102.sideC 【傾国】の挑戦状
遅れました。
4章はA,B,Cの三方面展開をします。
どうにか完走できるように頑張ります。
よろしくお願いします。
誰が用意した運命だろうか。
俺は少しだけやんちゃな普通のプレイヤーだったはずだ。
だが今はどうだ?
なんだか知らないが、ゲームの中でそれなりに面倒なバイトをさせられている。
いや、強くなれるし、まるっきりいやだってわけではないけどさ。
たまにはしんどいなって思うときもあるわけ。
それが今なんだけどさ。
「キャップ! 急げ! イレギュラーなイベントが進行を始めている!」
「いや、待ってくださいよ! 今日は俺、シフトじゃないし、こんなところ攻略するんじゃなくて、レアモンスターを集めに行きたいんですよ!」
「そんな余裕はない。鍛えてやったんだからこういうときは働け」
「マジかよ……」
俺のことを引きずって連れていくのは、ガモウさんっておっさんだ。
運営に雇われて、いろんなところに潜入しているらしい。
だから、本当の性格とか何にもわからない。
俺の前ではいつもこういう不愛想なおっさんだ。
俺も同じ立場の、雇われプレイヤーだからかもしれない。
「俺たちはプレイヤーの影だ。日本風に言えば忍者だ。上の命令はしっかり聞かなきゃならん」
「いや、忍者とか。俺はそういうのにあこがれてるわけじゃないんすよ……」
「いいから行くぞ。今回は、表に立ってでもイベントクリアに協力しなければいけない」
いつになく焦った様子のガモウさんに概要を聞きながら、俺はキョウゴクに向かった。
キョウゴクは和風の街として有名だが、特に攻略に必要な要素が多くあるわけではなく、最果てに“幻界の入り口”という高難度ダンジョンがあるくらいのいわば鑑賞用の土地である。
噂ではお姫様がいると聞いているが、真偽のほどは定かではない。
「こんな辺境でイベントなのか? キョウゴクはそんなに人気がないのかよ」
「別にそういうわけじゃない。キョウゴクはそれなりにプレイヤーで賑わっているだろう」
「確かに、周りにはプレイヤーだらけだな。コスプレをするようなエンジョイ勢が多いみたいだが」
「そうやってプレイスタイルで判断するのは良くない。そして、プレイヤーがいるかどうかは問題ではないのだ。今回は……」
ガモウさんがそう言いかけたときだった。
リアル時間の19時を告げる鐘があたりに響く。
その音はいつもなら5秒程度で消える。
しかし、今回はなり続けた。
心なしか音量も増しているように思える。
「なんだ?」
「始まったのか」
周りのプレイヤーや俺が混乱しているなか、鐘の音は次第に不気味な音楽に変わっていった。
そして、涼やかな鈴の音が響いたかと思うと妙な迫力をもった女の声が聞こえてきた。
「キョウゴクにいらっしゃる皆様、ごきげんよう。わたくしは【傾国】。今宵からこのキョウゴクをいただきにまいりましたの」
周囲の驚きと戸惑いが喧騒となって広がっていく。
「ガモウさん、これって……」
「そうだ。【八獄】イベントだ」
「なんで! 【八獄】イベントは告知が先にあるはずじゃ!」
「残念ながら、【八獄】はもう運営の手を離れてしまったらしい。だから、俺たちが呼ばれた。被害を最小に抑えるためだ」
【傾国】の話は続く。
「とりあえずはこのエリアに私の僕を放ちますから、皆さん、場所を空けてくださいね。抵抗しても結構ですが、どこまでもつかしら? 私に、皆さんの悲鳴を聞かせてくださいね」
そういうと、鐘の音と不気味な音は消えていった。
しかし、代わりに、あたりには仄暗い紫の霧が立ち込めはじめ、その中にゆらりと影がよぎる。
「これは……」
「【傾国】のオーブだな。簡単に言えば、死霊術……」
「【八獄】のオーブの真相は運営サイドでも開示されていない情報でしたよね。どうやって戦いますか?」
そんな話をしていると、そこかしこから、骨だけのモンスターやゾンビのようなモンスター、ほとんど 人間に近いような、でも一部分が欠損しているようなモンスターがわらわらと出てき始めた。
こいつらが、他のゲームにあるように浄化をしなければ不死身とかだと本当に困る。
まずは分析をしたいところだが。
「数が多い。キャップ、とりあえずなんか召喚して対応しろ」
「なんでそう人使いが荒いんですか」
