表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あやし聞書さくや亭《十翼と久遠のタマシイ》  作者: 地底乃人M


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
63/70

第六十三話

❀日照❀




「先生、先生!」


 だめだ。このまま(うしな)ってたまるかよ!!


日照(にっしょう)、おれの声がきこえるか! ウロコなら、全部くれてやる! 先生のタマシイをかえせっ!!」


 巻紙をひろげて筆を(おこ)す螢介は、亭主の精神に呼びかける。……先生、あなたの声は、おれが書き記す! たのむから、なにか云ってくれ! このままじゃ、おれは死んでも死にきれねぇからな。亡人になって、先生のタマシイを喰ってやる!!



 なにが起きたのかって? 

 こっちが聞きたいぜ! 



 雨賀佐(あまがさ)邸の件から数日後、ひさしぶりに書道教室へ生徒がやってきた。若い男で咲夜(さくや)とは旧知の仲だと云う。座敷に案内された男は、しばらく筆を動かしていたが、突然、螢介につかみかかった。


「日照はどこだ」


「に、日照? なんのことだ」


「とぼけるな。このにおい(、、、)は、やつのものだ。まさか、こんな雑木林までつくりだすとはな。末恐ろしい男だ」


 シャツにデニムといった洋服の男は、まだ二十代前半くらいに見える。眉のかたちもよくととのっており、第一印象は好感が持てる容姿だった。しかし、暴力的な言動に豹変された螢介は、困惑ぎみだ。


 なんだよ、こいつ。

 亡人(もうけ)なのか!?


 押し倒された螢介は、顔を横向けて庭を見た。朝からふっていた雨が小休止している。じき、(そら)は晴れそうだ。……雨の日以外の来客は、こいつが初めてか?


 現在、ネコは行方不明である。フッチは二階にある先生の部屋にいるはずだ。座敷での異変に気がついた十翼(炎估)は、遅れてあらわれた。


「いいザマだな」


「炎估! こいつは新手の亡人か?」


 若い男に押し倒されて裏庭にあるウロコをさぐられる螢介は、ズボンと下着を脱がされそうになっていた。むろん、全力で抵抗する。亡人ならばさっさと成仏してもらいたいが、炎估は、(かす)かに眉をひそめた。


「おや、十翼ではないか。めずらしいね。こんな異空間(ところ)にとどまっているとは、どんないわれ(、、、)があるのかな」


「きさまには関係ない」


「そうかな? 隠そうとしても無駄だよ。この家には日照がいるね。それも、まだ生まれたてのような気配だ。()の定めを知るまえに、ぼくが消してあげよう」


「きさまこそ、どうやってこの場所にたどりついたかは知らないが、灼き殺されるまえに去れ。ここにいる暗闇(くらやみ)咲夜(さくや)は、おれのものだ」


「おや? きみからは、ものすごい憎悪の念を感じるね。十翼ならば、宿主(しゅくしゅ)の潜在意識を察知できるはずだ。暗闇咲夜の、なにをそんなに気に入ったのだい?」


「……黙れ」


 話の内容についていけない螢介は、男の腕に噛みつき、自力でのがれた。卓袱台のうえにある文鎮を手にとり、男に向かって確認する。


「よくわかんねぇけど、あんたの狙いが先生なら、おれだって渡さないぞ

!」


「おやおや、こっちのきみは、ずいぶん(した)っているようだね。おかしな連中だな。これまでよく、ひとつ屋根の下で暮らせたものだね。……雑木林には、まともな人間がひとりもいない。ちょっと、おもしろいけどね」


 男は長い前髪を掻きあげると、薄い(くちびる)で笑った。


「ふうん? 十翼と化身(けしん)をそばに置いて手なずけるとは、いかにも日照らしいではないか。ぼくは、摂理(ことわり)を超越する者ではないけれど、ふたりくらいならば相手にできるよ。そんなに宿主を渡したくなければ、このぼくを倒してご覧」


「なに云ってんだ、こいつ。おい、炎估、さっきから、なんの話だよ? 宿主って、どういう意味だ?」


 螢介は憤った。なにやら複雑すぎる状況だ。若者の正体は不明だが、あきらかに亭主の命を狙っている。理由は異なるが、炎估とは亭主を渡さない考えで一致しているため、共闘は可能である。……守らないと! この変なやつから先生を守らなきゃ! ぜったいに渡したらだめだ!! ……それなのに。



「ふたりとも、おやめ」



 まだ、なにも始まってない。螢介と炎估は、襖をあけて姿をあらわした亭主をふり向き、「来るな」「先生、だめだ! あっちに行ってろ!」と、同時に声をあげた。亭主は、くすッと笑う。白装束のような単衣(たんえ)をゆらめかせ、ヒタヒタと歩く。肌の色も白い。もはや、死者のように見えた螢介は、ゾクッと血の気がひいた。


「だ、だめだ、先生! 行くな!!」


 のばした腕は、とどかない。亭主は「ごめんね」と小さな声で詫びた。




〘つづく〙

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