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銀貨一枚から始まる物流革命 ~剣を持たない運び屋、世界の流れを支配する~  作者: 紅茶伝


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第二話 赤髪の冒険者と銀貨三十七枚


 朝日が差し込む倉庫の中で、レインは机の上へ並べた銀貨を見下ろしていた


 窓の外では、昨夜まで降り続いていた雨が止み、泥だらけの運搬街区を荷車がゆっくり進んでいく


 銀貨三十七枚


 幼い頃から積み重ねてきた金より多い


 市場で荷を運び、  酒場で皿を洗い、  余ったパンを貰うために頭を下げ続けた日々


 それを全部合わせても、こんな額にはならなかった


 だがレインの頭はもう次の数字を追っている


「……少ない」


「は?」


 向かいで昼から酒を飲んでいたギドが顔をしかめた


「お前その額見て“少ない”とか言うのか?」


「荷車と倉庫維持でかなり消えます」


「先ずは喜ぶんだよ。女、酒、使い道があるだろ。夢がねぇな」


 その時だった


 倉庫の扉が勢いよく開く


「誰かレインって奴いるか!!」


 中へ入ってきたのは一人の女性だった


 茶色の短髪  少し乱暴に羽織った外套  泥だらけの靴


 腰には短剣


 だが冒険者というより、街で雑に生き延びてきたような雰囲気が強い


 周囲の運び屋たちが顔を見合わせる


「なんだアイツ」 「誰かの借金取りじゃねーか?」


 女性は周囲を気にせず叫ぶ


「一晩でかなり稼いだ運び屋がいるって聞いたんだけど!」


 倉庫の空気が少し静かになった


 自然と視線が女性へ集まる


 そして、その目がレインで止まった


 女性は真っ直ぐこちらへ歩いてくる


「アンタ?」


「……何の用です」


「仕事探してる」


 即答だった


 隠す気がない


「急ぎで金が必要なんだよ」


 ギドが横で笑う


「おいおい、レインに頼む奴は初めて見たぞ」 「有名なんでしょ?」 「一夜にして大金は稼いだな」


 女性は机へ身を乗り出し、銀貨を見る


「うわ、本当に稼いでる……」


 レインは無言で銀貨を布へ隠した


「で、いくら必要なんですか」


「銀貨十五枚」


 ギドが吹き出した


「は!? お前、何やらかした!?」 「別に犯罪じゃない!」


「じゃあ借金か?」 「……まぁ似たようなもん」


 視線が逸れる


 分かりやすい


 レインは小さく息を吐いた


「返済期限は」


「三日」


「無理ですね」


「早っ!?」


 女性が机を叩く


「まだ何も聞いてないだろ!」


「三日で銀貨十五枚必要な時点でまともじゃない」


「ぐっ……」


 図星らしい


 だが彼女はすぐ立て直した


「でもアンタ、一晩で稼いだんでしょ?」


「運が良かっただけです」


「その運を貸してくれ!」


 倉庫の奥で誰かが笑う


 レインは女性を観察する


 雑  感情が顔に出る  嘘も下手


 交渉向きじゃない


 なのに一人でここへ来た


 それだけ切羽詰まっているのが分かる


「名前は」


「ミナ」


「商売経験は?」


「……冒険者しか」


「ならいいじゃないですか。冒険者は稼げるのでしょう」


「いや、今は潜れなくて……」


 そこで初めて、ミナの右腕に巻かれた包帯へ気付く


 無理やり隠していたらしいが、動くたびに痛そうに顔が歪んでいた


「怪我ですか」


「ちょっと魔物に噛まれただけ」


「ちょっとで包帯をそこまで巻きません」


「……」


 ミナは露骨に目を逸らした


 ギドが酒を飲みながら鼻で笑う


「どうせ無理して依頼受けたんだろ」


「うるさい!」


「で、失敗した」 「……途中までは上手くいってたんだよ」


「冒険者が言う“途中までは”は大体終わってる時だ」


 倉庫で笑いが起こる


 ミナは悔しそうに唸ったあと、小さく呟いた


「妹が熱出してる」


 少し空気が変わった


「医者代?」


「薬代と宿代。あと……前借りした金」


「誰に」


「薬屋」


 レインは眉を寄せる


「運搬街区の南側ですか」


「……なんで分かった?」


「あそこの薬屋は返済が三日だからです」


 ミナの顔が引きつった


 図星だった


「妹さんは何歳です」


「九つ」


「親は」


「いない」


 短い返答だった


 それ以上聞かれたくないのが分かる


 レインはそこで追及を止めた


 代わりにミナの外套を見る


 雨じゃない


 寝不足と薬草の匂いが染み付いていた


 何日もまともに休めていない人間の匂いだった


「だから時間がない」


 さっきまでの勢いとは違う声だった


「噂聞いて走ってきた」 「……どんな噂を」 「運び屋始めてすぐに大金を稼いだ男」


 ギドが吹き出す


「ははっ、間違ってねぇ!」


 ミナはレインを見る


「アンタなら何とかできるんじゃないかと思った」


 期待  不安  焦り


 全部そのまま顔に出ていた


 レインはそういう人間をあまり信用しない


 感情で動く奴は失敗する


 だが――


 嘘を吐く人間よりは、ずっと分かりやすかった


 レインは帳簿を閉じる


「一つだけ仕事があります」


 ミナの顔が上がる


「本当か!?」


「ただし成功率は低い」


「金になる?」


「なります」


「やる!!」


 即答だった


 レインは少しだけ呆れる


「内容も聞かずに?」


「今の私に選べる立場ないし!」


 その言葉に、倉庫の運び屋たちが少し静かになる


 レインは立ち上がった


「……まず荷車を押してみてください」


「おう!」


 ミナは勢いよく外へ飛び出し――


 五秒後、泥に滑って盛大に転んだ


「痛っ!!」


 倉庫の中で爆笑が起こる


 泥だらけになったままミナが叫ぶ


「笑ってないで助けろ!!」


 レインは額を押さえながら、小さく呟いた


「……本当に大丈夫なんでしょうか」

ここまで読んでくださって本当にありがとうございます!

もしよかったら感想などいただけると、とっても嬉しいです…!

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