勇者が来た!
「大変です!」
魔王の玉座で魔力を吸われ何時ものように軟体生物と化しているカルワー。そして、それを棒でつついて生きているか確認しているメイドのエスミル。
「……あの、カルワー様」
「ちょっと待ってね(ツンツン)……生きてる」
「生きとるわ!」
キレたカルワーの叫びが木霊するなか、
「カルワー様。大変です」
「……何で棒読み?」
「何か、慌てるのバカらしくなったんで」
一般兵士にまでカルワーの生態については『魔王攻略! これで出世も思いのまま!』(作:大魔導師)が出回っているために知られている。
「フーン、まいっか。大変ってのの内容は?」
「勇者が来ました」
「え? 勇者?」
カルワーはエルミスを見る。その目は何も分かっていませんと言っている。その目をエルミスは黙って突いた。
「目が~! 目が~!」
お約束をするカルワーを尻目に恐怖におののく兵士へ向き直る。
「勇者が現れたのですか?」
「はい。人族の国より来たようです」
「兵士達は?」
「隊長クラスが出て手を出さないように言っていました」
「賢明ね。一般兵士なら蟻を潰すように殺されるから」
「それほどまで強いんですか?」
「前の勇者は先々代の魔王と一騎討ちできるほどの強者でした」
「説明しよう! 先々代の魔王とは北の領主に進められマッスルにはまりこんだ自らを『キ〇肉マン』と名乗りボディビル大会を荒らし回った強者である」
カルワーが復活して喋りだした。
「そして人族であるボディビル大会まで『俺の筋肉を魅せに行く』と言ったとか。それに危機感をもった人族の王が勇者をプロテイン漬けにしてぶつけてきて人族との抗争になったのが一騎討ちとして語り継がれている」
「あんた、さっきまで勇者って何? て顔してたよな!」
「目潰しされた時に思い出しました」
「都合がいいな!」
「いやいや、それほどでも」
「誉められてませんが? それに普通は一般兵士がそんな口きいたら不敬罪で拷問フルコースです」
「よかったな。肩こり治るぞ」
「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめーー」
「いきなり土下座!?」
「普通、拷問何て受けたくないからそうなりますよ。いいでしょう。私の権限で助けてあげます!」
優しい笑みを浮かべるエスミル。
「ありがとうございます! エスミル様」
涙を流し感激する兵士。
「こうして、またエスミルの下僕が増える。……っと」
エスミルの下僕。別名『信者』はエスミルに心酔した者達で創られた非営利団体。情報収集を主とした働きでエスミルの助けになっている。そしてカルワーの頭を何処からともなくやって来てハリセンでひっぱたく。
「あっ、勇者は?」
カルワーが思い出したように手を叩いた。
《ドガーン!》
「扉が吹っ飛んだ? まさか俺の隠された力が覚醒した!」
「「それは無い」」
「何故か、ハモった!?」
カルワーのボケにツッコミいれてる間に壊された扉の向こうから現れたのは、赤いおさげの少女だった。
「いつまで待たせるのよ!」
「キレてますけど? 勇者が」
「すいません。こいつがカッコつけたがったんで」
「あれ? 俺のせいにされてる?」
「本当にこの魔王がすいません」
「エスミルさん?」
いじり倒す2人に慌てるカルワーは少女に向き直り、
「私が「なんちゃって」魔王カルワー……エスミル! どうせなら『ニートになりたい』にして!」
「それもダメでしょ!」
「で、お前が勇者?」
少女は胡散臭げにカルワーをみるが思い出したように壊した扉の向こうに走り去った。
《ガラガラガラガラ……》
少しして少女が荷台を押してきた。荷台の上には膝を抱え暗い目をしている少年がいた。
「……」
少年はこちらも見ずに手の中のゲームをしている。
「勇者です」
おさげの少女が申し訳なさそうに言った。
「……これが? 勇者?」
「ある意味恐ろしい」
カルワーはお仲間が来たとゲームを取りに行った。
「エスミル様。私は持ち場に戻ります」
兵士は礼をすると帰っていった。その背に、
「宰相にこちらに来るように言ってください」
そう命令した。
「ゲーム持ってきた! どれする? PS〇、3D〇、ウフィー? 」
ごちゃごちゃゲームを持ってきたカルワーはたどり着く前に落とし穴に落ちた。




