4-1・ペイイスの村
帝都テーレベールを中心に、東の都市アーズマ、西の都市セイ、南の都市サウザン、北の都市ノス、東西南北に諸公が治める都市があり、都市は街道で繋がっている。そして、北と東、北と西、南と東、南と西、それぞれの町を繋ぐ街道の途中に村がある。
僕は、東の都市アーズマと北の都市ノスの間にある北東の村ペイイスに辿り着いた。
ブラークさんからマントを借りてブレザー姿を隠し、ブラークさんが馬を引いて村に入る。村とは言っても、ゲームの世界の村みたく、宿屋と道具屋があって、あとは民家が5~6軒ある村とは違う。
村の外周は木の柵で囲まれており、農作物の広い穀倉地の向こうに沢山の建物が建っている。想像してたより大きな村だ。
「端から端まで、2時間あれば歩けますかね?」
「無理だな」
村の中心に行って、先ずは服(質素なローブとゆったりしたズボン)を買った。・・・とは言っても僕は1円も持っていないので、ブラークさんが買ってくれた。この世界の通貨は解らないから、日本円で1000円くらいなのか10000円くらいなのか、買ってもらった服の価値は解らない。
それから、ご飯屋さんに行って食事をおごってもらった。パンとスープと肉。「なんの肉ですか?」と聞いたら、「この世界に馴染むまでは知らない方が良い」と言われた。不安そうにしていたら「人の肉ではないから安心しろ」とも言われた。
この世界に来て初めての食事は、それなりに美味しかった。
「粗末な宿屋だがな・・・5日分の宿代と食事代は、主人に渡しておく。
5日のうちに、生活をする手段を見付けろ」
「・・・えっ?」
5日分も生活費を工面してもらえる驚きと、ブラークさんが離れてしまう驚き。後者の驚きの方が大きい。だけど、偉い騎士様がいつまでも僕の面倒を見ているわけにはいかないんだから、当然の成り行きだろう。
「馬の世話、飯場の皿洗い、工事の人足、選ばなければ稼ぐ術はいくらでもある」
「・・・はい」
「秘境者であることは隠せ。人前では富醒は使うな」
「・・・はい」
食後に、ブラークさんに宿屋まで送ってもらう。
「このお礼は、いつか必ず・・・」
借りっぱなしにはできないから返したいが、返すアテは全く無い。
「構わん。死なぬことが俺への“返礼”と考えろ。達者でな」
ブラークさん、言うことまでメッチャ格好良い。
「いろんなこと・・・本当にありがとうございましたっ!」
去って行くブラークさんを見送る。ホントは村の外まで見送りたいけど、そのまま迷子になって宿屋に戻れないと困るので、ここで別れる。
「・・・あっ!」
今更だけど、疑問が湧く。「諸公は転移者を勧誘する」らしいけど、ブラークさんからは1回も勧誘されなかった。僕がヘタレすぎて「勧誘しても無駄」って思われちゃったのかな?
もうブラークさんの姿は見えないから確認できない。
宿に入り、共用スペースを見て廻る。この世界にもお風呂があった。食堂はカンターがあって、木のテーブルと椅子が所狭しと並んでいて、中世ヨーロッパみたいな感じ・・・と言うか、ゲームで見たのと同じ感じ。
寝る部屋は・・・・・・・・・団体部屋だった。シーツの代わりに藁が引かれたベッドがいっぱい並んでいる。狭いけど個室で布団有りだと思っていたのでビックリしちゃった。
「まぁ・・・文句は言えないよね」
疲れてるから直ぐに寝たいけど、明るいうちに宿を出て村を見て廻る。宿に滞在できて食事が保証されているのは5日間。それまでに稼ぐ手段を見付けなきゃホームレスになってしまう。
食堂(酒場)、武器屋、肉屋、パン屋・・・飛び込みで「雇ってくれ」と頼んだら働けるのだろうか?八百屋に並んでる野菜は、現実世界で見たことあるのが沢山あるけど、「何これ、食べられるの?」ってのもある。道具屋には先生の傷に宛てたのと同じような葉っぱが売っていた。
ゲームと同じように冒険者ギルドがあった。国や民間の依頼が集まって、冒険者っていう人達が自分にできそうな仕事を受注するところね。覗いたら「腕に覚えのある」っぽい人達がたくさん居たけど、僕はここには用は無い。
「先生の剣を売れば、もう何日か宿に泊まれるかな?」
ちょっと罰当たりなことを考えてしまった。
「さすがにそれはできないよね」
辺りが薄暗くなると、道沿い高い棒の上や軒下に有る直径50㎝くらいの玉が光を灯して周囲を照らす。
迷子にならない範囲で見て廻って宿に戻った。夜の食事は、パンと、なんかよく解らない具がたくさん入ったスープと・・・
「これはチーズかな?」
ご飯の後に風呂に行く。1辺が2mくらいの大きいお風呂。手足を伸ばしてノンビリ入れる・・・と思っていたんだけど、男の人が5人くらい一緒に入ってきて手足を伸ばせなかった。お風呂は一個しか無くて、男性が入る時間帯と女性が入る時間帯で分けてるらしい。
狭いんだけどお湯に浸かってると気持ちが安らぐ。昨日は家で風呂に入ったけど、数日ぶりにお風呂に入ったような感覚になる。安らぎすぎてお湯の中で寝てしまい、そのままお湯の中に沈んで、一緒に入ってた人達に助けてもらった。
「あ・・・危なかった~」
ブラークさんから「返礼は生きること」と言われたのに、いきなり死にそうになってしまったよ。
入浴後はパンツとシャツを手で洗う。言うまでも無くTシャツ、トランクス共に、着ていた一組しか無い。つまり今はノーパンで、ブラークさんに買ってもらった服を着ている。まだパンツを履かない生活には慣れない。
団体部屋のベッドに寝転んだ僕は、5日後から稼ぐ手段を考える。
かなり不安。小学校の時に近所の食堂、中学校の時に少し離れたスーパーで職業体験をしたけど、ちゃんとしたバイト経験は無し。こんなことなら夏休みにバイトをして、職業を学んでおけば良かった。
「だけど・・・それだけじゃない」
いざとなれば、現実世界から水を持ってきて売る方法がある。だけどそれでは、現実世界で時間を浪費してしまって、この世界に滞在する時間が短くなってしまう。
「先生・・・今川くん・・・」
現実に帰りたい。帰る為にはクラスメイトの多数決が必要。クラスメイトは広いこの国の色んな場所に散らばっていて、簡単には全員集合をできない。この世界にいて、働きながら、クラスメイトの情報を集めなきゃならない。
「智人・・・櫻花ちゃん、まだ生きてるよね?」
そんなことを考えながら、僕はいつの間にか眠っていた。
・
・
・




