カデンツァ 完結編 5
座り込んでから、それほど時間は経っていなかった。
ふと、背後からピシャン・ピシャン・ピシャン!と、軽快な足音がこちらへ近づいてくることに気づいた。
ゆっくりと振り返る直樹。
そこで視界に入ってきた黒い人影。
それは既に今にも飛び掛らんばかりの体勢を取っていた。
幅跳び選手が勢いをつけ、最後のジャンプをした直後の空中でのくの字の格好 ―――― 靴裏がこちらを向いている。
「う・わあぁぁぁッ!!」
上着のポケットに手を突っ込んで座っていた直樹、咄嗟に立ち上がって蹴りを避けたものの、うまく腕が抜けず水溜りの中にビショッ!と尻から倒れ込んだ。
相手の足はトンネルに当たり、ずれ、体は背中から、こちらもぬかるみにべちょっ!と嵌まる。
が、すぐさま後転して立ち上がり、攻撃の構えを取った。
「何じゃーッお前!!ケンカ売ってきてるんやったらハッキリ言えよ!!残さず食うたるぞ!!」
その言葉に、直樹も応える。
「何だテメェッ!!どこのモンだ!!」
ポケットから腕を抜き、地面に膝をついて人影を凝視する。
すると相手から拍子抜けしたような声が返ってきた。
「……アレ?ニイニイ?」
「………」
目を凝らし、改めてじっと見つめてみる。
その黒い影は、琢磨。
「……何やお前か!びっくりさせんなよ!うわー言うてもうたやんけ!」
琢磨はそこで構えを解いた。
「あー、ごめん。昼間襲うてきたヤツかと思うたんよ」
「………」
「………」
直樹は泥まみれのまま、もう一度トンネルに座り直した。
「お前、こんな時間までドコ行っとったんや」
「ええ?ドコって、仕事やんか」
こんな時間までさせる仕事を与えた覚えはないのだが…。
コイツは自分からも仕事を見つけ、貪欲にやっている。
琢磨もトコトコとやって来て、直樹の隣に腰掛けた。
「あんなぁニイニイ」
「んー?」
「ごめんな」
「あー…ま、よう見えなんだんやろ。しゃーないんちゃうか。っていうかお前、そのケンカっ早い性格何とかせェよ」
顔を突き合わせているが、暗くて表情まではよく分からない。
「イヤ、ちゃうって。今のじゃなくて、昼間のことよ」
「………」
「1人のときに頑丈じゃないとアカンとか言うとって、昼間俺、ニイニイのトコへ助け求めに行ったんよなー…。それをごめんって言うとるんよ」
何だ、そっちのことか。
……何を謝ることがある。
「言うとるばっかりじゃアカンの分かっとるんやけどなぁ。甘えとるんやなー」
お前の年齢なら至極当然のことだろう。
お母さん・お父さんと言っていたところで、まだ許される年齢。
これまで人に接するに当たり、できるだけプライベートには関わらないようにしてきた、そんなマイルール。
拘ったというほどでもないのだが、極力そうしてきた。
だが、直樹はここで琢磨に尋ねる。
「お前、お父さんとお母さんと弟がおるんよな」
「ええ?うん。…アレ?弟の話したっけ?うん、おるよ。……え、じゃあもう昼間のことは怒ってないん?仲直りしたって思っとっていいん?」
「仲直り?気色悪いな!俺は仲違いした覚えもないわ。で?お前、両親のこと嫌いなんか」
「キライ?イヤ、そんな風に考えたことないよ」
俺は昔から、父のことを尊敬していた。
今もきっと…。
「ていうか、キライでもそんなこと言わんよ」
「何で?」
「イヤ、人様に自分の親の悪口言うてどないすんねん。そんなん人格疑われるやろ?俺はそこまで人に嫌われていいっていう覚悟はないわ」
