表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ULTOR‐ウルトル‐  作者: ばくだんハラミ
アメリトリア王国編
42/47

第39詩・組手の訓練開始

 AM8:00。

 晴天の下。

 時人の思う春とは違い、朝から強い日差しが肌をひりつかせる。


 前には長い棒を携えたザッハーク。対して時人はミーメに錆をとってもらったあの剣を構えていた。


 最初に言われたのはもはや剣術というより、ただひたすらにザッハークの攻撃を死ぬ気で回避し、隙あらば殺す気で剣を振れというものだった。しかしザッハークの攻撃は死ぬ気だろうがほとんど躱せず、隙もなく、時人は始まって数分で既に息があがり、服はボロボロになっていた。


(あの、棒……! ただの棒じゃない、よな……母さんの腕力が凄すぎて、ちょくちょく地面抉ってるけど――)「ぶっ!?」


 ザッハークの棒が時人の顎に直撃し、後ろに転がっていく。


「気を抜くな、態勢を立て直せ! デケムは構えるまで待ってはくれんぞ」


「う、ッ……無茶言わないでくださいよぉ! ッ!?」


 顔をあげた途端、目前にはザッハークの脚。首が折れるんじゃないかというほどの威力で蹴り飛ばされた。


「あっ……ッ……」


「気を抜くなと言っている。死にたいのか時人」


「……」

(やべぇ……)


 ひとまず距離をとらねばと時人は背を向けて走り出す。するとザッハークは足元にある石を棒で飛ばした。


「い!?」


 時人の膝に直撃し、態勢を崩して転んだ。すぐさま、まずい、と感じ振り返ると既に前にはザッハークの姿が。棒が時人の顔に直撃――はさせず、数㎜ズレた地面に打ち付けた。


「これで死んだのは何度目だ?」


「ッ……わ、わからないです……はっ……あの、母さん……」


「なんだ」


「その、攻撃を避けるのにコツとかってありますか……?」


「……オマエの場合、まず相手の動きが見えていないだろう。まずはそこからだ。集中して攻撃方法を観察し、パターンを覚えろ。それと……」


 トントン、と時人の頭に棒をあてる。


「さっきから頭を強打しすぎだ。弱点は攻撃を受ける前に腕で護るなりかがむなりしてどうにかしろ。私が加減していなければ本当に死んでいたところだ」


「……はい。あの、最初だけゆっくりとかは……」


「しない。なんとか頑張れ」


「…………わかりました……ん」


 ザッハークは時人に手を差しのばす、少し警戒しつつ、その手を取ると案外すんなりと立ち上がらせて貰えた。と、思ったその時。


「ッ!!」


 時人の腹部にザッハークの膝がトン、と優しく触れる。


「……?」

(あれ?)


 次の瞬間、今度は容赦なくその膝は時人の腹部に打ち込まれた。思わず剣を放し、時人はよろけて、何かを吐き出すような声をあげながら、またもや尻をつく。


「気を抜くなと言っている。腹も弱点だ。内臓は私でも治りが遅いからな、オマエでもそうだろう。それと……」


 剣を時人の足元に飛ばす。


「何があっても武器は手放すな。剣無しで戦えるほどオマエはまだ強くはないのだから」


「ケホッ……は、はい……すみません……」


 さて、とザッハークは時人から距離をとる。


「始めるときにも話したが、デケムとの闘いでは恐らくなんでもありの試合だ。開始位置はオマエから提案すれば好きな位置から決められる筈、オマエはまずデケムから逃げられる位置から試合を始めろ」


「……壁際でもいいってことですか?」


「ああ。オマエがどれだけ距離をとろうが構わないだろう。デケムはこの国のトップ12の10番目。それ相手に子どもがどれだけ逃げようと恥ではない……そもそも、最後に勝てば問題なしだ」


「…………勝てます、かね。オレ、もう心折れそうなんですけど……」


「……勝つつもりがないなら試合など放棄してしまえ」


「え、いや、それは……」


「なら骨は折れても心は折るな」


「骨は……って……」


「……折ってみるか。今のうち痛みになれておくのもいいだろう」


「い、いやいやいやいや! 冗談にならないですよ!?」


「冗談じゃない。オマエならば折れても治る。そも、デケム相手に無傷で勝てると思っているならば思い違いも甚だしいぞ」


(そんな……この感じは、なんつーか、ヤバいぞ……)


