4-4・方針会議
「修学旅行みたいだね」
僕の発言は見当外れだったらしく、安藤さんに枕で叩かれた。
「バーカ!オマエ等に夜這いなんてしねーよ!」
「ここに集まったのは、今後の方針を相談する為だよ」
「どうやって多数決を集めるか・・・ね」
この場に居る全員が「現実世界に帰りたい」派だ。
「先ずは、どうやって26人を集めるか・・・」
「ん?全部で51人だよな?」
「だから最低でも26人が必要なんだ」
「そっか。全員を探し出して意見を聞かなくても、
半分以上を帰りたい派で統一させれば、多数決は成立するもんね」
「普通に考えれば、こんなわけの解らん世界に永住したい物好きはいない。
多数決が割れるとは考えにくいからなら」
3人が「帰りたい」派で、且つ、能動的に動こうとしていて安心した。ところで、現時点の発議者・・・つまり、願いを叶える権利者は誰になる?リーダー格は安藤さんと柴田くんのどっちかかな?
「・・・で、宿屋担当の私の成果はコレが網にかかったこと」
安藤さんが指で僕を差す。
「まぁ・・・役に立つかどうかは微妙だけどな」
僕はバカにされてるっぽい。
「それでも貴重な1票だ」
「柴田は?冒険者から、なんか情報入ったか?」
「いや・・・すまん。
俺が組めるレベルの初級冒険者では行動範囲が狭すぎて、
有益な情報は無かった」
「でも、まぁ・・・少なからず稼いできたんだからヨシとしよう。
綿本はどうだった?」
「まだチョット仕事に慣れるので精一杯で、お客さんと話す余裕無かった」
「まぁ、仕方無いよな。
でも、余った飯を持ってきてくれるんだからヨシとしよう」
「ああ・・・これ、僕の夕御飯だけじゃなくて、綿本さんの差し入れなんだ?」
話を聞いてると安藤さんがリーダーっぽい。
「頼みの綱は力石(先生)だな。
今川と目黒と毛馬内と鰐淵は無事だろうか?」
「・・・・・・・え?」
僕は飲み込もうとしていたパンを飲み込めなくなる。今、名前が出た5人うちの3人の末路は知っている。確認はしていないけど、ブラークさんから「女の子が亡くなっている」とも聞いた。
忘れていたわけではない。でも、クラスメイトと会って安心して、仕事の忙しさで誤魔化して、思い出すのを後回しにしていた。
「先生・・・死んじゃった。
今川くんと・・・鰐淵くん・・・あと、女の子が1人・・・
森の小屋の近くで死んでた。・・・たぶん、モンスターに襲われて・・・」
「なに?」 「おいおい、マジかよ?」 「嘘でしょ?」
なんとなく和気藹々としていた雰囲気が一瞬で凍りつく。当たり前なんだけど、いつもニコニコしている綿本さんですら顔を引き攣らせる。
「先生まで死んじゃうなんて・・・これからどうすれば良いの?」
「その女の子ってのは・・・毛馬内だろうな」
「柴田くん、先生や今川くんと合流してたの?」
「・・・うん。俺と綿穂(綿本)は一昨日まで今川達と一緒にいた」
柴田くんと綿本さんが説明をする。
力石先生が「6人と合流済み」と言った内訳は、柴田くん&今川くん&毛馬内さん&目黒くん、そして、隣のクラスの綿本さん&鰐淵くん。
「俺達6人と力石先生は東の町にいたんだけどさ、
今川と鰐淵が調子に乗って、町中で富醒を見せびらかしちゃって、
騎士団の秘境者狩りを喰らったんだ」
「それで、町から逃げて森の小屋に隠れていたの。
その時に、近くで転移者の反応があって・・・きっと、源くんの反応だね」
「目黒は一定範囲の転移者を感知できるんだ」
力石先生は「合流した中に転移者の位置を把握できる人がいる」と言っていた。目黒くんのことだったんだね。