「覚悟?」
「うん。まぁそう考えてるってことは、キライではないんやろね」
「……そうか」
なら、俺もお前と一緒だ。
親というものは、なったことがないものの、想像を絶するほど大変なものらしい。
子供がまず最初に見、聞き、問うことの内容というのは、大体が親から教わるものなのだから。
その責任は極めて重大なんだそうだ。
「……あのな」
「ん?」
「俺、おってもエエやろ?」
「……イヤ、だからやな、不衛生やしお前、冬になったらどうするつもりや?」
てっきり住居の話をしているのだとばかり思っていた。
すると、
「イヤ、違うよ。住む所の話違うって。居場所の話やんか」
「………」
「正直居場所がないっちゅいーのは辛ぁてしゃーないっていうか、ちょっと耐えられそうにないっていうか」
「………」
俺も居場所を模索した。
コイツに言ってやれることは何もないような気がする。
人には人に言えない事情があり、その事情はまた聞き手の理解力にもかかってくる。
俺の頭、理解力はコイツが望むほどに良くはないのだろう。
直樹は琢磨の問いに、ただ「ああ」とだけ応えた。
ただ、ほんの少しでも理解してもらえたらと思うのだが、俺は俺でコイツのことを考えていたという事実。
だがそれは告げないでおくことにする。
「ところでな、ニイニイ」
琢磨は持っていたカバンから1冊のノートを取り出し、ページを捲った。
「アレ、よく見えんな。明るいトコ行かへん?この辺に書いたあるんやけど」
そう言いながらノートを指差し、
「コレどうなっとるん?」
「んー?…全然見えん。俺、それでのうてもコンタクトやからなぁ」
「え、ニイニイって目が悪いん?」
「おう。コンタクト外したら何も見えん」
「じゃあちょっと明るいトコ行こうよ」
ここで直樹は不意にメグミとの約束を思い出した。
時計を見ると、時刻はもう午前。
……忘れたフリをすることにしよう。
「まぁ、仕事のことは明日でいいよ」
「そうかー?マジ?気づいたときに教えてほしいんやけどなー…」
メグミとの話も明日……今日でも構わないだろう。
そう考える。
直樹は途切れがちにもぼそりぼそりと喋りつつ、琢磨も眠たい顔をしながらそれに付き合う。
2人とも泥まみれのまま、そうやって朝まで時間を過ごしていた。
―――― 二日前のことになりますが、自転車を盗まれてしまいました。
歩いて帰ると1時間以上もかかる場所で、自転車を盗まれてしまった。
実に腹立たしいことです。
何に一番腹が立つかというと、あの自転車は僕が欲しい欲しいと念じ続けた結果、ようやく買っていただいたもの。
「自転車が必要です」そう申し出たのではなく、「お前も自転車くらいは要るだろう」と申し出ていただいて買い与えてもらったもの。
それを、労せず、たまたまその場所に居合わせた者が何の信条もなく盗み取り、今頃楽をしているであろう現実を思うと、異常に腹が立つのです。
あなたの職業は泥棒ですか?
アルセーヌ・ルパン
石川五右衛門
あの辺の方に盗られてしまったのであれば、僕のあの自転車もさぞかし誇りに思うのでしょうが、本業を持ちつつ副業でした半端者の泥棒に盗まれたと考えるのが妥当な今回は、僕の逆鱗を軽く飛び越え、一周回った先にある僕自身にまで怒りを覚える。
他人を信用するな。
お父さんは僕によくそう言います。
この言葉に含まれているいろんなものの度合。
『お父さん』と『お母さん』はどう思いますか?
