8-3・ブラークさんとの再会
顔面の痛みが引いたので、特殊能力発表の反省会をする。
「今の感覚、バスケの試合やってて経験したことあるでしょ?」
「うん、ある。たま~に・・・だけどね」
「その状態を意識的に発揮させる特殊能力ね」
一般的にはゾーンとかフローと言われている状態のこと。
絶対に適わないと思ってた格上と試合して、「無意識のディフェンスラインを抜いてシュートを決める」とか、「パスカットをしたんだけどどうやって動いたか覚えていない」って現象は希にある。そんな時は、「考えること」が停止していて、相手が動く前から隙が解ったり、急に突破できるコースが開けたりして、ほぼ本能で動いているってイメージだ。
「あたしの場合はね、レースで好記録を出す時に、経験したことあるの。
レースに集中をしてた自覚はあるんだけど、内容は全然覚えていないんだよね」
「へぇ・・・みんな、そんな経験があるんだね」
ちなみに、僕の場合は、真田さんのような晴れ舞台ではない。僕は公式戦では出番が無いので、あくまでも練習試合やチーム内の試合での体験談ね。
観客が居ない試合にしか出場していないのに、なんで真田さんは知っているんだろう?僕が公式戦に出られないくらい下手クソってのを知らないで、適当に言ったのかな?
「真田さんはピークエクスペリエンスをどれくらい維持できるの?」
「計ったこと無いから解らないけど、
モンスターから逃げる時は、10秒~15秒くらいを何回か発揮したと思う」
僕が発動させたのは1~2秒くらいかな?制限がかかるとしても短すぎる。真田さんの経験値や熟練度が、僕とは比較にならないくらい高いのだろうか?
「真田さんって、今、レベルいくつ?」
「れべるってなに?ロールプレイングゲームとかの強さの数値のこと?」
「うん、それ。3日くらい前に確認したら、僕はレベル4になってた」
「あれっ?この世界に能力を数値化する概念て無いんじゃなかったっけ?」
「あるよ。だってほら・・・ステータスオープン!」
僕の頭の上に「3」の数字が浮かぶ。
「ありゃ?」
3日前は「4」だったのに、今は「3」になってる。なんで?レベルが下がるなんてあるの?
「オマエ・・・ミナモトミコトか?」
背後から聞き覚えのある声がする。振り返ったら、鎧を着た馬に乗ったブラークさんだった。黒マントを羽織っていて相変わらず格好良い。
「だれ?」
「僕の命の恩人」
真田さんが少し怯え気味に耳打ちをしてきたので、「信頼できる人」と教えてあげる。
「やはりミコトか。ここで何をしている?」
「ちょっと、朝練を・・・」
「『ノスの町で何をしているのか?』と聞いている」
「え~~と・・・西の町にいるって噂の友達に会う為に旅をしています。
ブラークさんは何でこんな所に?」
「昨日この町で、異世界から持ち込んだ品を売ってはいないだろうな?」
「・・・う、売りました」
「・・・愚かな」
学校の制服2組を大金に代えました。お金もらいすぎ?そんなに拙かった?
「オマエには『リアルワールドの者と気付かれぬように』と忠告しただろうに」
「どういうことですか?」
「『異世界の品が取引された』と密告があったのだ!」
「えっ?えっ?」
「オブシディア騎士団が秘境者狩りに動き出した!
