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1. 五回殺されたので、とりあえず魔王を呼ぶことにした





「ああ、もう私は疲れました。今回くらい、自由に生きさせてもらいましょう。この命にかけて、あの女の、家族の、首を取ってやりますわ」

――そんな決意と共に、私は7度目の人生を歩み出します。

虐げてきた奴ら全員、地獄に叩き落としてやりますので。



※徹底的にボコボコにします。スカッとしたい方、ぜひ。





こんな事があっていいのだろうか。

視線の先には、淡いピンクの髪を揺らし、今流行りのフリルに身を包んだ少女。

世界中から愛される公爵家の次女、アクシア・ローゼンバーグ。

私の血を分けた妹であり――今まさに、私を殺そうとしている女だ。


「お姉様……ごめんなさい。許してね」


まただ。聞き飽きた台詞。これで五回目。


「でも、お姉様が悪いのよ? 簡単に騙されちゃうんだもの」


騙される方が悪い。それが彼女の真理。

自分か、自分以外か。彼女にとって他人は、利用するか捨てるかの二択でしかない。

なのに、世間は彼女を『天使』ともてはやす。私はただ、愛されたかっただけなのに。


「あら、なぜ黙っているの? ……まあいいわ、お姉様。今までさんざん、ありがとう」


感謝を述べる顔ではない。獲物を仕留めた肉食獣の下卑た笑み。

私は最後に、神へ祈りを捧げる。


(神様。なぜ私なのですか。なぜ私は、五回もこんな惨劇を繰り返さねばならないのでしょう)


私はこの五回の人生、すべてを全力で生きた。

なのに、妹に居場所も命も奪われて終わるなんて。

もう、こんな人生うんざりよ。


「アクシア」

「なあにお姉様。覚悟ができたのかしら?」


彼女は口元を上品に隠して笑った。その瞳の奥には、醜い愉悦が透けて見えている。


「あなた……自分が何をしているか、分かっているの?」

「……そんなの関係ないでしょう?」


アクシアは笑った。私が見てきた中で、一番美しく、一番おぞましい顔で。

視界が真っ赤に染まる。一瞬の衝撃と、飛び散る血飛沫。

ああ、五度目の人生も、ここで終わり。


(次は……神様のもとへ行けますように)


……そんな願いも虚しく、ゆっくりと重い瞼が開く。

まただ。また、あの五歳の日に戻っている。

初めて回帰したときは、驚き、狂わんばかりに泣いた。

死んでもなお、この地獄に繋ぎ止められるのかと、何日も絶望の底に沈んだ。

涙が出なくなるまで泣き腫らして、当時の足りない頭で考えたのだ。


「これは神様が、家族に愛されるチャンスをくださったんだわ!」……なんて。


それからの人生、私は死に物狂いで頑張った。

勉学、実技、作法。すべて社交界で話題になるほどの実力を身につけた。

回帰を繰り返しているのだから、五歳の時点で魔法のコツも知識も完璧だった。

それなのに。

結末は、いつも同じ。私は毎回、アクシアの手によって殺される。

なんで。

なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!

私はこんなにも頑張ったのに!!

六回目の人生なんて、もう、うんざりよ。

フラつく足でベッドから起き上がり、鏡を見る。

その途端、頭の中に凄まじい激痛が走った。


「が、あ……っ!?」


視界が歪む。脳裏に、知らない女性の姿が浮かんでは消えた。

彼女は誰? 彼女が操っているのは、この世界の常識を遥かに超越した術式。

私はこの五回の人生で、この国の魔法知識はすべて得ているはずなのに。

彼女が持っている、あの分厚い本は何?