今の僕の生活の中に、戸籍上も含めた現実として、他人以外の人間は存在しないのです。
他人を信用するな。
これを100%守りきって生きて行ったとして、本当に人としての水準で生きて行けるのでしょうか。
真のように聞かされて、実際嘘だったという話が何個もある。
山で迷った時は樹の年輪を見ろ。そうすれば方角が分かる。
これは嘘でした。
樹の年輪の偏りは方角などで決まるのではなく、樹木が斜面に対応するべくできる偏り。方角ではない。
白髪の人はハゲにはならない。
これも嘘でした。
髪に色を着ける組織と、頭皮に根を生やす毛根にそれほどの因果関係はなく、年を取ると髪に色を着ける組織が衰退していく……
要するに白髪の人だから禿げていないのではなく、白髪の人は禿げていないから白髪なんだ。
他にも信じた言葉がただの迷信で、事実と異なっていたというのは多々あります。
全て人から聞いたこと。
事実を導き出したのは、自分でやったこと。
できれば、後で面倒を起こすであろう嘘というのは、言わない方がいい。
嘘を言う相手の有無については、この際隣に置いておきます。
一概に2が4、4が8、いや4が16。
塵であった嘘は二乗を重ねて、莫大なものになってしまうんだろう。
あの泥棒も、僕の自転車を誰にも見付からない場所に隠し持っているんだろうか。
他人というのは、一体どこまでの人のことを言うのでしょうか。
調べてみたのですが、実に数学的な一本線の入ったそんな答えしか見付からず、僕の求める答えとは程遠い答えしか見付かりません。
義父・義母は他人ですか?
友達は他人ですか?
他人というものは、辞書の通りに受け止めて良いものなのですか?
自分が目にする・耳にする思念、言葉通りにそれらの言葉を理解すると、やはり僕の周りには今のところ、他人しか存在しません。 ――――
太陽が昇り、辺りがだんだんと明るくなり始めた頃、直樹はようやく部屋に帰った。
ズボンの膝や上着の肘にまで泥が付いていることに、明るい部屋に帰って初めて気づく。
玄関でそれを払い落とし、ほうきで掃除をし、まとめてゴミ箱に捨ててリビングに入ると、メグミがそこに座っていた。
「おかえりなさい」
その一言に含まれたものを考えつつ、後ろめたさを覚えつつ、直樹は無言でリビングを通り抜ける。
脱衣所の籠の中にズボンと上着を放り込み、部屋着に着替えて再びリビングに戻ると、メグミはいつもの顔と調子で話しかけてきた。
「ねぇ直樹くん。今から寝る?」
「………」
「……6時」
「………」
決して忘れていたわけではないメグミの言った『重要な話』
その内容は直樹も気になっていたが、いつまで経っても何故か聞く気分になれないでいた。
「……せやなぁ、腹減ったな。ごはんあるか?」
「うん、あるよ。じゃあチンしよか」
普段と何ら変わらぬメグミの行動に含みを感じるのは思い過ごしなのか。
彼女はまるで何もなかった、今も別に何もないかのように、直樹に対する通常と同じ振る舞いをし続ける。
直樹はそれを気にしつつも、リビングで自分の仕事を広げ始めた。
毎月23日と27日、直樹は仕事には行かず、部屋にいなければならない。
メグミと同じように会社でというのではなく、直樹個人が雇っている人間に直接給料を手渡しするため。
手間は掛かるが、受け取る側にも諸々の事情があり、こんな手段を取らざるを得ないのだ。
今日も直樹の部屋には給料を受け取るために、何人もの人間が部屋を訪れる予定になっていた。
トランクの中から現金を取り出し、明細と照らし合わせて封筒に詰め、それをカゴの中に入れていく。
前日には済ませておかなければならなかった給料袋の用意を、今慌ててしている。
メグミはそんな直樹の姿をチラチラ見ながら、食事の用意をしていた。
「手伝おうか?」
「イヤ、エエよ。人さんの給料、お前に触らすわけにいかんやろ」
「……ごはんできたよ」
その言葉に、直樹は手を止める。
テーブルの上には目玉焼きにベーコン、レタス、トーストとコーヒーが用意されていた。
朝食を作る際には必ずこれにしてくれと言っているメニュー。
直樹がテーブルに着き食事を始めると同時に、メグミは席を立って背を向け、洗い物をし始める。
自分の心境でそう思うのか、わざとらしいその態度が気になり、直樹は手と口を動かしながらメグミの背中をじっと見つめていた。
午前10時を回ると、直樹の部屋には給料を受け取るために人がぽつぽつと現れ始める。
いつものように一人ひとりと10~15分話をし、勤務や経営に対するアドバイスなどをする。
ただいつもと違うのは、この場にメグミがいること。
何故かメグミは自分の部屋に帰ろうとせず、ずっと直樹の隣で一緒に話を聞いているのだ。
普段から変わった女だとは思っていたが、こういう場合の機転は利く方だと思っていたのだが…。
「……おいお前、寝んでエエんか」
「え?眠くないし、いいよ。明日休みやしね」
「……アレ?お前、明日休み?嘘吐け。仕事やないか」
「………」
嘘を吐いてまで、何で居座ろうとしてる?
