表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したけど、ここガチで中世ヨーロッパだった件。  作者: みっちーザッキー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
16/22

第16話 城壁の終端 ― 静寂の切れ目

お読みいただきありがとうございます。


15話で描かれた重装兵との交戦、

そして“奪還準備”の一瞬の静けさ。


16話ではついに、

**城壁上での“最初の逆流”**が描かれます。


大軍同士の衝突ではない。

たった数十人の、

しかし一撃の差で崩れる緊張の戦い。


そして今回、

**ユウマの現代知識が戦況を変える“決定打”**になります。


それでは本編をどうぞ。


■ 静寂の切れ目


角笛の余韻がまだ石に残っていた。


城壁の上に生まれた数秒の静けさは、

風が触れただけで壊れそうなほど薄かった。


ナタリーが剣を握り直す。


「……来るわよ。」


リナが震える息を吐く。


「また……だね……悠真。」


悠真は血のついた鉤竿を握りしめたまま、

ただ頷いた。


(ここは……絶対に、渡せない。)


その時。


ギ……ギギ……


木が軋む、遠くない音。


城壁の影から、

新たな梯子が三本、持ち上がってきた。


■ 重みの連鎖


「押し返せ!! 前へ!!」


ナタリーの声で、兵士たちが一斉に動く。


だがその瞬間、

下から響いてきたのは、怒号ではなかった。


――悲鳴だった。


「やめろ!!

 そっちは味方だ!!」


矢が闇を切り裂く音とともに、

城壁下の味方歩兵が次々と倒れていく。


敵弓兵の射線が、

恐怖と混戦で乱れきっていた。


自軍の背中へ、容赦なく刺さる。


リナが口を押えた。


「……そんな……味方の背中に……」


悠真は歯を噛みしめた。


(これが……“乱戦の射線”……

 現代で学んだ通りだ……)


下からの悲鳴と、

梯子の軋む音が重なり、胸が締めつけられる。


そして――


ガンッ!!


梯子の一本が城壁の縁に食い込んだ。


■ 火の影


最初に姿を現したのは、

盾を前に出した敵兵。


槍の穂先が、

風より速く城壁へ滑り込んでくる。


「前へ!! 突き落とせ!!」


ナタリーの号令に、兵士が槍を突き出す。


ガスッ!!


敵兵が後へ弾かれたが、

すぐ後ろから二人目が登ってきた。


その時だった。


ヒュッ……


嫌な音。

空気が“焼けるような”細い震え。


――火矢。


悠真は叫んだ。


「油袋!! 火が入る!!

 砂!! リナ!!」


リナが砂袋を引き寄せ、

火矢が油袋に触れるよりわずかに早く、

砂を浴びせる。


ジュッ……!


小さな火花が石の上で消えた。


リナは肩で息をしながら叫ぶ。


「早く!! 押し返して!!

 もう一度火矢が来たら……!」


■ 裂け目


ナタリーの剣が閃いた。


敵兵の肩口へ深く食い込み、

体が城壁下へ落ちていく。


だがすぐに、

別の梯子の影から長槍が伸びた。


悠真は咄嗟に鉤竿で払い、

柄を強く押し返す。


(くそ……!

 数の圧力が……違いすぎる……!)


敵兵の槍が、

悠真の頬をかすめて風を裂いた。


一歩下がれば、誰かが落ちる。

一歩進めば、死が前に来る。


その境目――裂け目に立っていた。


■ 崩れ


その時。


城壁の下で、小隊長の叫びが響いた。


「後退!! 後退だ!!

 弓兵、下がれ!!

 後列、押し返せ!!」


だが“後列”がいなかった。


味方の誤射と混乱で、

階下の兵はほとんど散り散りになっていた。


乱れた隊列のまま、

敵前で走ろうとする。


弓兵の一人が叫んだ。


「待て!! 走るな!!

 そっちはまだ――」


ヒュンッ!


仲間の矢が、その男の背中に刺さった。


ナタリーが呆然とつぶやいた。


「……もう……崩れたのね……下は。」


そして――


下の混乱が、上へ影響してきた。


梯子は、下で敵兵が支え、

上では守備兵が体重と押しで押さえ込むことで、

かろうじて均衡を保っていた。


梯子を支えていた兵士の手が震え、

力が抜ける。


「ダメ!! 手を離すな!!」

ナタリーが叫ぶ。


だが、

兵士の手がすべり――


ガガッ!!


梯子が一気に立ち上がった。


■ 閉ざされた道


敵兵が一斉に登ってくる。


一人、二人、三人。


盾を前に、槍を構え、

“登ってくる死”が数で押し寄せる。


その時だった。


悠真の視界の隅で、

ゆっくりと――

天秤の錘のように動く影が見えた。


倒した重装兵の体。


(……あれ……使える……!

 転がせば……梯子ごと……!)


悠真は叫んだ。


「ナタリー!!

 重装兵!! 足元へ押す!!

 全員!! ……どけ!!」


ナタリーの瞳が一瞬だけ大きく開いた。


「……なるほど……!」


三人が一斉に動く。


ナタリーが敵兵を押し返し、

リナが倒れた兵を引きずり、

悠真が重装兵の鎧を押す。


「うおおおおおおッ!!」


ゴロッ……!!


鉄の巨体が転がり、

城壁縁へ滑っていく。


敵兵が叫ぶ。


「待っ――」


ドガァンッ!!


梯子ごと、敵兵もまとめて崩落した。


悲鳴が連鎖する。


石畳の下へ叩きつけられる音がした。


静寂が、城壁の上を覆う。


風だけが吹いていた。


(……守れた……)


ナタリーが剣を下げた。


リナがしゃがみ込み、

震える指で額の汗をぬぐう。


悠真は、鉤竿を支えに立っていた。


「……誰も……息、してないな……」


その言葉が、

戦いの終わりを静かに告げた

16話では、

城壁上の“最初の逆流”――小規模戦特有の混乱の連鎖

を描きました。


・味方弓兵の誤射

・下層の崩壊が上の戦線へ伝播

・三人の連携で“局所奪還”

・重装兵の死体を利用した現代知識的応用


そして、

これは“勝ち”ではなく“持ちこたえただけ”。


本当の地獄はまだ先にあります。



史実補足:小規模城壁戦の現実


◆ 味方誤射は中世では普通に起こった

乱戦・煙・血の匂いで射線はすぐ狂う。


◆ 階下の混乱が城壁上へ伝わる

兵が下がれば梯子押し返しが一気に崩壊する。


◆ 重装兵の死体は“動く障害物”

史料にも、死体を押し出して梯子を落とす例がある。


◆ 奪還は“数秒”で決着がつく

中世の小規模戦では、

一瞬の判断が全戦線を動かした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