表紙のタイトルは、この国の言語じゃない。……けれど、なぜか読める。

タイトルは――『幸せなお姫様』。


「…………童話じゃないの」


その瞬間、物語の内容が濁流のように頭の中へ流れ込んできた。

舞台は、アモリア帝国。

そこは平民の人権が尊重され、貴族の権力は黄金期の半分ほどに衰退した国。

そんな帝国に、赤ん坊の頃から美貌を謳われた少女が生まれた。名を、アクシアという。

淡いピンク色の髪に、星空を映したような瞳を持つ彼女は、帝国で二番目に偉い公爵家に引き取られる。……なぜなら、彼女は公爵の私生児だったから。

公爵家へ入ったアクシアを待っていたのは、いじわるな姉。

帝国でも「稀代の悪女」と名高い、セレスティーナである。

彼女は次々に、愛らしいアクシアへ悪行を重ねていき――。


「セレスティーナ……? 公爵家……? アクシア……?」


すべてが、今、私のいる世界と同じだ。

待って。私が『今いる世界』? そんなの、まるで前は違う世界にいたかのような口調じゃないの。

けれど、目の前にあるのは、現実と寸分違わぬ内容が記された本。

ああ……これが前世で本として読んだ『転生』というものなのね。

回帰があるなら、前世の記憶持ちもあり得るだろう。

ただ、私の前世が「大魔導士」だったことには驚きだけれど。

そして、悪女と名高い私――セレスティーナは、これまでアクシアにも誰に対しても、何一つ手を出してはいない。

悪女と呼ばれる謂れなど、どこにもないのだ。

私は、個人的に調べることにした。

この国のこと。公爵家のこと。そして、自分のこと。

幼い体で情報屋へ足を運び、全財産を叩いて調べさせた結果――。

私は、どうやら「悪女」らしい。

何もしていないのに。ただ必死に生きていただけなのに。

私の五回の人生の努力は、すべて、最初から意味がなかったのだ。

残ったのは、冷え切った諦めと絶望。

私はその日のうちに、首を吊って死んだ。


……七回目。もう、七回目。

目を開ければ、七度目の、五歳。

鏡に映った自分の姿は、あの忌々しいあの日から何一つ変わっていない。

けれど、内側から溢れ出すものは、以前の私とは決定的に違っていた。


「あは、あはは……あははははははは!!!!!」


笑いが止まらなかった。

もういい。もう、私は家族のために必死に足掻くセレスティーナじゃない。

愛されようと、認められようと、泥水を啜ってまで善人を演じるのは、もうおしまい。


「何だってしてやろうじゃないですの。……ええ、望み通り『悪女』になって差し上げますわ」


今までの回帰が、ようやく意味を成した。

繰り返してきた人生は、ただの苦痛ではなかったのだ。蓄積された知識だけでなく、生きた分だけの魔力が今の私に上乗せされている。

一回、二回……六回分の人生の合計魔力が、この幼い体に流れ込んでくる。

その量は、かつて天才と謳われた魔導師をも遥かに凌駕し、もはや計り知ることすらできない。

そして、今の私には『前世』の記憶がある。

私は、自らの魔力の流れを組み替えた。

必要な時にだけ流すのではない。呼吸をするように、常に全身へと魔力を循環させ、術式を維持する。

かつて無駄に長かった詠唱も、もはや不要。思考した瞬間に、事象は書き換えられる。

試しに、魔力を「波」として体外へ放出してみた。

パリンッ!!

鋭利な破片が床に飛び散る中、私は恍惚とした表情でそれを見つめた。

――ああ。

なんて、気持ちがいいのかしら。

なぜ、もっと早くこうしなかったのかしら。


「今回くらい、自由に生きさせてもらいましょう」


その瞬間。

私の膨大な魔力に呼応するように、脳内の『禁書』が独りでにページをめくり、激しく明滅した。

魂の奥底で、固く閉ざされていた「門」が軋む音がする。


(……ああ、そういえば。忘れていたわ)


大魔導士だった前世。

私の足元に跪き、忠誠を誓わせた不遜な輩がいたはず。

私が眠りにつく際、世界各地の「封印」の中に放り込んできた、愛すべき私の……。


「……起きなさい。主のお目覚めよ」


私が指をパチンと鳴らすと、影の中からどろりとした漆黒の魔力が溢れ出した。

部屋の温度が急激に下がり、空間が悲鳴を上げる。

現れたのは、悍ましくも美しい、闇を纏った――かつて世界を震撼させた『深淵の魔王』。


『………………呼び声に応じ、参上いたしました。我が唯一の主、セレスティーナ様』


魔王は五歳の私の前に跪き、その小さな手に恭しく頭を垂れた。

かつての強大な眷属たちは、私の魔力の高まりや状況に応じて、いつでもこの世界に呼び戻すことができるらしい。


「ふふ。久しぶりね。……まずは、厨房にある苺ジャムの瓶を開けてトーストに塗って持ってきてくれるかしら?」


『…………ハッ。仰せのままに』


伝説の魔王__ルシフェル。彼が戻ってきてくれたのはでかい。しかし、魔力がだいぶ減ってしまった。


(一度に何度も呼ぶことはできないのね……)


窓の外に広がるアモリアの王都を見下ろした。

アメリアが公爵家に来るのは一か月後。


「この命にかけて、あの女の、私の家族の――首を取ってやりますわ」


復讐の準備は、これ以上ないほど整った。



初めまして、作者です!

数ある作品の中から、この物語を手に取っていただきありがとうございます。

5回殺されて吹っ切れたセレスティーナ様と、初仕事がトーストのジャム塗りになってしまった伝説の魔王ルシフェルあとは後々…の復讐劇、楽しんでいただければ幸いです。

次回、いよいよ家族たちに、セレスティーナ様が最初のご挨拶(物理)をかまします!

もし「続きが気になる!」「ルシフェル…」と思ってくださったら、ぜひブックマークや下の★評価で応援していただけると、執筆の励みになります!

よろしくお願いします!


P.S ルシフェルは黒髪長髪赤眼高身長です。

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