メグミから漂って来る空気が自分に触れて、何故か緊張感に変わる。
「イヤ、ていうか察しろ。お前がおることで、アイツらの中で内々にしときたい話を俺にできんようになっとるやないか」
「えー、気にせんでいいよ。気にせんと話して」
「………」
「うわー、ナニこの人の給料袋!見て直樹くん!ほら、こうやったら給料袋が立つやんか!」
「………」
してくれなくていいと言いながら時間に間に合わず、結局給料を詰める作業を手伝ってもらった手前、帰れとは言い辛い。
相変わらずすぐ傍で、直樹たちの遣り取りをじいっと見ているメグミ。
何故彼女が今日このような態度を取るのか理解できない。
そんな状況のその部屋へ、人は次々とやって来る。
中には自分の店の売り上げを直樹に納めに来る者もいる。
「へ~、直樹くんアレなんや。給料渡すばっかりじゃなくて、お金も貰うんやね」
「アイツの店はアイツが経営してることになってるけど、実質俺が経営しててやなぁ。まぁ、○○○にバレたくなくてな、アイツは雇われ店長や。…って、何でお前にそんな話せなアカンねん!」
直樹は来客の途切れた今の隙にと、給料袋を入れているカゴを掻き分けながら、
「あ、そやったな。お前にも給料渡さな。先に渡そか」
するとメグミが即座に言った。
「一番最後でいい」
「え?」
「一番最後でエエ!」
「………」
それ以上言葉を繋げることはできなかった。
帰らせようとしている自分の考えが見透かされている…。
コイツは何故か、わざとここにいる。わざと話を聞いている。
特に何を言うわけでもなく、それでいて解せない態度を取り続ける、そんなメグミにどう対応したら良いのやら。
肩身の狭い我が身の置き所を思わず探し出しそうになってしまう自分がいる。
幸いなのかどうなのか、今のところ訪れている人間は全てが男。
が、今日来る者の中にはもちろん女もいる。
自分の中のメグミの存在がどういうものなのか理解できていない今、更に言うとメグミの中の自分は本当のところどういう存在であるのかという懸念。
それらを考えると、……この後ここに来る女たちのことを考えると、後ろめたさに晒される。
そんな直樹の憂鬱を余所に、しかし人は次々とやってくる。
男も女も、どちらでもある者も。
その内、時間はあっという間に夕方に差し掛かっていた。
「もう4時か。お前、腹減ってないんか」
針のむしろに座らされているような、そんな気でいた直樹、メグミに久し振りに話しかけた気さえする。
「私、平気」
「お前、こんなん見とって面白いか」
「別に面白くない」
「………」
取り付く島もないというのはこのことか。
こんなメグミの態度は初めてで、本当に戸惑っている。
昨夜はすっぽかして悪かったと、そう言ってしまえばいいのか。
だがそれが簡単にできない自分に、次第にイライラが募り始めた。
「あー、もうアレやお前、できることないから帰れ」
「今日は私も給料日」
「じゃあ先渡すって」
「一番最後でいい」
「………」
朝一で思った『何ら変わらない』というのはメグミの表情だけだった。
「だったらお前、夕飯作って来い。腹減ったわ」
「………」
「ほら、早く」
「ここにある材料で済ませていい?」
「アカン。ここでジャージャーやられたら気が散るから。自分の部屋で作って来い」
「………」
メグミは何も言わず席を立ち、スタスタと部屋を出て行った。
姿が見えぬ強迫観念。
何故か分からぬ圧迫感。
これまであまり体験したことのないその空気から解放され、直樹は少しほっとした。
