表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あやし聞書さくや亭《十翼と久遠のタマシイ》  作者: 地底乃人M


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
69/70

第六十九話

❀手を離すことなかれ❀




「なんてことを……」



 幽闇(くらやみ)咲也(さくや)は、十翼の気まぐれにより連れだされてしまった。三年ものあいだ蔵のなかで死人のように過ごしてきた青年にとって、これは予期せぬ展開だった。帰ろうにも現在地すら不明で困惑していると、炎估に単衣の(えり)を引き寄せられた。



「おまえはこれから、暗闇(くらやみ)咲夜(さくや)となって生きろ。雑木林(ここ)は、現世(うつつ)の界面に存在する絶対領域で、人間が立ち入ることはできない場所だ。奥に行けば、いくつか廃墟がある。手をくわえれば充分暮らせるだろう」


「ど、どういうことですか? ぼくは、家にもどらなくては……」


「もどってどうする。また、死ぬために生きるのか」


「……そうです。それが、ぼくの運命(さだめ)だから」


「ふざけるな!」


 ドンッと、肩を突き放されて地面に尻をつく咲夜(、、)は、怒気をあらわにする炎估に向かって、なぜ、こんな真似をするのかと声をあげた。


「おまえは、ここで暮らせばいいと云っている。日照にその貧相な(からだ)を奪われないように、力となるやつのタマシイをあつめろ。やり方は、知っているな。かつて、あんたら(、、、、)生業(なりわい)は、空蟬(うつせみ)亡人(もうけ)を深淵に還すことだったはずだ。……ずいぶん凋落したものだな」


「……蔵に閉じこめられた日、父さんに聞いたけれど、幽闇家の先祖は異形なものとタマシイを交換して、人間のふりをして生きてきたそうですね。……だから、摂理(ことわり)を重要視する日照に目をつけられた。……あなたも見たのでしょう? ぼくの裏庭には、生まれたときから虹色のウロコがある。きっと、どこへ隠れても、日照は、ぼくをつかまえにやってくる」


「ならば、ウロコを使えよ。そのウロコを使えば、死人のタマシイを強化できる。利用できそうな死にぞこないを見つけたら、迷わずそいつの裏庭に封じろ」


「そ、そんなこと、できません!」


「どうせ相手は死んでいる。問題ない。むしろ、おまえがタマシイをつかんでしまえば、何百年と生きられるンだ。場合によっては感謝されるさ」



 ポツポツと、(そら)から雨がおちてきた。炎估は雨に打たれてもどこもぬれないが、咲夜のからだは冷たくなってゆく。背後から黒傘をさしだされ、おどろいてふり向くと、若い男が立っていた。名を風估(ふうこ)という。……あなたたちは、十翼とは、いったい。頭が混乱する咲夜は、からだの力が抜けおちて、意識を失った。


「炎估よ、どうするのじゃ。こやつは、日照の器候補なのであろう? 下手なことをすれば、おぬしもただではすまないぞ」


「すませるさ。おれがこのオンナ(、、、)を手に入れる。男のからだをしているが、咲夜のタマシイは女だ。異形のタマシイを取りこんだ血筋は、容姿に関係なく、女のにおい(、、、)がする」


「たしかにのう。わしの鼻も、ひさしぶりによく通るわい。この色香は、独占したくもなるな。われら十翼とて、人肌は好物だしのう。……ふむ。では、炎估よ。おぬしはそやつを嫁として、そばに置くがええ。日照に見つかるまで、夫婦生活を愉しむことじゃな」


 風估は、石づきなめこという雑貨商の主人である。こうして、十翼の気まぐれによって雑木林へ身を寄せるものの世話をひき受けた。咲夜を抱きあげる炎估は、朽ちた家屋(かおく)のなかへ、はいってゆく。ほこりだらけの座敷に、ひと(へや)だけ新しい布団が敷いてある。そこへ咲夜の躰を寝かせると、薄くまぶたをひらいた。


「炎估……、なにをしているのですか……。わ……、わたし(、、、)は、帰らなければ……。家族が、無事ではいられない……」


「幽闇の一族は、いいかげん滅びるべきなんだよ。いつまでも風習にこだわって、日照を神格化しやがって、うんざりする。あんなものは、ただの現象にすぎない。放っておけばいい」


「見捨てろと……? あなたの意見など……、聞いていませんよ……。わたしは、日照とひとつになるための器……、お願い、じゃまをしないで……」


 雨にぬれた白装束を脱がせる炎估は、「おれの罪から逃げたら、タマシイごと灼き殺す」といって、緋色の眼でにらんだ。



〘つづく〙

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