「いいから。大群には大群だろうが」
「あーもう」
ガモウさんはそれだけ言うと単身モンスターの群れに飛び込んでいった。
「“我、変化を求むるものなり。万変する我が体の名は〈飛竜〉”」
モンスターの群れに突如として、大きな飛竜が現れる。
比較的軽い体躯のモンスターたちはそれだけで大きく吹き飛んでいく。
「早く援軍よこせ」
暴れながら言ってくるガモウさんの姿を見てもあまり必要そうには思えない。
だが、あとで怒られても嫌なので、素直に中型のモンスターを何体か出すことにした。
「〈異次元怪物園〉!」
呼び出したのは太い一本の角をもったサイのようなモンスター。
ザクザイである。
西の平原ハンペルタで行われた大量発生イベントで狩りまくったモンスターだからストックは多い。
割と優秀なアタッカーで体躯も大きいので、三頭も召喚すれば大通りの横幅もいっぱいになってしまった。
「全体突撃!」
飛竜となったガモウさんが暴れているあたりにザクザイを向かわせる。
骸骨人間やゾンビのモンスターは弱点をつかないといけないかわりにとても打たれ弱い。
ザクザイの突進で粉々になり、弱点ごと吹き飛ばされた個体がほとんどだった。
「よくやった。このまま俺は前進して、華の十字路に行く! お前はすべての小路と大路にザクザイ落として、南からモンスターを追い立てていけ!」
「ムチャ言わないでくださいよ!」
そんなことをすれば体力はともかく、作業量とコストがバカにならない。
「うるさい! お前がやらなきゃ南部下町のNPCが死んじまうだろうが!」
それだけ言うと、ガモウさんは前進していってしまう。
ガモウさんを含め、運営協力側のプレイヤーはNPCを大事にする人が多い。
理由はさまざまであるが。
俺も少し思うところがあり、それについては文句ないのだが、このキョウゴクにおいてガモウさんの言ったことをするのは少々面倒なのだ。
碁盤の目のように作られた計画都市は南北に大小合わせた9本の路が通り、東西には4本の条がある。
それらが中心となって町が形成されているのだ。
北には城があり、上流階級の街とされているため、プレイヤーや戦えるNPCはこちらに集まっている。
つまり、ガモウさんが言ったのは南の戦闘向きではないNPCを守るようにということだ。
「南北の路すべてにザクザイを配置するとか、どんだけ重労働させるつもりだよ……」
移動用にテイムモンスターのヒポグリフを呼び出す。
「今いるのが朱雀大路……西大路まで一気に行って、東大路までの路を順番に処理していくか……」
見当をつけて飛び立つはいいものの、おそらく東の端の方は間に合わないだろう。
そんな予感を感じつつも、とにかく今はできることをするために西大路へ向かった。
大路はやはり人が多く、突然現れたモンスターに対応して戦闘を開始しているプレイヤーが数名いた。
「加勢する! うまく使ってやってくれ!」
上空からそのように声をかけ、ザクザイを二頭ほどモンスターの群れに投下する。
「召喚型か! 助かる!」
「南下させると被害が大きい! なるべく北に押しとどめるように戦ってくれ!」
「わかった! 周りにも伝えておこう!」
声の大きいプレイヤーに同意を得たことに安心し、俺はすぐ横の小路、天道小路に目を向けた。
大路に比べ、小路は道幅が狭い。
それぞれの小路には、六道になぞらえたデザインが施されているが、道の両脇に置かれた石燈籠のような小物は既になだれ込むモンスターの群れによって破壊されていた。
ここでザクザイを出せば、モンスターをせき止めることはできるだろうが、小物はまず無事では済まない。
むしろ、建物のような大型のオブジェクトすら傷つけてしまうかもしれない。
そう考えつつも作業の速度を優先した俺は1頭のザクザイを小路に落としていった。
栓をしたように小路を塞げる体躯は今回の目的を達成するのにちょうどいいといえるだろう。
「ザクザイ程度の耐久力でどれだけもつかはわからないが、今はすべての小路を塞ぐのを優先しよう」
俺は時間に追われるように天道から始まる六つの小路すべてにザクザイを落としていった。
この突発的なイベントに対応できているプレイヤーは少ない。
混乱はじわじわと広がっている。
OLA世界、東端の都市にて、大きなうねりが起き始めていた。




