表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/76

8-3・ブラークさんとの再会

 顔面の痛みが引いたので、特殊能力発表の反省会をする。


「今の感覚、バスケの試合やってて経験したことあるでしょ?」

「うん、ある。たま~に・・・だけどね」

「その状態を意識的に発揮させる特殊能力ね」


 一般的にはゾーンとかフローと言われている状態のこと。

 絶対に適わないと思ってた格上と試合して、「無意識のディフェンスラインを抜いてシュートを決める」とか、「パスカットをしたんだけどどうやって動いたか覚えていない」って現象は希にある。そんな時は、「考えること」が停止していて、相手が動く前から隙が解ったり、急に突破できるコースが開けたりして、ほぼ本能で動いているってイメージだ。


「あたしの場合はね、レースで好記録を出す時に、経験したことあるの。

 レースに集中をしてた自覚はあるんだけど、内容は全然覚えていないんだよね」

「へぇ・・・みんな、そんな経験があるんだね」


 ちなみに、僕の場合は、真田さんのような晴れ舞台ではない。僕は公式戦では出番が無いので、あくまでも練習試合やチーム内の試合での体験談ね。

 観客が居ない試合にしか出場していないのに、なんで真田さんは知っているんだろう?僕が公式戦に出られないくらい下手クソってのを知らないで、適当に言ったのかな?


「真田さんはピークエクスペリエンスをどれくらい維持できるの?」

「計ったこと無いから解らないけど、

 モンスターから逃げる時は、10秒~15秒くらいを何回か発揮したと思う」


 僕が発動させたのは1~2秒くらいかな?制限がかかるとしても短すぎる。真田さんの経験値や熟練度が、僕とは比較にならないくらい高いのだろうか?


「真田さんって、今、レベルいくつ?」

「れべるってなに?ロールプレイングゲームとかの強さの数値のこと?」

「うん、それ。3日くらい前に確認したら、僕はレベル4になってた」

「あれっ?この世界に能力を数値化する概念て無いんじゃなかったっけ?」

「あるよ。だってほら・・・ステータスオープン!」


 僕の頭の上に「3」の数字が浮かぶ。


「ありゃ?」


 3日前は「4」だったのに、今は「3」になってる。なんで?レベルが下がるなんてあるの?


「オマエ・・・ミナモトミコトか?」


 背後から聞き覚えのある声がする。振り返ったら、鎧を着た馬に乗ったブラークさんだった。黒マントを羽織っていて相変わらず格好良い。


「だれ?」

「僕の命の恩人」


 真田さんが少し怯え気味に耳打ちをしてきたので、「信頼できる人」と教えてあげる。


「やはりミコトか。ここで何をしている?」

「ちょっと、朝練を・・・」

「『ノスの町で何をしているのか?』と聞いている」

「え~~と・・・西の町にいるって噂の友達に会う為に旅をしています。

 ブラークさんは何でこんな所に?」

「昨日この町で、異世界から持ち込んだ品を売ってはいないだろうな?」

「・・・う、売りました」

「・・・愚かな」


 学校の制服2組を大金に代えました。お金もらいすぎ?そんなに拙かった?


「オマエには『リアルワールドの者と気付かれぬように』と忠告しただろうに」

「どういうことですか?」

「『異世界の品が取引された』と密告があったのだ!」

「えっ?えっ?」

「オブシディア騎士団が秘境ヒキョー者狩りに動き出した!

 狩る対象はオマエ達と言うことだ!」


 ようやく理解した。目の前が真っ暗になる。

 昨日、制服の査定をした人、他の店員、見ていた客、誰かは解らないけど、僕達の情報を売った。現実世界から持ち込んだ物は珍しいのかもしれないけど、それ以上に現実世界から来た者の方が珍しい。


「『大金を手にした者が安宿に泊まる』とは誰も予想していない。

 高値の宿から虱潰しに捜索している。・・・今のうちに逃げろ!」

「はいっ!」


 転移をした途端に、その世界に馴染んで凄い力で無双するなんて、アニメやゲームの世界の話。僕達は、モンスターだけではなく、この世界の住人からも狩られる“弱肉強食ピラミッド”の最下層なのだ。

