10-5・地平線が無い世界②
「真田さんにも見せてあげたいな」
智人は、僕の独り言を聞き逃してくれなかった。
「なんだなんだ?尊人は織田櫻花一筋じゃなかったのか?」
「え゛っっっ!!」
今の僕、真田さんと一緒にこの景色を見る妄想をして、無意識に声に出してしまった。顔が真っ赤になるのが自分でも解る。
「いやっ・・・ちがうっっ!!そ~ゆ~のじゃなくてっっ!!」
「だったら、ど~ゆ~のだよ?」
櫻花ちゃんから真田さんに気持ちを移したつもりはない。たった3日間の2人旅をしただけで好きな子が変わるなんて、真田さんに失礼だよ。
「え~~~~~とね・・・真田さんと旅をしながら、『地平線の話』をしたの」
塔に昇ってみて、この世界には、「地球の丸みで地面が隠れる」って現象が無いとハッキリ解った。
「この世界ってさ、起伏はあるけど、基本的には平らな世界・・・
そうじゃなかったら、地球の何倍も大きい惑星にあるんだよね」
「へぇ~・・・そうなのか?」
「太陽が昇って、夜には星が見えるよね。
それだと、平らな世界ってのは考えられない。
天動説の世界になっちゃうんだよ」
この世界の太陽は、南寄りや北寄りではなく、真上を通過する。
「この世界が地球より大きい惑星で、ここは赤道付近なら、
1日がもっと長いか、凄いスピードで自転してることになっちゃうんだよ」
理科は数学ほど得意ではない。確か、地球上では自転速度って生活をするうえで、あまり影響しないはず。この世界が球体なら、1周がどれくらいで、自転速度はどうなるんだろう?
「それで?」
「僕等が居る世界はどこ?ってことになるよね。
智人は不思議だと思わない?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・あれ?」
そこそこ重要な仮説を熱弁してるつもりなのに、智人の反応が薄い。
「尊人、生真面目すぎっ!」
「そ、そう・・・なのかな?」
興味を持って聞いてくれた真田さんとは、全然違う反応だ。
「『それでも地球は回ってる』だっけ?・・・そんなもん考えても意味無いだろ」
「まぁ・・・そうだけど・・・」
「答えが出ない仮説より、モーソーワールドで自分が何をすべきかを考えろ」
「うん・・・そうだね」
僕の「天動説」or「超巨大惑星説」は、まさかの「一蹴」で終わってしまう。やっぱり真田さんを連れてきて、相互で意見交換をしたかった。
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セイトータワーを降りた後は、近くのお店でバケットサンドを買って、馬車内で食べながら観光をする。・・・とは言っても、現実世界とは別物の町並みを見ているだけでも、充分に楽しめる。
「中世ヨーロッパにサンドイッチの文化なんてあったんだっけ?」
「さぁ・・・解らん」
「転移した誰かが広めたのかな?」
「尊人、あの建物・・・」
智人が進行方向左側の建物を指さした。
「カジノだ。行ってみるか?」
「カジノって・・・お金を賭ける?」
「当然。他にどんなカジノがある?
金の心配なら無用だ。俺が無催促で貸してやるよ」
「賭けは・・・あんまり興味無い。
ジュース代を賭けてトランプするくらいならいいけど・・・」
「はははっ、この世界にジュースは無いぞ。
あっちに見える大きな建物は劇場な」
智人が突き当たり丁字路の正面にある大きな建物を指さした。
「今は何の催しもやっていないが、今度、俺を主人公にした演劇をやるんだ」
「智人、演劇できるの?いつ?それなら見てみたい」
「違う違う。役者達が俺を題材にした演劇をするって意味な」
「智人、凄いじゃん!見てみたい!」
「はははっ!俺は『恥ずかしいから勘弁してくれ』って言ったんだけどな。
演出家が『どうしても題材にしたい』と頭下げてきて渋々了承したんだ」
智人は、口では謙遜しているけど、嬉しそうに笑っている。実際、劇の題材に抜擢されるなんて凄いことだ。
「尊人の役も作ってもらおうか?主人公の友達役でさ」
「そ、それはマジで恥ずかしすぎるから勘弁して」
泣きながら主人公に助けてもらう“僕役”を想像してしまった。
「智人・・・知らないうちに、遠くに行っちゃったような気がする」
智人は隣にいてくれるんだけど、「西の英雄チート」は遠い存在のように感じて、少し寂しくなった。
「バーカ!俺達はずっと友達だよ」
智人が少し呆れ顔をして、僕の頭をコツンと叩いた。
「うん・・・ありがと」
僕は、いつもチョット偉そうだけど、いつも優しい智人が好きだ。
仲が良いんだけど、「現実に帰りたい派の尊人」と「モーソーワールドに残りたい派の智人」、「苦労しながら少しずつ強くなっている尊人」と「苦労せずに得た力を行使しているだけなので実は成長をしていない智人」、そして、早璃は興味を持った「地平線が無い」を智人に一蹴されてしまった尊人の違和感。
転移前はお互いに同じような立ち位置だと思っていた2人が、徐々に壁を感じるようになる。そんな展開をイメージしながら描いた。
尊人は「智人が遠くに行った」と感じたが、実は逆。否応なく「成長するしかない」状況に陥っている尊人が羽ばたく準備をしている。子供の頃の友達と進学や就職の影響でしばらく離れて、久しぶりに会ったら「こんなヤツだったっけ?」の現象が2人の間に発生しつつある。