 ザッハークの言葉は本気だ。時人は肌でそれを感じ取っていた。

 このヒトならばやりうると、この数分間で十分身に染みている。胃液が喉を焼いた、震えた手で、剣の柄を握る。両手で掴んだ剣を前に構え、ザッハークを見つめる。

 最初に見るべきはどこか、武器である棒か、それ振るう腕か、それとも――


(――脚か)


 ザッハークの脚がわずかに踏み込まれる。直後、“来る”と感じ取った。

 集中。しかし、ザッハークの動きを完全に捉えることは出来なかった。見ていたはずだが、いつの間にか目の前にいるのだ。ザッハークの棒が振るわれる。


 “さっきから頭を強打しすぎだ”


「!!!!」


 瞬間、ザッハークの言葉が脳裏に浮かぶ。頭部が危険だと直感した。剣を手にしたまま、腕を頭の前へ構えた。


「――!」


 ザッハークはそれを確認した直後、容赦なく横腹へ攻撃する。


「がっ……!!」

(やばい、次はどこに――――あれ)


 追撃は無い、ザッハークは一度下がっていた。


「今頭を護ったのはいい判断だった。だがそれで目の前を見なくしては次の攻撃に対応できないだろう。視界は狭めるな。――オマエの目ならば私を捉えられる。それを忘れるな」


「……! はいっ!」


「続けるぞ」


 それから何度も、何度もザッハークの攻撃を受け続けた。

 始まってから僅か30分。

 レヴィが様子を見に来ると、その直後に時人の腕から鈍い音が響いた。


「ッッ!! があ……! あ、ァ!」


「トキト!!」


 レヴィはすぐさま時人の傍に駆け寄る、腕を見るとひどく腫れていた。ザッハークもそれを確認し、折れたか、と冷静に分析する。


「やりすぎよ竜王! トキトが壊れちゃうわ!」


「……いや、いい機会だ。これで時人の治癒速度が把握できるだろう」


「そんな……トキト、意識はある?」


 ああ、と力なく返事をする。


「ありがとうレヴィ。でも、大丈夫……多分、めちゃくちゃ痛いけど……治っているのはわかるよ」


「ほう」


 トン、と棒で折れた腕をつつく。時人は小さく悲鳴を上げた。


「何するの!」


「心配しすぎだ。もう少し時人の身体を信用しないか」


「そ。それとこれは……」


「動かせるようになったら構えろ、完治までは待たない」


「え!?」


 当然だ、とザッハークは言葉を続ける。


「本来、戦いであれば骨折がわかっても攻撃を止めることなどしない。攻撃を食らっても死に物狂いでその先は回避し続けろ。今オマエにできるのはそのくらいだ」


(そのくらい、って……それ自体とんでもなく凄いことなんじゃないのか……?)


「ま、まだ一日目でしょう!? そこまでする必要ないんじゃないの!?」


「……いや、いいんだ、レヴィ。このくらいは、しないと……相手は騎士団だしさ」

(レヴィの前でずっと尻もちついてるのは、ダサいよな……)


「トキト……無理しないでね。って、もう動くの?」


 時人は、かなり痛いけど、と言いながら折れたほうの手をグーパーと握っては開いた。


「なんとか」


「! ……そう」


 この時点で時人の治癒能力の高さはレヴィの想定を超えていた。即完治とはいかないが、骨は急速に回復にむかっている。


(すっかり……人じゃなくなってしまったのね)


 どこか寂しい気持ちを抑えながら、レヴィは立ち上がり二人から距離をとった。


「トキト、頑張って」


 額に汗を流しながら、にっこりと優しい笑みで応える。

 ザッハークから少し距離をとり、再び剣を構えた。ここからはまた再び、避け続けるのみだ。

 

 約一時間後。

 時人は満身創痍となっていた。あの後も骨折は何度かし、胃液も吐いた。もしかしたら走っていたほうが楽だったんじゃないかと思うほど、激しい痛みに苦しみ悶える。

 時人は身体能力だけでいえば凡人だ。特別高いわけではなく、体力だけは上がったものの、戦闘技術なんて全く無い。剣の正しい振るい方も知らないというのに、ただただザッハークの攻撃をくらい続けるのみで、だんだんと精神的に削られていっていた。


