表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あやし聞書さくや亭《十翼と久遠のタマシイ》  作者: 地底乃人M


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
65/70

第六十五話

❀日照❀




 長い話になりそうだと思い、螢介は押入れから掛け布団をとりだすと、亭主のからだにあてがった。咲夜をはさんで向かいに(すわ)る地估は、螢介に座布団をすすめた。うけとって、咲夜の顔が見える位置にあぐらをかく。人間にたいして正体を問うほど、螢介もまぬけではない。雑木林で出逢う者は、すべて自然の摂理を逸脱しているか超越(ちょうえつ)しているか、そのどちからである。螢介自身は、おそらく前者であり、亭主や十翼は後者の部類なのだろう。


 乗り気ではないようすの炎估は、卓袱台に腰をかけ、巻紙や筆を手にとり、耳だけをかたむけている。説明役を担う地估の表情はやわらかいが、螢介は緊張してきた。……ようやく、先生の秘密が(あば)かれるのか。なんか、不可(いけ)ないことをしてる悪ガキみたいな気分になるな。


「螢介くんは、いま、いくつだい?」


「え?(年齢(とし)?) 十七ですけど……」


「見た目はね。きみのタマシイは、数百歳といったところかな。若くてうらやましいね」


「タマシイが(とし)をとるンですか?」


「この世にあるものは、例外なく年月(としつき)をかさねているよ。現代風に云うと、人間のからだもタマシイも、リサイクル可能な資源で、生まれるまえから区分されている」


「……区分?」


幽闇家(くらやみけ)は、日照の(うつわ)となる人間の血筋なんだ。咲夜(さくや)のからだは、()れてきた頃合だね。ゆえに、日照がつかまえにきた。迎えにきたといったほうが無難かな」


「日照って、さっきの男がそうなのか? あいつにからだをさしだしたら、先生のタマシイはどうなるンですか?」


「まず、日照は形をもたない。あの若者は、行きずりの死者かなにかであろうな。歩くのに必要な、からだを借りただけだ。……暗闇(くらやみ)のタマシイは、日照と同化する」


「同化? 先生が先生じゃなくなるってことか?」


「そうだね。暗闇咲夜の意識は消滅するけれど、肉体は引き継がれる。日照は、そうやって必要な養分をとりこんで、数千年にいちど、地上に恵みの光をもたらす。……人間にとっては目に見えない存在だけれど、日照の力がはたらいてこそ、四季はめぐり、あらたな生命が誕生する。幽闇(くらやみ)の血筋だけが日照の依代(よりしろ)となれる、名誉ある家系なんだ」


「なにが名誉だよ。そんなのは、ただの自己犠牲じゃないか」


 螢介は顔をしかめたが、地估は「さもありなん」といって、笑みをつくって見せた。  


「気持ちはわかるけどね。この世界は人間(ひと)だけのものではない。さまざまな生物や現象が、いまこの瞬間に、だれにも知られず発生しては消えてゆく。われわれ十翼や日照が何者かなんて、個人が生きていく上では、なんら関係ないんだ。実際、螢介くんも、ぼくらの姿は見えなかったはずだよ。……暗闇と出逢うまではね」


「それはそうだけど……、いまさらなかったことにはできねぇよ。おれは、もう、いろいろなものを見ちまったからさ。……先生が日照ってやつに取り込まれると知った以上、はいそうですかって、渡せるわけがない。こんどやつが来たら、おれは抵抗するからな」


「螢介くんの力で、日照を退(しりぞ)けることは不可能だよ。暗闇の意識は、ずいぶん遠くなっている。日照に、からだをひき渡すための準備が、自然にととのってしまうんだ。むしろ、ふたりを同化させたほうが、暗闇は姿を保てるんだよ」


「ちがう。日照に取り込まれたら、先生は先生じゃなくなる。おれは、いやなんだよ。先生のからだを利用してまで、日照に価値を求めない。自然の摂理とか、それこそ、おれには関係ない話だ」


 肉体が滅びても、タマシイは世上を彷徨(さまよ)う。タマシイが消えても肉体は残り、他者の器となる。……どっちも考えたくないし、お断りだぜ。


 頑固な意思を主張する螢介に、地估は哀れみのような表情を浮かべた。




〘つづく〙

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