 悠長に朝食を食べている余裕なんて無くなった。僕達は青ざめながら寝室に戻って慌てて荷物を纏める。


「あたしの所為で・・・ごめんなさい」


 真田さんが涙ぐんでいる。


「その話はあとで!とにかく逃げるよ!」


 動揺している真田さんの手を引いて、慌ただしく宿から飛び出した。


「既に門は閉鎖されている!付いてこいっ!」


 ブラークさんが、狭い路地で馬を走らせて案内してくれる。秘境ヒキョー者狩りに遭遇しない為の配慮だ。僕達は必死で走って、ブラークさんの駆る馬に付いていく。歩いて逃げる余裕は無いってことだ。

 真田さんの持ってる剣が重そうなので、無言で奪い取って小脇に抱える。


「あ、ありがとう」

「うん」


 真田さんが不安そうな表情をしていたので、「あの人は信用できる」と元気付ける。会うのは2回目なので、本当に信用できるかどうかなんて解らない。でも、今の僕には「ブラークさんを信用する」って選択肢しか無い。それにイザとなれば「リターンで現実世界に逃げる」という切り札がある。


「急げ!もう一息だ!」


 郊外に、ポツンと古い一軒家が建っていた。ブラークさんが馬から下りて入ったので、後に続く。床板を外すと隠し階段が有って、降りていったら直径1mくらいの井戸があった。


「井戸の底は隠し通路だ。

 一方は公爵の屋敷、もう一方は町の南東にある森に繋がっている」

「南東に向かえば良いんですね」

「ウェスホクの村への情報伝達は、1日は抑えてやる。

 どんなに遅くても明日の朝にはウェスホクの村を発ち、

 可能な限り急いでセイの町に入れ!

 セイならば、オブシディア騎士団は捜査できぬからな!」

「はいっ!ありがとうございました!」

「下は真っ暗だ。これを持って行け」


 ブラークさんがくれたのは、ペイイスの宿屋で使っていたのと同じ「魔力で光る玉」だ。


「ありがとうございます」

「さぁ、行けっ!」


 下までに4~5mは有りそう。上からぶら下がってるロープを握って、僕が先に下に降りる。ぶっちゃけ、こ~ゆ~のは苦手。僕、体育館の隅にぶら下がってるロープで、一番上まで上れないタイプです。手が滑りそうになるのを必死で堪えてロープにしがみつく。

 50㎝くらい降りたところで「いいよ」と合図をして、真田さんがロープを掴んで降りてきた。


「きゃっ!」


 真田さん、小っちゃくて軽いのに、自分の体重を支える腕力と握力が無いらしい。必死で抵抗しているんだろうけど、僕の頭の上にお尻が降ってきた。


「わわっ!」


 ロープにしがみつき、両足の裏と背中を井戸の壁に突っ張らせて、顔を真っ赤にして必死で墜落を防ぐ。逃走中に、「女の子のお尻の一押しで井戸の底に落ちて死亡」なんて格好悪すぎ。


「こ~ゆ~御都合主義はいらないってばっ!」


 真田さんを先に下ろしていたら、「一切ロープにしがみつけないまま井戸の底まで墜落してたかも」と考えるとゾッとする。僕が先に降りておいて良かった。

 2人分の体重を支えながら、少しずつ降りていく・・・が、下まであと1mってところで握力が尽きて、下まで墜落。お尻が痛かったけど直ぐに立ち上がって、真田さんの手を引っ張って立ち上がらせる。

 そこには、2方向に伸びた高さ2m弱の狭い隠し通路があった。


「真田さん、大丈夫?」

「うん」


 上を見上げたら、もうブラークさんはいなかった。次に会ったら「ブラークさんが僕を勧誘しない理由」を確認しようと思ってたのに、慌てすぎて忘れていた。


「ブラークさん・・・何度もありがとうございます」


 魔力で光る玉を照らしながら、南西の伸びる通路を進む。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