狩る対象はオマエ達と言うことだ!」
ようやく理解した。目の前が真っ暗になる。
昨日、制服の査定をした人、他の店員、見ていた客、誰かは解らないけど、僕達の情報を売った。現実世界から持ち込んだ物は珍しいのかもしれないけど、それ以上に現実世界から来た者の方が珍しい。
「『大金を手にした者が安宿に泊まる』とは誰も予想していない。
高値の宿から虱潰しに捜索している。・・・今のうちに逃げろ!」
「はいっ!」
転移をした途端に、その世界に馴染んで凄い力で無双するなんて、アニメやゲームの世界の話。僕達は、モンスターだけではなく、この世界の住人からも狩られる“弱肉強食ピラミッド”の最下層なのだ。
悠長に朝食を食べている余裕なんて無くなった。僕達は青ざめながら寝室に戻って慌てて荷物を纏める。
「あたしの所為で・・・ごめんなさい」
真田さんが涙ぐんでいる。
「その話はあとで!とにかく逃げるよ!」
動揺している真田さんの手を引いて、慌ただしく宿から飛び出した。
「既に門は閉鎖されている!付いてこいっ!」
ブラークさんが、狭い路地で馬を走らせて案内してくれる。秘境者狩りに遭遇しない為の配慮だ。僕達は必死で走って、ブラークさんの駆る馬に付いていく。歩いて逃げる余裕は無いってことだ。
真田さんの持ってる剣が重そうなので、無言で奪い取って小脇に抱える。
「あ、ありがとう」
「うん」
真田さんが不安そうな表情をしていたので、「あの人は信用できる」と元気付ける。会うのは2回目なので、本当に信用できるかどうかなんて解らない。でも、今の僕には「ブラークさんを信用する」って選択肢しか無い。それにイザとなれば「リターンで現実世界に逃げる」という切り札がある。
「急げ!もう一息だ!」
郊外に、ポツンと古い一軒家が建っていた。ブラークさんが馬から下りて入ったので、後に続く。床板を外すと隠し階段が有って、降りていったら直径1mくらいの井戸があった。
「井戸の底は隠し通路だ。
一方は公爵の屋敷、もう一方は町の南東にある森に繋がっている」
「南東に向かえば良いんですね」
「ウェスホクの村への情報伝達は、1日は抑えてやる。
どんなに遅くても明日の朝にはウェスホクの村を発ち、
可能な限り急いでセイの町に入れ!
セイならば、オブシディア騎士団は捜査できぬからな!」
「はいっ!ありがとうございました!」
「下は真っ暗だ。これを持って行け」
ブラークさんがくれたのは、ペイイスの宿屋で使っていたのと同じ「魔力で光る玉」だ。
「ありがとうございます」
「さぁ、行けっ!」
下までに4~5mは有りそう。上からぶら下がってるロープを握って、僕が先に下に降りる。ぶっちゃけ、こ~ゆ~のは苦手。僕、体育館の隅にぶら下がってるロープで、一番上まで上れないタイプです。手が滑りそうになるのを必死で堪えてロープにしがみつく。
50㎝くらい降りたところで「いいよ」と合図をして、真田さんがロープを掴んで降りてきた。
「きゃっ!」
真田さん、小っちゃくて軽いのに、自分の体重を支える腕力と握力が無いらしい。必死で抵抗しているんだろうけど、僕の頭の上にお尻が降ってきた。
「わわっ!」
ロープにしがみつき、両足の裏と背中を井戸の壁に突っ張らせて、顔を真っ赤にして必死で墜落を防ぐ。逃走中に、「女の子のお尻の一押しで井戸の底に落ちて死亡」なんて格好悪すぎ。
「こ~ゆ~御都合主義はいらないってばっ!」
真田さんを先に下ろしていたら、「一切ロープにしがみつけないまま井戸の底まで墜落してたかも」と考えるとゾッとする。僕が先に降りておいて良かった。
2人分の体重を支えながら、少しずつ降りていく・・・が、下まであと1mってところで握力が尽きて、下まで墜落。お尻が痛かったけど直ぐに立ち上がって、真田さんの手を引っ張って立ち上がらせる。
そこには、2方向に伸びた高さ2m弱の狭い隠し通路があった。
「真田さん、大丈夫?」
「うん」
上を見上げたら、もうブラークさんはいなかった。次に会ったら「ブラークさんが僕を勧誘しない理由」を確認しようと思ってたのに、慌てすぎて忘れていた。
「ブラークさん・・・何度もありがとうございます」
魔力で光る玉を照らしながら、南西の伸びる通路を進む。
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