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Only Life of Arcadia  作者: kaisen
第2章 タルトレット
52/103

51.チームインセル

よろしくお願いします。

 一台の戦車が吹き飛ばされたのとほぼ同時に、『戦場連合』側の陣地に変化があった。

 要塞の前に、二人のプレイヤーが到着したのだ。


 要塞からは、当然のごとく銃火器による斉射が始まる。

 上方の壁の中から一方的に放たれる弾丸の嵐は、乾いた音を立てて地面に降り注いだ。

 銃声はとどまることを知らず、土煙で当たりが見えなくなっても続いた。


 この苛烈な攻撃に対し、俺ならばすぐに崩れ落ちていただろう。

 しかし、この二人のプレイヤーは全くダメージを食らわずに戦場に立ち続けていた。


 いつの間に起動したのか、一人はオーブと見られる大きな黒い盾と鋏のような形状の武器を手にしていた。

 その盾に守られるようにして、もう一人が構えているのは毒々しい形状の大きな銃であった。


 盾は驚くほど丈夫で、これだけの弾丸を受けてもビクともしない。

 打っている方も手ごたえの無さに疑念を抱いたのか、遂に集中砲火を始め、攻撃はいよいよ勢いを増した。


 しかし、盾役の男は慌てることもなく堂々とそこに立っていた。

 後ろに控える女の銃には一本の線が入っている。そこには妖しげな黄色の光がたゆたっており、あと少しでその光が線の範囲を満たす。


 あるかないかの隙だった。


 弾丸の数が若干少なく、範囲がほんのすこしだけ狭まったような、そんな僅かなタイミングだった。


 瞬間で盾から顔を出した女が、銃を一発。

 砲火口の方へ放った。


 驚いたことに、銃口から放たれたのは弾丸ではなく黄色い液体である。

 しかし、それがなんであるか、モニタ越しにも容易に理解できた。

 酸だ。

 

 要塞の壁に付着すると同時に、触れた範囲をドロドロに溶かし始めた。

 砲火していた小窓の方にも酸がしっかりとかかっており、白い煙を出しながらその容積を減らす。

 要塞の溶解した部分は刻々と増え、内部が露わになっていった。


 ガトリング砲のような武器を構え、窓から狙っていた射撃手の姿が見えるようになった。

 酸の溶ける速度が予想外であり逃げることができなかったのか、目を見開いて固まっている。


 当然、そんな状況では弾丸の嵐も止んでいるわけで…。

 隙を見せてしまった彼は酸の銃弾に撃ち抜かれて、ゲームオーバーとなった。


 目まぐるしい展開は、これで終わりではなかった。


 ほぼ同じタイミングで、違う画面にも変化があった。


 『インセル』の本陣に『戦場連合』のプレイヤーが到達したのだ。

 二台の戦車が『インセル』の本陣中央に立つプレイヤーに向け、主砲の照準を定めた。

 砲撃が放たれる瞬間、主砲を向けられた男はニヤリと笑った。


 刹那、二台の戦車の主砲の向きがぐるりと変わった。

 砲撃はあらぬ方向へ飛んでいく。

 森の一部がはじけた。


 戦車は何が起きたのかを探ろうとしているのか、前後にがたがたと動きながら周辺を確認しているようだった。


 観戦している俺たちには、この事態を引き起こしたのがスピニーさんであるとわかっていた。

 以前にボス級を捉えて見せたあの丈夫な糸である。

 頑丈な鉄糸が戦車二台の主砲を貫き、その向きすら変えてしまったのだ。


 その時のスピニーさんの手際の鮮やかさは見惚れてしまうほどであった。

 自分の乗っている<女帝鉄甲蜘蛛(エンプレスアーミラ)>に素早く鉄糸を吐かせると、刺さったままの糸を彼女自身もつかみながら、まるで熟練の猛獣使いのように<女帝鉄甲蜘蛛(エンプレスアーミラ)>の方向を転換させ、森の木々の上を渡っていたのだ。


 あれほどの早業。

 俺がスピニーさんと知り合いでなかったなら、全く何が起きているのかがわからずにこの場面を見逃してしまったことだろう。


 さらに、このチームの恐ろしいところは、この一種類の攻撃に絞ることがない点だ。

 迎撃とはいえ、二台の戦車という巨大戦力を退けられたなら、俺は舞い上がってしまい、敵戦力の完全な無力化はしなかったかもしれない。

 だが、彼らは真剣に勝利をもぎ取りに行っていた。


 大量の糸が、森の四方八方から二台の戦車に向かって絡みついてきた。

 言わずもがな、これをやったのは基本的にスピニーである。 

 ただ、今回の場合はリーダーの男も一枚噛んでいるようだった。


「最初に動き回っていたのは罠を仕掛けるためだったか。そして、不可視の罠を張ることのできる技量があることも、その罠を遠隔で起動できる手段を持っていることもどちらもこの作戦には必要ってことか…」


