48.実況席からー第一試合
度々、二日に一回になります。
よろしくお願いします。
「おぉっと!!ここでチーム『韋駄天』から一人脱落だぁ!!やはり野生の力とは恐ろしいものなのか!ピンク仮面のスタッフの召喚した“大角牛”に引かれ、無防備なところを一突きされたぁ!!スタッフピンクさんの鮮やかな手際に、会場は若干引いております!」
会場から苦笑が漏れる。
実況席に座る男は、隣の女性に声をかけた。
「いやー、解説のユイアさん、今の戦いどう見ますか?」
「そうね、ピンクのスタッフさんはとっても慎重に戦っているんじゃないかしら。対人スキルに開きがありそうだったから、ゴリ押しで行くこともできたと思うんだけど、ちゃんと相手を観察してから攻撃を始めてた。複数体の中級モンスターを召喚してたところも慎重に行動してたことの表れだと思うわ」
「なるほど、ありがとうございます!さあ、そうこうしているうちに、各地でプレイヤー同士がエンカウント!!ようやく攻城戦本番が始まったようです!」
モニタの閲覧ブースには、大勢の人が詰めかけ、観覧席は満員状態だ。
16分割されたモニタは各プレイヤーに対応した12の映像プラス、フリーで流れる4つの映像を流している。
フリーの映像はクーレやパンナ姫が映ることが多く、観戦するプレイヤーの満足度を満たしていた。
「さて!まず注目すべきは我らがアイドル、クーレとパンナ姫でしょう!!彼女たちはチームフラッグを守護する役目を受け持っている模様!そこへ先ほど、4人のプレイヤーが一気に現れました!これはチーム『韋駄天』の作戦でしょう!まさに速さで相手を翻弄しようという作戦かー!?」
「普通のチームに対してはかなり効果的な作戦でしょうね。ただ、このチームにはクーレちゃんがいるから、あまり意味は無いかもしれないわね」
モニタの画面上で、4人のプレイヤーが一気にクーレの守るフラッグを取りに行った。
もちろん、様々な攻撃を乱れ打ちにしながらである。
クーレはパンナ姫を後ろに下げながら、得意のオーブを発動した。
4人の攻撃との間に現れたクッションは、その全ての攻撃を吸収して、彼らを弾き飛ばした。
圧倒的な防御力。乱れ打ちにも対応できるクーレ自身の勘の良さが、それを可能にしている。
モニタ越しには彼女の声は聞こえないが、クーレの活躍は会場を大きく沸かせた。
小さな少女が多数のプレイヤーをはじきかえす爽快感と、クーレ自身の人気がこの声援を作り出している。
つくづく、自分の魅せ方をわかっている少女がクーレであった。
「さすが<不敗天使>!!4人もの攻撃にビクともしないのは、彼女のオーブがなせる技!難攻不落の要塞と化したフラッグ周りを彼らは突破できるのか!?」
実況が盛り上げる中、モニタのプレイヤーが1人倒れる。
どよめきが広がる会場のプレイヤーはあるモニタを指さす。
「これは一体どういうことだー!いきなりやられてしまったー!犯人はなんと、青のスタッフさんだー!!目にも止まらぬ速技で、首を切り落としました!!」
「体力の概念とかない感じね。急所攻撃特化なんて、どこの対人ゲームをやりまくったのかしら。スタッフさんたちは全体的にえげつない攻撃をするわね」
「3人とも軍服っぽい衣装ですからねー。揃えて来たのでしょうか。立ち回りにも箔が付きますね!」
サーベルを一振りして構え直す動作に、会場のプレイヤーは鮮血を幻視した。
なんと自然に敵を屠るか。
仲間を失ったはずの3人のプレイヤーですら、驚きに足が止まっている。
青い仮面のスタッフは、再び動き始めた。
素早い動きで、一挙に3人と切り結ぶ。
「何ということだー!!青いスタッフさんは驚くほど強かったぁ!!対人戦闘でこれほどまでにうまく立ち回る人間がいただろうかー!?」
「オーブを使ってない状態であの動きをしてるのはとんでもないとしか言い様がないわね。プレイヤーレベルに開きがないと、やりたくてもできないのはもちろん、対人戦闘に慣れないとあれば無理ね」
右に左に、青いスタッフの動きは止まらない。
途中でクーレの方へ行くプレイヤーが出るも、悠々とクーレが攻撃を弾いていた。
乱戦状態が膠着しかかった時、別のモニタにも変化があった。
「おぉっと!?所変わってチーム『韋駄天』の陣地付近だ!モニタが接近、ズームし、その陣地を映し出しています!陣を守るのはただ一人!対して、陣を見つけたのも黄色のスタッフさん一人だー!どんな戦いが繰り広げられるのでしょうか!」