来客のたびに報告を聞き、アドバイスをし、時には罵声を浴びせ、夕方6時頃には残る給料袋もほとんどなくなっていた。
「フ――――ッ……あと2人か」
溜息を吐き、後ろに手をついて首を鳴らし、天井を仰ぐ。
途中一度琢磨も訪れたが、部屋の外で待たせている。
「……あー腰が痛い……まぁもうじき終わるから待たしときゃエエやろ……」
そう独り言を呟いたとき、今日何度目かのチャイムが鳴った。
残った2つの給料袋を見て今度は誰かと予想を立て玄関の方に目を向けると、入って来たのはお膳を持ったメグミ。
彼女はそれを台所のテーブルに置くと、当然のように再び直樹の隣に陣取る。
「えぇー……お前、またここへ座るん?」
「え?うん」
「何でや。こんなモン見とってもつまらんやろ。それに、お前がおるとせなアカン話もできんってさっき…」
そこまで言うと、メグミは覆い被せるように口を挟んだ。
「直樹くんがね、……直樹くんがどんな人と付き合いがあるんか知っときたいんやわ」
「……イヤ、何でお前が俺の付き合いを、」
「それと!直樹くんが個人的にどれだけの人にどれだけのお給料払うてるんか、知っときたいん」
「………」
メグミのワケの分からない言い分に、まずは言葉を失った。
「……お前、何言うとんねん。そんなもん、お前に関係ないやろ」
「関係ある!」
「何を自信満々に…。関係ない言うとんねん」
「いいから!」
「いいからちゃうって」
言い合いのような会話をしている最中、またチャイムが鳴り、直樹はそちらに目を向ける。
入ってきたのは、直樹が出所時から経営の苦楽を共にしてきたサトミ。
サトミは契約上、直樹の組織の配下というわけではなかったが、いまだに毎月100万円を直樹の元に持って来ていた。
「あ~、直樹くん久し振り!」
「あ、おう…」
「月に一度しか会えないって寂しいんだけどねぇ。私もなかなか忙しくってねぇ」
サトミはそう言いながら、小走りでリビングに入って来た。
「おう、そやな。忙しいっちゅーのはエエことやわ」
彼女は長い髪を揺らしながらテーブルを挟んだ向かい側、直樹の正面に流れるような動作で座る。
そしてすぐに、直樹の隣のメグミに視線を向けた。
「アレ?直樹くん、この子誰?」
「あー…誰って…まぁ、気にすんな」
「………」
何かが通り過ぎた目をしたサトミに気づかないフリをして、直樹は早速店のアガリなどの詳しい話を聞き始める。
彼女はそれに答えつつ、ちらちらとメグミに視線を遣っている。
直樹の隣で、メグミもサトミをじっと見つめているのが気配で分かる。
……ほんまに何なんや、この空気……面倒クセェ。
目を合わせながらも会話をすることのないメグミとサトミ。
2人の間には直樹が知りたくもない、目と目で通じ合う何かが飛び交っているらしい。
「ところでねぇ、直樹くん」
「ん?」
「今度、お休みっていつ?」
「休み?俺に休みなんかないよ」
「あのね、私のお店に来る社長さんがやってるホテルなんだけど、すっごいキレイでステキなホテルなのよ」
「うん」
「今度時間あるときにさ、また一緒にホテルにでもお食事に行こうよ」
……『また』?
俺はコイツと食事に出かけたことなんてあったかな…?
「まぁ、うんと暇なときやな、それは」
そう返事をして、ふとメグミに視線を遣ると、メグミはすました顔でじっとサトミを見つめている。
サトミも直樹に話しかけながらも、向いた視線はずっとメグミ。
……この辺はうまくやってきたつもりでいたんやが。
直樹は思わず出そうになった溜息を途中で引っ込める。
……そやな、今回は俺が悪い。
何でメグミがここにおることを許可しているのか。




