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Only Life of Arcadia  作者: kaisen
第1章 アルカディア
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1.【無職】の冒険

よろしくお願いします。

 OLA。人ではない生き物が住んでいる世界に、プレイヤーが入り込み、第2の人生を謳歌していくことがコンセプトのゲーム。その世界に、今、俺は…。


「来たぞー!」


 おおお!すごい!始まりの町アルカディアは獣人の町って聞いてはいたけど、こんなにたくさんのケモミミ様を拝めるとは!ありがたや、ありがたや…!

 さて、ケモミミウォッチングは後でたっぷりするとして、まずは戦闘をこなしておきたいんだよ。えーと、マップは…。

 俺は視界に映るコマンドを操作して、この都市と周辺のマップを取り出した。ついでに、オーブもアイテムとしてインベントリにあったので、指輪型のそれを右手の人差し指にはめておく。オーブは形態変更が可能。この初期マップ以外は購入しないとわからない。へぇ、凝ってるなあ。

 どうやら、今俺がいるのは都市の西側の時計塔のようだ。アルカディアには五つの時計塔があり、プレイヤーの初期位置はその五つのどれかになる。

 西の時計塔ならちょうどいい。モンスターの出現する“西の森”エリアがすぐ近くだ。丸腰で行くのも怖いから、とりあえず初期資金で適当な武器を買うかな。


「いらっしゃい!新人さんかい?安くしとくよ」


 一番近くの武器屋に行ったら、プレイヤーが経営している店だった。OLAは第二の人生というコンセプトを掲げているため、どんな職業にでもなれる。だから、この人のようにプレイヤーでもプレイヤー向けの店を経営していることがある。大抵は腕に覚えのある職人さんが、強者向けの武装を売っているらしいのだけど、この人のお店はなんだか様子が違った。


「初心者用の装備がこんなに、しかも低価格でそろっているなんて珍しいですね」

「まあな。実力のあるプレイヤーが争っている市場に入るのは厳しいから逃げてきた結果よ。経営も割と面倒な手続きとかがあるんだよ。ま、面倒さをいい感じに残しているゲームだから面白いんだと思って、毎日細々と続けてるよ」


 ニカリと豪快に笑うおじさん。こういう生活をしてみたいなと思いつつ、初心者用の武器を見せてもらう。

 剣。槍。弓。槌。短剣。篭手。棍。盾。

 実に様々な武器が並んでいる。OLAはアイテムの種類がとんでもないことで有名ではあったが、武器だけでこんなにあるとは思わなかった。これではまた悩むだけで時間が過ぎてしまう。

 すると、店主のおじさんが話しかけてきた。


「どれにするか決められないのか?」

「はい。武器とか、あんまりほかのゲームでは使わなかったので…」


 自分だけの町を作るとか、牧場を作るとか、動物と仲良くなるとか、そんなゲームばっかりプレイしてたから…。ワタルに誘われてちょっとやったのは、刀と槍しか出てこない戦国ものだったしなあ。


「それなら、槍でいいじゃないか。見たところリーチが短そうだからな。長物で使ったことがあるやつがいい。自動戦闘サポート機能があるとはいえ、動き方がわからないとこの世界じゃやっていけないぞ」

「なるほど…。じゃあ、これにします」


 ほんとはブーメランみたいなやつとか、手裏剣みたいなやつとか気になるのはたくさんあったけど、使えないと意味ないし。防具もおじさんのおすすめを聞いて、購入っと。


「ありがとうございました!」

「毎度!嬢ちゃんかわいいんだから気をつけてな!」

「な!俺は男です!」


 ぽかんとした表情のおじさんを残し、俺はその場を去る。

 まったく、失礼だ。いくらデフォルメされているとは言え、俺を女と勘違いしていたなんて!いや、そう考えると女性ものの胸当てをオススメされたのも納得がいく。くっ、かわいいものが好きでも男は男だというところを示していかなければ!

 よし、早く戦闘をして、かっこよく男らしく決めてやる!


 と、いうわけでやってきた“西の森”。町を抜けるとき、門番にも女扱いされたのが気に入らない!とりあえず、この恨みはモンスターにぶつけようと思う。

 槍の取り回しを、戦闘サポート機能をフルに使って確認する。よし、何となく行けそう。

 準備運動を終えた俺は、森の少し深いところに入っていった。というのも、都市の近くにある森なので、深めなエリアにしかモンスターがポップしないのだ。

 しばらく行くと、靴を履き、ハットを被るペンギンがいた。

 正確には“陸ペンギン”というモンスターで、見た目はかわいいが凶暴ですぐにプレイヤーを襲う。しかし、攻撃は直線的で倒すのも容易という初心者用のモンスターだ。

 俺は槍を構えたが、とてつもない葛藤に襲われていた。

 このモンスター、かわいいのである。かわいいは正義というモットーを掲げている身としては何とも倒しがたい。ああ、ほら、今も目が合って…。

 ん?見つかった?

 一つ小首をかしげると、“陸ペンギン”はびっくりするほど怖い形相で襲い掛かってきた。くちばしを突き出して、さながらミサイルのように飛び込んでくる様はまさにモンスター。これは認識を改めなければならないと、自分を律しつつ、横っ飛びに避ける。案外簡単かと、一息ついていると、二度目の攻撃がきた。当たり前である。ターン制のゲームではないのだから。俺はテンパって槍を使うことも忘れて攻撃をかわし続けた。森の中の戦闘なんてほかのゲームでもやったことがない。移動しながらおっかなびっくり戦闘していると、だんだん慣れてきて頭が働くようになってきた。そう、槍の存在を思い出したのだ。


「って、馬鹿なのか俺!テンパりすぎでしょ!」


 俺は若干広く戦いやすそうな場所に飛び出し、槍を構えた。そこへ突撃してくる“陸ペンギン”。俺はそのくちばしを槍の先端ではじいた。はじかれた“陸ペンギン”は地面を転がり、態勢を立て直そうと足を踏ん張っていた。冷静になった俺は、この隙を見逃さなかった。まだよろけている“陸ペンギン”に槍を一突き。“陸ペンギン”の体が、赤く明滅し、光の粒子となって消えた。こうして俺は、散々な初戦闘を終えた。

 テンパったとはいえ、体を動かして戦闘するのはやはり大変だ。予想外に疲れたので、今日はこれでログアウトしようか。そう思った矢先だった。

 周囲からわらわらと“陸ペンギン”が現れたのだ。一体どういうことかとあたりをよく見れば、“陸ペンギン”の巣らしきものが点在していた。


「なにこれ、やばくない?」


 “陸ペンギン”の形相が鬼のように変わる寸前、俺は打開策になりそうなことを思い出した。オーブだ。この世界に入ったときに、“魔術型(スペル)”だということは確認済み。“魔術型(スペル)”は遠距離攻撃や範囲攻撃ができるものが多いと聞く。いちかばちか、ここで発動させる…!


「発動しろ!“魔術型(スペル)”!」


 青い光を放ち、オーブが起動する。光が収まると、そこには相変わらず、“陸ペンギン”の群れ。

 彼我の間に奇妙な静寂が訪れた。


「………」

「………」

「なんでだあぁぁぁっ!!!!!!!!!!!!」

「「「「「「「「グキェエェッ!!!!!!」」」」」」」」


 その後、俺は赤く明滅して、光の粒子となった。


―プレイヤー:カゲツ が 死亡しました。アカウント制限 12:00―


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