。
こんな戦いがずっと続いているのだ。
実況席がようやっとピンクのスタッフ以外にも戦闘があることに気づいた。
しかし、どちらの戦場も一定の膠着状態に入った頃である。
実況席の男は考える。
真剣な一進一退の戦闘は、実況向きではない。
これでは、自分の腕の見せ所がなくなってしまうと。
事実、ラトの戦場では同時多発的に色々なことが起きていた。
牽制でラトが放った爆発に乗じて、“兵器型”の男が突進。大剣でラトを一刀両断しようとするも、綺麗に身を躱され不発に終わる。
ラトはその隙にもう一度爆発を起こした。すると今度は後方から火炎が放たれていた。
ラトはこれにも爆発を用いて相殺。体勢を立て直しつつ、突破を図る“兵器型”へ牽制の爆発を放つ。
こんなに状況変化が激しい戦闘を実況するなんて高度なことはできるはずもない。
ただ観ている人々ですら言葉を発せないのにどうしろというのか。
かといって、ピンクのスタッフの戦場は戦国時代の武士よろしく、槍と刀でひたすらに打ち合っている。
単調で盛り上がりも作れない光景である。
実況の男はもどかしさを感じていた。
歯噛みする男に、吉報が届いたのは膠着が一分も続いた頃である。
画面に新たな変化が起こった。
「おおっと!ここで青のスタッフさんが、ボス級モンスターを軽々召喚する、あのプレイヤーと激突したー!!」
「やけにテンションが高いわね」
ユイアが呆れながらも、視線をそちらの画面に向ける。
正しく、青の仮面のスタッフとボス級召喚のプレイヤーが邂逅したところであった。
両者予期せず出会ったのか、睨み合いながら、徐々に立ち位置を変えている。
「“召喚型”同士の戦闘ですからね、どちらが先に相棒を呼び出せるのかで勝敗が決まるんでしょうか?」
「いえ、青さんは召喚した老紳士さんを連れていたはずよ?彼の所在によってはかなり戦況は変わると思うけど…」
「確かにそうですね!それもこの戦いのポイントになってきそうです!」
はじめに動いたのはボス級までも召喚する“召喚型”のプレイヤーだった。
どこからともなく取り出した黒い玉に、手をかざす。
青のスタッフはそれに若干顔をしかめていたが、サーベルを構え、冷静に状況を見ていた。
黒い空間があちこちに広がり、それらから、うねうねとした紫の何かが現れる。
だんだん広がり、全貌を露わにしたそれは、大きな木の怪物であった。
広がった枝葉は毒々しい色に染まり、元が木だったとは思えないほどの鋭さと頑強さを持っていた。
青のスタッフは表情を崩さない。
「これはー!またもモンスターが召喚されました!こんな姿のモンスターは見たことありません!オリジナルでしょうか!?」
「オリジナルを作れて、なおかつボス級を召喚とか、彼は何者なのかしら」
「さぁ、これに対して青さんはどうするのかー!」
「さっきまでより楽しそうね」
木の怪物は地上に広がった根を、ガサガサとさせながら、青のスタッフの方へ向かってくる。
青のスタッフはサーベルを一振りすると、猛然とモンスターに向けて走りだした。
襲いくる木の根や枝を次々と躱し、時には切り飛ばして青のスタッフは進む。
その視界にはモンスターの陰に隠れて逃亡しようとしているプレイヤーがいた。
このモンスターを召喚した男である。
彼は背中まで向けて、全力でこの場から走りだそうとしていた。
実に“召喚型”らしい戦い方だ。
元々、“召喚型”のプレイヤーは自分の仲間となるモンスターやなんやらを召喚した後に自分は安全な位置につけて、そのモンスターなどの支援を行うのが常だ。
実際のところ、召喚を行っていながら自らの体を戦場にさらすことはほとんどない。
青のスタッフや、ピンクのスタッフが戦っている方法は実は邪道なのだ。
青のスタッフは常識をかなぐり捨てて、サーベルで敵を切り裂きながら木の怪物の横をすり抜けた。
目標は、あくまで召喚者ということなのだろう。
“召喚型”とは思えないほどに素早い動きで、サーベルの刃が男に迫った。
男はそれなりに回避するが、ダメージは免れられそうにない。
青のスタッフは十分な狙いを持って、サーベルを振り下ろした。
スパンと何かが勢いよく切れる。
青のスタッフは違和感を覚え、即座に横に飛びのいた。
すると、元居た場所に大量の枝が殺到した。
人間の体などやすやすと貫通させられそうなほどに、鋭く、勢いのある一撃であった。
思わずといった様子で青のスタッフは目を見開いた。
「これはすごい攻防です!!どちらも目的達成を最優先としているのが伝わってきます!これは、敵プレイヤーに勝つだけがすべてではない、攻城戦ならではの光景ですね!」
「確かにそうね。“召喚型”は数を増やせる分、こういった戦いには向いているのかもしれないわ。青さんは、ちょっと普通の“召喚型”プレイヤーとは思えないけれど」
青のスタッフが画面の中で何事かを中空に向かって話している。
モニタには音声を拾う機能がないことがもどかしい。
やがて、青のスタッフは苦い顔を一つして、サーベルを構えなおした。
今度は、相手が木の怪物に変わっている。
まずはこのモンスターを討伐することを選んだらしい。
実際、先ほどのことがあってから、男は逃げ出し、今では青のスタッフ周辺のドローンにはその姿は映っていなかった。
「さあ、ここからは真剣勝負といったところでしょうか?青さんの構えが変わりました」
「明らかにモンスターを叩き切る気ね。仮面をしているのに、目つきの鋭さが伝わってくるようだわ」
「さて、どんな戦いが始まるのでしょうか!最早各地で激戦が繰り広げられ、どちらのチームが優勢なのかもわからなくなってきました!おそらく、この均衡を破ったチームが一気に優勢になるのでしょう!ますます目が離せません!」
実況の男は思い切りまくしたて、会場をあおっているようであった。
戦況は、各地、刻々と動いている。
そんな中、新たな変化が生まれようとしていた。
舞台は空中VS地上。
強化“レディモナク”VS黄色のスタッフ&ドラゴン。
開戦の機となった戦闘が終焉に向かっての足掛かりとなる物語を紡ぎだすのだ。