「力石先生は、俺達に『隠れてろ』って言って、源と合流する為に出かけた」
「でも、その間に私達はモンスターに襲われて・・・
私と俊一(柴田)は逃げたけど、
他の人達は逃げ遅れたり、はぐれちゃって・・・」
「必死で逃げて、この村に辿り着いて・・・
たまたま転がり込んだ宿屋に安藤がいてくれて、やっと落ち着けた。
それまでは生きた心地がしなかった」
「力石先生まで死んじゃったなんて・・・私達、これからどうすれば良いの?」
柴田くんは辛そうな顔をしてる。綿本さんは涙ぐんでる。怖い思いをして仲間を失ったんだから当然だろう。僕だって同じ思いをしたから解る。
「力石先生が源くんを助けに行かなきゃ、みんな無事だったかもしれない」
「・・・え?」
綿本さんの言葉が、僕の深い部分に突き刺さる。胸が苦しくなる。言われなくても解ってる。
僕には罪悪感もある。僕を助けに来なければ、力石先生は死なずに済んだかもしれない。力石先生が一緒だったら、皆だってモンスターに上手く対処できたかもしれない。
リターンから戻ってきた直後、力石先生が亡くなっていた光景を思い出す。
「ゴメン・・・僕の所為・・・・」
「オマエ、根暗すぎっ!マジでムカ付く!」
安藤さんが、枕で僕の頭を叩いた。
「確かに源の所為なんだけどさ、源の所為ばっかりじゃねーじゃん」
安藤さんが綿本さんに枕を投げてぶつける。
「オマエ等(柴田&綿本)、自分優先にして今川達を見捨てて逃げたんだろ?
源の救出を力石任せにして、自分達は何もしなかったから力石が死んだんだろ?
自分ばっか被害者面してんなっ!」
「そ、そんなこと言ったって、急にわけの解んない世界に来て・・・
何をしたら良いのか解んなくてっ!」
「そんなの、オマエだけじゃない!全員同じだってのっ!」
「だったらどうすれば良いのっ!」
綿本さんが立ち上がって、枕を床に叩き付ける。
「安藤さんだって、その場にいたら何もできなかったはずっ!
ずっと宿屋に隠れてた安藤さんが偉そうなこと言わないでよっ!」
「私がここで働いてなきゃ、行き場の無いオマエ等は野垂れ死んでるかも
しんねーんだぞ!」
「怖い思いをしてないのに偉そうなこと言うなって言ってんのっ!」
「私はオマエ等ほどヘタレじゃないっ!」
安藤さんが、綿本さんに掴み掛かりそうな勢いで立ち上がった。
「ま、待ってよ。喧嘩しないでよ。僕が悪いって認めるから・・・」
「そーゆーウジウジしたのが一番腹立つってのっ!」
安藤さんが拾った枕を力一杯振るって僕をぶん殴る。
日常生活ではロクに会話をしたこと無い面子。チームワークは最悪。今後の方針会議なんてあったもんじゃない。
宿の主に「うるさい」と怒鳴られ、綿本さんが部屋から飛び出し、柴田くんが追っていって、強制的にお開きになった。
室内には僕と安藤さんだけが残る。僕を睨み付ける安藤さんが怖い。
「オマエ、宿のバイトはクビな。
マスターには『全然使えない』って報告しとく」
「えっ?なんで?」
「言ったろ。使えねーから」
昼間は「こ~ゆ~仕事はちゃんとできる」って褒めてくれたのになんで急に?
「宿での情報収集は私がやる。2人も要らない。オマエ不要。
部屋と飯だけは確保できるようにマスターに頼んどく。
他の稼ぐ手段と、情報を得る手段を探せ。それすらできなきゃ仲間もクビな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
グッドアイディアと思った宿屋でのバイトは、たった1日でお払い箱になってしまった。
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