モニタに映っているのは黄色のスタッフ。
ゴシックロリータ感の強い軍服に身を包み、スカートをひらめかせている。
モニタに映る限り、彼女からフラッグまではまだ少し距離がある。
駆け出した彼女を待ち受けるのは、木々を素材に要塞を作り上げている男だ。
敵のフラッグは彼の作り出した自然の要塞に包まれ、視認することもままならない。
「さあ!!森の要塞に立ち向かうは黄色のスタッフさん!!対する『韋駄天』最後の砦は全力で迎え撃つ構えだー!!」
「彼は“魔術型”のオーブね。環境をそのまま利用できる能力はとても有用だわ。こんな要塞を作れるくらいだから、一回以上の進化は確実なプレイヤーでしょうね」
「つまりはなかなか強いということです!!お話だけ聞いてもわからないちびっこは検索しような!!」
要塞の主が詠唱をすると、周りの木々が黄色のスタッフに襲い掛かった。
しなり、うねる木々の腕。
それは一体の生き物であるかのように運動し、四方八方からの同時多発的な攻撃を繰り出す。
黄色のスタッフはそれを戦闘斧で丁寧に切り落としながら前に進む。
順番に、次第に何本も同時に。
彼女の戦闘斧が大きくなるとともに、攻撃範囲が広がっていく。
会場はこのぶつかり合いにボルテージを上げていた。
「なんというすさまじい攻防!!たかがオーブの力と侮ってはなりません!彼らのオーブは完全に彼らのコントロール下にあり、これだけ精密なコントロールを維持しながら戦うことはどれだけの精神力を消費するのでしょうか…!」
「私のオーブはあまり調整が効かないタイプだから、この二人のコントロールのうまさには舌を巻くわ。黄色ちゃんのほうは、あの戦闘斧の大きさや力のコントロールは普通じゃ難しいわ。相当慣れていないとああも自在に扱うことは相当のセンスか練習時間が必要になってくるわ。そして、要塞を作った彼。彼もたいがいよ」
モニタには相変わらず木々を放ち続ける男と、そのすべてを切り裂き続ける黄色のスタッフの姿があった。
未だに続く青い仮面のモニタと、こちらのモニタの二つが会場の視線を集めている。
しかし、青の仮面をした男は決着をつけずに何かを待っているようだった。
クーレが近くにいるとはいえ、そこまでして何を待っているのかが視聴者の気になるところとなり始めたときだった。
黄色のスタッフと要塞を作った男の攻防に新しい展開が見えた。
黄色のスタッフが少し前進したのである。
いつの間にやら大きくなった戦闘斧が、この前進により男の体を攻撃可能圏内に収めた。
黄色のスタッフが斧を振り下ろす。
大きな音が聞こえてきそうなほどに周囲に粉塵が飛び散る。
男はしっかりと後方に回避していた。
着地狩りとばかりに、斧を振り終えた後の黄色のスタッフに向けて、何本もの木の枝が迫っていった。
こちらも心得たもので、黄色のスタッフはこの攻撃のすべてを横薙ぎに断ち切ってしまった。
「なんという攻防!実力伯仲といったところかー!?」
「確かに、個人対個人ではかなり実力が近いんじゃないのかしら。けれど、この競技は団体戦なのよね」
ユイアのコメントを待っていたように、モニタの一つが『韋駄天』側の陣地に接近する更なる影を捉えていた。
その影は、俊敏な身のこなしで森の中を疾走している。
黄色のスタッフと要塞男の何度目かの打ち合いにおいて、黄色のスタッフが不意に大きく距離を取った。
それまでスタッフのいた場所が爆発する。
男は面食らったように、爆発物の飛んできた先を見極めようとしているらしい。
あたりをキョロキョロとした。
その隙を見逃すようなプレイヤーはいなかった。
黄色のスタッフの戦闘斧が急に倍以上のサイズに変化する。
天に向けて大きく振りかざされた戦闘斧は、太陽光にまぶしく光った。
一気に振り下ろされた刃は、森の要塞とも言うべき木々の枝やら根やらを粉々に粉砕した。
男は衝撃を食らって吹き飛び、乱入者はマネの出来ない身のこなしで衝撃を躱した。
初老の男性のようなキャラである乱入者が、フラッグを奪取したのはそれから数瞬の後だった。
会場のモニタには“『姫とクーレとスタッフ』WIN!!”という表示がなされ、クーレが映像記録用ドローンに向けて笑顔を振りまく映像が流れた。
「ここで試合終了ー!!!!勝者は『姫とクーレとスタッフ』だぁぁあ!!!」
切迫した空気がはじけた。
司会のこの宣言を皮切りに、会場のクーレファンは熱狂し、攻城戦第一試合は幕を閉じた。




