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ULTOR‐ウルトル‐  作者: ばくだんハラミ
アメリトリア王国編
25/47

第22詩・国王の決定

 

「……パーティー?」


 王宮の廊下で、竜王ザッハークは眉間にしわを寄せてアンリに聞き返した。

 アンリは、そう、と言葉を続ける。


「だいたい四ヶ月後、8月20日の話さ。その日にデイヴィッド国王とゼノ国王の生誕祭、そしてトキトの歓迎会を兼ねてパーティーをしようってヨシフ皇帝からの提案で決まってね。ザッハークもその日は空けておいてもらえると助かるよ」


 ザッハークはため息を飲み込んだ。


「……上の決定であれば、致し方ないか……開催場所はアメリカか?」


「そうだよ。これから忙しさが増すけど……パーティーをすること自体は良いと思う。時には明るい話題を世に出さないとね」


「そうか」


「ああ、あと。トキトのことだけど、実は大切な話があるんだ。三人で顔を合わせられる日ってあるかい?」


「……」


 短い沈黙のあと、


「四日後の昼にでも私のほうからそちらに行こう」


 と言うとすぐに背を向けて立ち去っていった。背中に向かって、ありがとう、と言った後、アンリもまたすぐにその場を立ち去った。


 ***


 時人がこの世界に来て丁度一週間が経つ頃。時人は朝早くからエタと共に机に向かって勉学に励んでいた。

 学んでいるのはこの時代の、アメリカ王国の言葉だ。


「えっと、並び替えこれであってるかな?」


「……述語が主語にきてるぞお前」


「まじか。オレやっぱ英語全然ダメだあ……」


 生前から時人は勉学があまり得意ではなく、中学で学んだ英語もほとんど忘れている。


「まあ文字書きなんざ出来なくても生きていけると思うけどな」


「でも不便だろ? 授業に顔だしてみたけど黒板に何書いてあるのかも全然わからなかったしさあ……」


 椅子の背もたれに体重をかけ、足を浮かせながら天井を見上げる。四日前、帰って来たアンリに言われたパーティーの事を思い出した。


「世界の偉い人達と顔を合わせるの、嫌だなあ……」


「テメェの立場上、仕方ねぇだろ」


「でも立ち振舞いとか正しい言葉遣いとか全然わかんないよオレ! やばいよやばい……エタはパーティー参加しないの!?」


「しねぇよ。てか無理だろ、俺は罪人かつ一般人だぜ。そういうのは貴族以上の人間が参加するもんだ」


 エタにそう言われ、時人はさらに深い溜め息をついた。


 昼時になり、時人はエタと昼食を食べに行こうと誘い部屋の扉を開けた。

 するとその直後、一階から大きな声が施設内に響いた。


「我々は騎士団の者だ! 罪人を回収にし来た! 中央広場へ集え!」


 何事かと時人を含め子供達は一階の中央広場へ顔を出す。するとそこには、ベリアルと対峙した後に見たフェリ・フラーテルの姿と11名の騎士、そして困った様子のアンリ・ユーストゥスの姿があった。


「君が今日ここに来ることは聞いていないけど……それはいい、それよりも罪人の回収とはどういう意味かな。フェリ」


「これ以上罪人をこんなところに放置しておくわけにもいくまい。貴様がより人類史に貢献する為にも、罪人は我々が回収し、未来の兵士や騎士として育成する。当然、デイヴィッド国王から許可は頂いている」


 その言葉にアンリと子供達は驚愕する。

 時人はエタの顔をみた。少し青ざめているのがわかる。アンリの元で静かに暮らす筈が、今すぐ国のために命を費やせと強制させられるようで、その場にいた子供達は後退る。

 それらを護るようにアンリは一歩前へ出た。


「……っ……そんなこと、僕は聞いていない! 国王が許可した証拠は!?」


「今私が言ったのだから聞いていないのも無理はない。許可証ならここだ。ま、貴様が読む必要はないがな、時間の無駄だ。お前達、罪人共を連れ出──」


 言い終わる前に、アンリはフェリの胸ぐらをつかむ。


「……解せるわけないだろう、彼等をなんだと思っている。騎士を目指す者ならば良い、戦場に立ち国に貢献することを、それで英雄となることを憧れとする者ならば良い、でも関係ない者まで争いに参加させるわけにはいかないんだよフェリ、君ならわかるだろう!?」


「……放せアンリ・ユーストゥス。貴様のくだらないエゴに付き合うつもりはない。これは国王が許した、謂わば国の決定だ。貴様一人の反論でどうにかなるものではない……何を突っ立っているかお前達! さっさとしろ!」


 フェリの怒鳴りに11名の騎士は「はっ」と縄を手に、慌てて子ども達の方へと向かっていった。


「待っ──」


 アンリが騎士達を止めようとしたそのとき、今度はフェリが思い切りアンリの胸ぐらをつかんだ。


「止めれば国の反逆行為へと見なす。貴様が英雄だろうと私はその首に刃を通すことを躊躇いはしないぞ、アンリ」


「っ……っっ!! そもそも! どうしてこんなことをするんだ!?」


「我々騎士団は今や、貴族や志願者だけでは人手不足だからだ。地下の都市化の完成のためにも魔獣を狩らねばならぬし、ベリアルが君臨した今、いつ向こうから攻撃されるかわからん。猫の手でも借りたい今、子どもだろうと戦場に立たせるべきだと考えたのだ。安心しろ、肉壁になれる程度の教育を施してやる」


「不安しかないよ!? それに人手不足なのは大した問題じゃない筈だ! 竜騎士だっている! 彼等に全て頼れというわけじゃないが、本人の意思なく騎士にするほどの状況じゃない!」


「貴様は本当にド阿呆だなアンリ! ドラゴンに国を、人類の命運を任せてどうする! まして奴等が今味方なのは気紛れに過ぎん、いつ裏切るかもわからんのだぞ!」


「君はそういう考え方をするが、僕は違う! そしてそれはこの場にいる子ども達もだ! 大人の考えで子ども達に人類の命運を背負わせるのはあんまりだろう!」


「先程から子ども子どもと……彼等は罪人だぞ? 人権があるとでも……いや、貴様のことだ。本気で罪人にも人権があり、護られるべき国民だと思っているんだろうが……


 本当に人権があるのならば、国王も許可はしないだろう」


「……!!! フェリ……」


 アンリが説得を続けようとしたとき、外から入り口へ複数の足音が響く。そして聞き覚えのある声が二人に問いかけた。


「これは一体どういう状況だ?」


「ちょっとちょっと、フェリ・フラーテル! アンタ何してんのよ!? アンリ様から離れなさい!」


「アンリ様がケンカとか、なんか珍しいッスね! オレもまじっていいッスか?」


 そこに現れたのは竜王ザッハーク、そしてレヴィとニーズの三名だった。

 フェリはその三名を見るとアンリから手を放し、ザッハークへと言葉をかける。


「アンリが国王の命に従わず、それどころか叛く有り様でな。良ければ力を貸してくれないか?」


 フェリの言葉にレヴィが敏感に反応した。


「は、はあ!? アンリ様がそんなことするわけ……ってか、どういう命令があって、どうして言い合ってるのかをちゃんと説明しなさいよ! そんなんで伝わると思ってるの!?」


「小娘は黙っていろ」


「いや、レヴィの言うとおりだ。具体的な説明がなければ判断を下せない」


 その言葉にフェリは眉間にシワを寄せる。よかろう、と言葉を続けようとしたとき、アンリが割って説明した。

 そしてこの時、ザッハークの言葉に反応したのはエタも同じであった。


(レヴィって……あの金髪の女が、もしかして時人の言ってたレヴィなのか?)


 横にいる時人へとこっそり視線を向ける。時人の瞳はレヴィ達に釘付けで、すぐそちらに駆け込みたいように見えるほどキラキラと輝いていた。


 アンリから状況を聞くとザッハークは一度瞬きをし、なるほど、と頷いた。


「で、あればフェリに従うべきだろう」


「なっ……ザッハーク、本気かい?」


「ああ。国王が許可し、決定したのであれば、致し方ない。アンリ、納得がいかないのであれば自ら国王の元へ行き抗議するといい。ここでフェリと騒いでも解決するものではない。国王がこれを取り消すまでは彼等は騎士団の教育施設へ異動するだけだと考えるべきだろう」


「う、それは…………」


 アンリは少し考え、フェリの方へ向き直した。


「……わかった。僕は国王へ抗議しに行くよ。ただフェリ、子ども達に手荒な真似はしないでくれ、縄で繋いだりもダメだ」


「…………まあ、そのくらいは良いだろう。こちらとて壊すつもりはない」


 よし、と今度は子ども達の方へ振り返る。


「君達はこれから暫く騎士団の施設へ異動することになるが、騎士を希望しない者はこちらへ戻れるよう、僕が国王に頼むからきっとすぐこちらへ戻ってこれる。だからあまり心配せず、今は騎士団に従ってほしい……良いかな?」


 アンリの言葉に子ども達は顔を見合わせた。自分達がどう判断すればいいのかわからないからだ。ただそのなかで年長者の一人であるカウムが前へ出た。


「大丈夫ですよ、ボクら結構アレな人生送ってますし、日常が変わる程度どうってことないです。ねぇ、みんな?」


 カウムの言葉に子ども達は、うん、とあまり元気のない返事をした。そして今度はリームスが前へ出る。


「そもそもオレは騎士でも兵士でも構いませんからね。小さい奴等もアンリさん待ってりゃいいだけなんで多分なんとかなりますよ」


「ぼくらには魔法もあるもんね」


 リームスに続いて小さな子どももそう言った。次々と騎士団の施設への異動を承認する中、ただ一人、エタだけ曇った表情のままだった。

 時人はそれに気が付き、大丈夫かと声をかける。


「…………大丈夫なわけねぇだろ……」


 小さな声で、そう呟いた。


 11名の騎士は子ども達の反応に安堵し、優しく子ども達を外へと連れ出す。久々に外にちゃんと出た子ども達はキラキラと瞳を輝かせ、はしゃいだ様子だ。それを見てアンリも少し安堵する。

 しかしやはり、エタだけは時人と共にその場に残ってしまい、フェリの目にとまった。


「……どうした、その足は歩けぬわけではあるまい?」


「…………」


 エタは俯き気味のまま、ゆっくりと歩き出した。皆がその様子を見守り、時人はただ背中を見守る。背中を見守るだけのつもりであった。


 ぐいっ、と時人はエタの右手首を掴んだ。


「!?」


 エタの行き手を阻み、皆が時人を見た。


「あ、えっと……その……少しでも嫌なら、行く必要無いんじゃないか? エタは罪人とはちょっと違うだろ?」


「…………」


 時人の言葉と現状にフェリは小さく舌打ちをし、エタと時人に近付いた。


「アマクサ・トキトだな? その手を放してもらえると大変助かる。いかに貴様が神の堕とし子であろうと、この国の国民である以上そんな我が儘は通らないものと思え」


「わ、我が儘、でしょうか? オレがどうとかっていうより……その、エタは、嫌そうですし……」


 一人くらい、そんな気持ちがどこかにあった。ましてエタは時人の中で無罪の悲しい子どもだ。


(オレが助けてあげないと……)


 その気持ちから瞳が揺らぐ。

 ザッハークが口を開いた。


「オマエの我が儘であれば、多少は通るものだ。国王も目を瞑ろう」


「……だから、その者は見逃していいと? 特別扱いか? まあ、同じ人外同士、気が合うのかもしれんが……」


「フェリ、彼等は人間だよ」


「貴様は黙っていろアンリ」


 三人が言葉をかわす中、こっそりとレヴィは時人とエタに近付いていた。


「竜王がそう言うならいいんじゃない? 貴方は時人のお友達?

あたしはレヴィ、これからよろしくね!」


「おい小娘、勝手に……」


 フェリが挨拶するレヴィを止めようとしたその時、エタは自分の意思で時人の腕を振り払った。


「…………俺も行きます……」


 エタは小さくそう呟いて外の方へと歩き出す。寂しい背中に時人はエタの名を呼んだ。エタは一度振り返る素振りを見せて、そのまま立ち去ってしまう。


「…………」


「……ふん、これでいいのだ。ではなアンリ。国王への抗議、頑張ってくるといい。ザッハーク、今回はアンリの説得に感謝する、私では聞かんからな」


「ああ」


 フェリ・フラーテルと11名の騎士もその場を立ち去り、暫く静寂が訪れる。


(エタ、なんで……)


 子ども達は騎士団の馬車に乗り込み、アンリの監獄から去っていった。


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