2-3・富醒
困惑して首を傾げたら、先生は呆れ顔をした。
「オマエは何も説明を受けないまま異世界に放り出されたのか?」
「・・・はぁ」
思い返すと、喋る光がワケの解らない説明をしてた。「僕が誤差の範囲」とか「多数決で帰れる」とか「報酬有り」とか「オープンと叫ぶ」とか、なんかを「レンタルする」とか・・・・あと、「モーソーワールドに転移する」・・・とか。
「・・・あ!」
もしかしてあの時、メッチャ重要なことを説明していた?ヤバい、夢だと思ったからちゃんと聞いてなかった。
「よく、そんな調子で今まで生き残れたな」
「『そんな調子』と言われましても、さっき来たばかりで何が何やら解らなくて、
『生き残れた』と言われても、先生が助けてくれなければ死んでました・・・」
「・・・『さっき』?そうか、来たばかりだったのか?」
「先生はなんでそんなに詳しいんですか?」
「理屈は解らんが、転移には個人差があるようだ。俺は、今日で7日目だ」
「7日?道理で馴染んでるわけですね。なんでそんなに差があるんだろう?
『差』と言えば、喋る光に『誤差』って言われたんですが関係ありますかね?
オマケ扱いってことですかね?」
「誤差?なんのことだ?俺が聞いた説明には無かった言葉だ」
「ああ・・・そうですか」
とりあえず、想像してたより1000倍くらいヤバい状況ってことだけは解った。「オープン」ってのは簡単にできそうだ。多分、ゲームとかコレ系に有りがちなアレだろう。
「ステータスオープンっ!」
僕の声に反応して、頭の上に数字が表示された。だけど、浮かんでいるのは「1」の数字だけ。
「1って書いてあります」
「転移直後なら当然だろうな」
異世界に来たばっかりで、さっきの戦闘には参加しなかったからレベル1ってことかな?だとしても、HPとかMPとか攻撃力は表示されないの?「1」しか表示されないのは不親切すぎない?
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力石先生の説明を受けながら、合流済みの6人が待っている小屋を目指して歩く。色々と不安だけど、先生が一緒なら安心だ。
「地図が支給されたはずだが使わないのか?」
小屋は、ここから2㎞くらい離れた場所にあるらしい。
「地図?・・・無くしました」
先生が地図を開いたのを見て、初めて袋の中にあったA2サイズの落書きが地図だったことに気付く。食料の入った袋ごと、ゴブリンから逃げる時に捨てちゃった。
「あの・・・先生?偶然通りかかって僕を助けてくれたんですか?」
「地理が解らない広大な地で、偶然に遭遇するなんて不可能だ。
合流した生徒の中に、転移者の位置を把握できる者がいてな、
それで位置を把握して捜索をした結果、源と接触できたんだ」
「へぇ・・・・便利」
「まだ富醒で使用者の熟練度が低いので、
索敵範囲は半径10㎞程度なのだが、それでも充分にありがたい」
「ふせい?・・・不正?」
そう言えば、その単語も喋る光が説明してた気がする。
「不正ではなく富醒。
モーソーワールドの住人は持たず、転移者のみに与えられる特殊能力だ」
「特殊能力・・・不正ってことなんですかね?」
「我々のような異世界人は、現地の者達からは秘境者と呼ばれている」
「不正で卑怯者・・・ですか?」
「富醒で名を馳せる秘境者は偉汎者。
偉汎者の中で最も優れた者には、英雄の称号・地異徒の名が与えられる」
「不正を使う卑怯者は違反者で、そのトップがチート扱い・・・ですか。
イヤな世界ですね」
不正は好きじゃない。だけど、僕は不正をする卑怯者の仲間入りをしてしまったらしい。
「先生も違反者なんですか?」
「・・・偉汎な」
「源はどんな富醒を得たんだ?」
「【レンタル】って言われたような気がします。
不正を借りるとか、効果は普通の1/3とか言われましたけど、
どこで借りれば良いんですかね?」
「・・・富醒な。
当事者が理解していないスキルを俺に説明できるわけがないが、
・・・試してみるか?」
立ち止まった力石先生が一呼吸して正面に手を翳す。
「富醒発動!」
僕達の目の前に直径5mくらいの光の穴が発生した!
「これは?」
「俺の富醒・【リターン】だ」
恐る恐る近付いて光る穴に触れようとしたら、先生に腕を引っ張られて止められた。
「俺の富醒を見せたいわけではない。
俺の富醒を貸してやる。
源の【レンタル】で俺の【リターン】を発動させてみろ」
「えぇっ!?」
「ダメ元だ。見当違いなら、本当の【レンタル】の使い道を摸作すれば良い」
先生は気合いを抜いて光穴を閉じ、僕に「やってみろ」と催促する。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
自信が無い。だけど、目の前で有り得ないことが起きていて、先生が非常識なことをやったんだから、僕にも非常識な不正ができるかもしれない。
先生を真似て、一呼吸して正面に手を翳す。
「富醒発動っ!」
すると、僕の目の前に1枚のカードが出現した。カードにはreturnの文字と、光穴の画が描かれている。恐る恐るreturnのカードに触れてみた。
〈発動しますか?発動待機状態にしますか?〉
謎の声が聞こえて、次の指示を求めてきた。
生唾を飲んで先生を見たら、「やってみろ」と頷いく。
「リターン発動!」
僕達の目の前に直径1mくらいの光の穴が発生する!
「おおっ!できたっ!」
僕は、僕の能力の凄さを噛みしめた。僕の特殊スキルは、他人の特殊スキルを借りること。つまり、どんなスキルでも使える。これって、絶対に当たりスキルだよね!