 もっとマシな教え方はないのか、とか。息子相手に厳しすぎるんじゃないか、とか。そんなことを考えながらその日の午前は終わっていく。



 PM13:30。

 昼食後、30分ほど治療時間を与えられた後、ザッハークとの訓練が開始する。

 しかし午後は、午前とは明らかに内容が変わっていた。


「え?」


「だから、私は攻めない。オマエが私に剣を振るうのだ、防御をする際、私がオマエを攻撃することは多少あるが――午前中ほどの事はしない。午後からは、攻撃の訓練だ」


「……!! あの、当たっちゃったら……?」


「オマエ如きの力で私の肌が傷つけられると思うな。いや、それではダメか。殺す気でくるといい、私を殺せるならばデケムなどアリのようなものだ」


「…………わかりました。オレ、本気でいきますからね!」


「ああ」


 時人は剣を構えるが、その途端少しの間、思考が止まる。


(攻める……って、どうやって攻めればいいんだろう……普通に突っ込んで当たるわけない、し……? 攻撃の仕方がよくわからないんだけど……ってか、剣をヒトに向かって振るうの初めてなんだよな……大丈夫、かな、本当に……)


 いや、と午前中の事を思い出す。

 何度ザッハークに倒され、骨を折られたか。あれほどの苦しみを与えてきた相手だ、多少のやり返しはしなければ、と時人は頭を横に振ってから、下手糞な足取りでザッハークに突っ込んでいった。


 当然、軽く横に流され、そのまま時人は前に転ぶ。


「すぐに立ち上がれ、構えなおせ」


「わかってます、よ!」


 剣を横に振るうも、かすりもしない。まだまだ、とザッハークに斬りかかるが、今度は足をかけられ地面に顔から突っ込んでいった。トキト! とレヴィの心配する声が届く。立ち上がらなければ、と鼻血を出しながらゆっくりと顔を上げる。


「剣を持ったまま転ぶのは危ういぞ。剣を握っているほうの腕を前にして回るように受け身をとれ」


「……転ばせたのは母さんですよ……」


「転ばされたのはオマエだ」


 鼻血を服で拭い、ザッハークのほうへ向き直す。


「はあああ!!」


 時人の攻撃を躱しながら、度々手を添えてザッハークは助言をする。


「脇をしめろ。斬る相手をしっかりと見ろ。避ける時と同じだ、相手の動きを覚え予測し……一度斬りかかったら次の手まで行け。態勢を崩すな、オマエの攻撃方法は剣を振るうことだけか? ――一度、当ててみるか?」


「!?」


 次の攻撃は躱さなかった。剣の刃はザッハークの胸元を斬りつける――筈だった。剣が止まる。服も斬れている様子はなく、ザッハークはいつもと変わらぬ表情で剣を受け止めていた。


「わかるか?」


 ザッハークは人差し指で刃に触れ、そのまま時人のほうへと押した。


「あ、危ないですよ!?」


「危ない? 何を見て言っている」


「え――――」


 ザッハークの指先は全く傷ついていない。それどころか時人の両手の力はたった指一本に負かされ、剣の刃は時人の鼻先まで来ていた。


「寧ろ、危ないのはオマエのほうだ」


「!?!?」


 時人は後退る。やはりザッハークの指は斬れておらず、まさかと思い時人は自身も剣に触れようとした。しかしすぐに、やめておけ、と止められる。


「オマエの剣は優れものだ、振るうのがオマエではなく剣を扱える人間であれば私は斬れている」


「な……それってどういう意味ですか?」


「わからないか。オマエは剣の力を引き出せていないということだ。子どもがただ木の棒を振っているだけのようなものだろう。腕だけで振るい、私を斬りつける気持ちがまるでない」


 会話にレヴィが介入する。


「そんなの難しいわよ竜王! 家族なんだから、本気で斬れるわけ――」


「私はコイツの腕や脚を何度も折った。肋骨もだ。そこまでされて何故、未だ手加減ができる?」


「……!!」


「時人、遠慮することはない。そして、信じろ。その剣に選定されたオマエ自身を」


 そう言ってザッハークは棒を時人に向けた。

 体力づくりと同様、地獄のような訓練が開始する――――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