11-4・魔法ってなに?
智人は僕を観光に連れ出すつもりだったけど、「ゴメン」と謝罪してキャンセルさせてもらった。今、僕がやりたいことは、西都市を楽しむことではない。
「そっか、モーソーワールドに馴染む為には、確かに必要だな。
俺は昼頃まで休んで、その後は町の視察にでも行く。
シリーガル、バクニー、尊人達を頼んだぞ」
智人は、最初は少し怒ったけど、キャンセルの理由を説明したら笑って許可してくれた。
「あれ?安藤さんは?」
「あんちゃんも誘ったけど『勉強はパス』だってさ」
二度寝をする智人を見送った後、僕と真田さん、シリーガルさんとバクニーさんは広間に行く。
「智人・・・なんか疲れた顔してたね」
「バクニーさんを嗾けたのはあたしだから、だいたい想像付いちゃうけど」
ちなみにバクニーさんの表情は何故か潤ってる。
魔法の指南については、朝一で真田さんがシリーガルさんにお願いしてくれた(バクニーさんが自室にいないことを知ってるから)。
「外で演習とかじゃなくて、広間?」
「秘境者の皆様が、何の知識も無いままでいきなり魔力を操るのは不可能です」
そりゃそうだ。この世界に来て10日以上経過したけど、僕は魔法が何なのかすら解っていない。僕達は夕食の時に座るのと同じ場所に腰を降ろして、バクニーさん達と向かい合わせになった。
「先ずは魔法の概念をお教えします」
「はい」 「お願いしまーす」
バクニーさんが胸の前で、両掌で見えないグレープフルーツを持つような格好になる。すると、両掌の間で空気が歪み、両掌の後ろにあるバクニーさんの胸が見えにくくなった。
「これが魔力です」
バクニーさんの両掌の間が、白→黒→青→赤→黄色の順番に変化をした。
「魔力を発しながら五大元素を意識する。ここまでが基本です」
「個人によって、魔力を発しやすい姿勢には違いがあります」
シリーガルさんが顔の前で人差し指を立てたら、人差し指の先の空気が小さく歪む。
「お姉様の魔力開放の方法は、破壊力は劣りますが、反射的な対応に優れ、」
「バクニーの方法は、溜が必要で瞬発力で劣りますが高い攻撃力を発揮します」
「どちらの姿勢でも良いので、まずはやってみてください。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×2
僕は人差し指を立て、真田さんは胸の前で両手の平を向かい合わせにする。
「ミコト様は寄り目の練習をなされているのでしょうか?」
「サリ様は寝不足なのですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×2
僕の指からは魔力が発せられず、単に指を見て寄り目をしているだけらしい。真田さんは目を閉じて手の平に意識を集中させているんだろうけど「寝ている」と言われてしまった。
「魔力を意識してください」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×2
しばらく頑張ってみたけど、ちっとも指先の空気が歪まないので、僕はあきらめて挙手をした。
「あ・・・あの・・・魔力って何ですか?」
転移をして今日で14日目。ぶっちゃけ、今更こんなことを聞くのは恥ずかしい。でも、僕が恥を忍んで質問をしたら、隣に座ってる真田さんが“両手でグレープフルーツを掴む”格好をやめて「ウンウン」と頷く。
「魔力は魔力です」
「当たり前のように意識できる力ですよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×2
バクニーさんが言っていることの意味が解らない。
「アニメとかで見たことあるんですけど、
謎の水晶玉に触れると眠っていた魔力が発現するとか・・・
そ~ゆ~儀式は?」
「そんな都合の良い儀式などありませんわ。
皆が幼少期から持ち、鍛える力なのです」
「そのような安易な方法で力を得られる世界があるのなら、
その世界の神は努力がお嫌いなのでしょうね」
ですよね。今まで特別な才能を鍛えなかった人が、水晶玉に触っただけで凄い力に目覚めてエリートになるなんて、そんな意味不明な御都合主義があるわけない。
「そんな方法で強くなっちゃうのは、人生舐めすぎというか、
ちゃんと頑張ってる人が可哀想すぎるでしょ。
尊人くんは、そっち派じゃないよね?」
真田さんの言う「そっち派」が「どっち派」なのかは、よく解らない。「ピークエクスペリエンス」という「使い方次第では反則になる能力を得た真田さんが言っちゃダメだろ」とも感じるが、そこは黙っておく。
とりあえず、僕等の住む世界の勉強やスポーツみたく、魔法とはコツコツと努力を積み上げて使えるようになる力らしい。
「ところで『あにめ』とはなんですか?外地のモンスターの名前でしょうか?」
「その言葉は忘れてください」
テレビが無い世界の人に「アニメ」と言う単語を使ったのは僕のミスね。
「魔力って、精神力とか気合いみたいなものですか?」
真田さんが質問をしてくれた。僕も「魔力とは精神力的なもの」と考えている。
「似ていますが違います。魔力は魔力です」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×2
ヤバい、撲、昨日までとは違う理由で泣くかも。いきなり落第しそうだ。
ゲームには当然のように「MP」という数値で示される魔法力があって、何の疑問も持たずに魔法を使っていた。アニメも同じで普通に「MP」が存在している。
だけど、改めて考えると「HP=生命力」ってゆーのは解るとして、「MP」ってなんなの?・・・ってゆーか、考えていたら「HP」が何なのかも解らなくなってきた。「HP1=転んだだけで死ぬ」くらい重傷ってことだよね?
「あの・・・この世界の人って、血まみれとか腕が喪失した状態でも、
布団で一休みすれば全ての傷が治るんですか?」
「み、尊人くん、質問の意味がわかんなすぎっ!」
「だって、HP1からの全回復って、そういうことだよね?」
頓狂な質問をしている自覚はある。真田さんにツッコミを入れられる理由も解る。だけど、この世界やゲームと、現実世界との差をキチンと理解しないと「魔力」を理解できそうに無い。
「それはお伽噺でしょうか?」
「ミコト様達の世界では、睡眠をすれば瀕死から回復するのですか?」
「しませーん」
逆に質問をされてしまった。要約すると「HP1で一泊をしても全回復はしない」ってことみたい。僕からすれば「この世界がお伽噺」みたいなものだけど、ゲームみたいな便利なシステムではないらしい。