 隣でコータがぶつぶつ言っているからこれは間違いないと思う。


 しかしリーダーの男は初めから全く動くそぶりを見せていないのに、そんなことがあり得るのだろうか。

 理屈の上で見れば正しいことも、実際に見てみるとなかなかその通りに見えないものである。


 いずれにせよ、この時点で二台の戦車が使い物にならなくなってしまった事実は変わらない。

 『戦場連合』はこの後どうするのだろうか。


 とらわれた戦車から、二人のプレイヤーが出てくる。

 いずれも武器を持っていないように見えるが、出てからの退避の仕方にまだまだ闘志が残っていることがうかがえる。

 このまま逃がしてしまっては、再びこういった形で攻めてこられるやもしれない。


 『インセル』はそのあたりをよく踏まえたチームだった。

 地面に降り立った瞬間、大地を爆走する不思議なアリの群れにこのプレイヤーたちは飲み込まれたのだ。

 助けを求めてもがく二人の前に慈悲深い蜘蛛の糸は垂れてくることはなく、代わりに<女帝鉄甲蜘蛛>から放たれた高速で強力な鉄糸が彼らの体を貫いた。


 アリの大群に運ばれながら、彼らの姿は光の粒に変わっていった。

 毒付きの糸で体を貫いたのか、彼らの最後の表情は苦悶の表情だった。


 こちらが片付いたころ、『戦場連合』の要塞側の戦いも佳境に入っていた。


 酸で溶かされた外壁のいくつかが痛々しい傷跡のようになっている。

 もはや要塞の全景は保たれておらず、人が二人分通れるほどの穴が完成していた。

 最前線で戦っていた二人が時間をかけて作ったものだろう。


 その二人が今まさに己の力で切り開いた道を通って要塞の内部に入っていこうとしていた。

 高所からの射撃はむしろ角度的に当てるのが難しい位置を取っているようだ。

 それは、何度か敵のプレイヤーとのかくれんぼを制していたことからもうかがい知れる。


 ふと、要塞の壁が崩壊を始めた。

 『戦場連合』の狙いはこの崩壊に巻き込んで、この二人のプレイヤーの動きを止めてしまうことだろう。

 ただ、忘れてはならないのがこの二人が尋常じゃない強さである。


 崩壊とともに上から降ってきた瓦礫を、盾の男が右手に持った鋏のような武器で両断していく。

 酸の銃を持つ女も、確実に降ってくる瓦礫を打ち抜いて溶かしてしまっている


 着々とフラッグに近づいてくる敵プレイヤーの姿は、守備側のプレイヤーとしては鬼よりも恐ろしいものだろう。

 『戦場連合』のプレイヤーもそう感じたのだろうか、大きな賭けに出たようだ。


 フラッグの前に突如として大きな塔のような建造物ができた。

 かと思えば、それは『インセル』のプレイヤー側に崩れ落ちてくる。


 二人は先ほどと全く同じように、降ってくる瓦礫を確実に処理しようとしていた。

 すると、鋏が両断した瓦礫が大きな爆発を起こしたのだ。

 思わずという調子で、二人は大きく吹き飛ばされることとなった。


 距離が一時的にでも離れた瞬間に、再び弾丸の嵐が吹き荒れた。

 今度は、ご丁寧に弾が小爆発を起こし、『インセル』のプレイヤーにも少しずつダメージが蓄積されている。

 ここをチャンスと見たのか、『戦場連合』のプレイヤーは要塞の再建を始めたようだ。


 『インセル』のプレイヤーは、先ほどと同じ手順で要塞に穴を穿つことが嫌なのか、戦場への復帰を目指すなりオーブを起動した。


 酸の銃が妖しく輝く。

 銃口が若干変形し、はじけそうなほどに光が明滅した。

 大きな反動とともに、大きなバブルが撃ちだされた。


 明らかに触れてはいけないことがわかる球だった。

 再建されている要塞など眼中にないかのように、バブルはまっすぐに今ある要塞の瓦礫に向かって飛んでいった。

 そして、着弾し爆発した。


 勢いよく爆発した酸は、周りの瓦礫をまき散らし、自身を広範囲に拡散した。

 付近にあった地面という地面が腐食を伴った酸の力によって、白い煙を上げながら溶けている。

 当然、プレイヤーもこれを食らっており、再建のための詠唱も途中で途切れてしまった。

 というか、それどころではなく苦しんでいる様子だ。


 唯一無事だったのが、頑丈な盾に身を隠した『インセル』の男性プレイヤーだ。


 彼は仲間の女性プレイヤーを含め、のたうち回っているというとんでもない状況の中、きわめて冷静に、悠々とフラッグを奪取した。


 試合終了のコールが鳴り響く。

 会場の盛り上がりは最高潮のようだ。


 俺とコータは、小さくため息をついた。


「なんか、話すのも忘れちゃったな」

「あぁ、『戦場連合』もかなり洗練されたチームだったが、『インセル』にはそれ以上の力があると明確に見せつける試合になったな」


 それから、コータと二人であーでもない、こーでもないと攻城戦の作戦を練っていた。

 もちろん、試合の観戦もしていたが、先ほどの試合を見た後では少し印象が薄れてしまう。


 俺たちは、工夫で力の差をねじ伏せるにはどうしたらいいのかを真剣に考えた。


 これから目指し戦っていくフィールドは、立てるものと立てないものが明確に区別されてしまう上、目的達成にはジャイアントキリングが必要不可欠なのがわかってしまった。


 何よりも、思い出したようなこの熱くこみ上げるような気持ちが、語っていたいと俺たちをせっつくのであった。


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