3-4・ブラークさん
「オマエは性根の部分で戦闘向きではなさそうだからな。
下らぬ争いに巻き込まれない為には、この世界の住人に染まるべきだ」
正解です。真っ先に武器を棄て、ひたすら逃げ回って、しかも号泣していました。僕はヘタレです。
数分前の自分を思い出したら恥ずかしくなった。あんなに泣いたの、いつ以来だろう?涙ぐむことは度々あるけど、号泣なんて久しぶりだ。
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鮮明に覚えてるのは、小学校低学年の頃、幼稚園から幼馴染みの櫻花ちゃんに泣かされた。櫻花ちゃんは僕よりも2ヶ月早く生まれたから、小さい時は櫻花ちゃんの方が大きかった。なんで喧嘩をしたのか、そもそも喧嘩だったのか、それは覚えてない。僕は泣きながらお母さんに助けを求めたけど、お母さんは苦笑いをしていた。櫻花ちゃんのお母さんが櫻花ちゃんを怒って、櫻花ちゃんも泣いた。
多分、あの時からだろう。櫻花ちゃんは僕を弟みたいに扱って、近所のガキ大将から僕を守ってくれるようになった。僕が泣かされると、櫻花ちゃんが庇ってくれた。
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なんか色々と恥ずかしくなってきた。きっと今でも、櫻花ちゃんにとっての僕は、頼りない弟分なんだろうな。
「もっとちゃんとしなきゃな」
ブラークさんが駆る馬の後ろで、僕は青い空を見上げながら呟いた。
町に着いたら破れて見窄らしくなったブレザーは着替えるとして・・・この世界の人に成りすますかどうかは、まだちゃんと決めていない。・・・と言うか、いきなり「馴染め」と言われても無理です。そもそも、この世界に永住する気は無い。
「勧誘されても、断れば良いんじゃないですか?」
「何故、ミコトと同じ格好をした者達が、
人里を離れた小屋に身を隠したと思う?」
「勧誘されるのが面倒臭かったから・・・ですか?」
「考えてみろ。勧誘を断った者が、破格の条件で別の組織に属したらどうなる?」
「・・・・・・悔しい・・・ですかね」
「そんな安穏とした感情論で済むわけがなかろう。
答えは『事前にその危険を摘み取る』だ」
ブラークさんが言ってるのは「勧誘を断ったら殺される」ってことだ。だからブラークさんは「ヒキョー者狩り」って言葉を使ったんだ。
そう言えば、力石先生は、いつものスーツではなく、この世界の服を着ていた。今川くん達6人のうちの誰かが、「この世界の住人ではない」とバレてしまった?だから、小屋に隠れるしかなかった?
アニメやゲームでは異世界に来た途端にチヤホヤされたり可愛い女の子が寄って来てハーレム状態になるみたいだけど、僕が来た異世界は、そんなに甘くないらしい。
「出自がバレて勧誘を受けた時点で、
受け入れる・排除される・返り討つの三択だ。
ミコトならどれを選ぶ?」
「え~~~と・・・」
受け入れれば争いに巻き込まれる。危険分子として問答無用で摘み取られるのは勘弁して欲しい。力で退けるのは無理。
「だから、勧誘されない為に出自を隠す4択目・・・ですか」
ブラークさん凄い。初対面なのに僕の性根を見抜いてる。ちょっと情けないけど、息を殺して「現地に馴染む」が僕に一番似合うパターンだ。
話していたら疑問が湧いた。ブラークさんの説明した感じだと、だいぶ前から「ヒキョー者狩り」は行われているっぽい。クラスメイトのうち、既に何人かは勧誘を拒否して排除された?力石先生は僕よりも7日早く転移したらしいけど、もっと前に転移した人がいる?「7日前」ってだけでも差がありすぎるのに、何ヶ月も差があったら「戻る」「戻らない」の多数決そのものが機能しないのではないか?
「勧誘されて、参加したり排除された人もいるんですよね?」
「ああ、存在する。今回ではなく、それ以前にな。」
「・・・今回?」
「ミコトや、その仲間達が転移をする以前から・・・だ」
ブラークさんは僕の困惑を汲んでくれたらしく、僕が感じた疑問を上廻る答えをくれた。
「僕達『以前』・・・ですか?」
「この世界には、たびたび秘境者が出現する。
俺が騎士団に入団する前から、その勧誘は行われてきた」
簡潔な説明なんだけど納得できた。以前から僕達みたいな転移者が何人もいたから、ブラークさんはすんなりと僕に対応して、生き延びる為の的確なアドバイスをくれるんだ。
「僕達以前にも、集団で仮死状態になった人達がいた・・・ってことなんですね」
超今更だけど思い出した。
リアルワールドへの帰還を果たした場合、多数派の意見を纏めた代表者は、1つ願いを叶えられる。
喋る光がそう言ってたっけ。僕達以前に、この世界に来て、現実世界に帰還して、何らかの願いを叶えた人がいるってことなんだね。
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不意にブラークさんが手綱を引いて馬を止めた。慣性が働いて、気を抜いていた僕は、ブラークさんの背中(鎧)に顔面をぶつける。
「痛っ!」
「良い機会だ。騎士の実力を見せてやろう」
「・・・へ?」
「ミコトの友人たちを襲ったヤツかもしれんな」
ブラークさんの背中が有って前が見えないので、体を傾けて確認をする。
前方約50m、身長が僕の倍くらいはありそうな太いオッサンが、大きい棍棒を持って向かってきた。