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大っ嫌いな婚約者を聖女に押し付けようとしたら、あまりに良い子すぎるので廃嫡路線に切り替えました  作者: 海月あお
第三章 静かなる準備期間

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48.生き残る手段は確保済み

十五歳になった、その春のことだった。


コーデリアは自室で一人、静かにお茶を飲んでいた。


もうすぐ学園に入学する。入学前に、一度きちんと整理しておかなければならないことがある。面倒ではあるが。


そう思いながら引き出しを開けると、一枚の紙が出てきた。


『①』


七年前に使った紙。それだけが書かれていた。


侍女たちが見つけて、何か重要な意味があるのかもしれないと思い、取っておいたのだろう。


コーデリアはその紙をしばらく眺めた。


高位貴族が使う紙は、上質で高価なものである。銅貨一枚の重さを知った今のコーデリアには、書きかけの紙を無駄にするという選択肢はなかった。「一枚の紙を侮るものは一枚の紙に泣く」精神で、コーデリアはその紙をそのまま使うことにした。どんな状況で一枚の紙に泣かされるのかは、たぶん誰も想像できないかもしれないが。


コーデリアはペンを手に取った。


「婚約破棄」


書き書き。


「断罪イヤ」


書き書き。


しかし、どうすればいいのか。残念ながら、友人から悪役令嬢ものの小説を断ってしまったコーデリアには、悪役令嬢がどのように物語の終盤を迎えたのか、想像すらできなかった。


(——っ! もしかして、わたくしが転生したように、聖女も転生しているかもしれないわ!)


まるで天啓でも降りたかのように、案が閃いた。なぜその可能性を全く思い浮かばなかったのか。コーデリアは至極満足した。


(きっとわたくしと違って、この乙女ゲームをやり込んでいるに違いないわ)


ならば、きっとあのアホ王太子も喜んで受け持ってくれるかもしれない。だって、ああ見えて一応、本作では王道ルートなのだから。


コーデリアは新たに紙に文字を書き加えた。


「聖女に押し付ける」


他の攻略対象者たちについては、聖女に丸投げするか、邪魔するだけでいい。


そこで、ふとその攻略対象者であるガストンとリュカのことを思い出した。


昨年の夏に強行した、ブートキャンプだ。十日間。ナイフ一本でのサバイバルキャンプ。


魚や小動物を捕まえられた日は、まだマシだった。しかし、そんなにも都合よく見つけられるものでもなかった。


だから——コーデリアは、当時の食事メニューを思い出していた。


蛇は意外といけた。カエルは泥臭かったが。


騎士家に生まれ、親子で騎士の訓練として野営の経験はあったガストンも、さすがに「蜂の子」を食べる発想はなかったらしい。蜂の子を見たガストンとリュカは真っ青になって震えていた。


(栄養価は高いのにね)


なぜあんな顔して必死に拒否したのか、コーデリアにはさっぱり分からなかった。


あの地獄のようなブートキャンプを終えて森から出た時、帰りを待っていた使用人たちが馬車の前に立っていた。無事に生還できた安堵からか、彼らは全員、その場で倒れ込んだ。


カインとコーデリアだけは、かろうじて根性で倒れなかったが。


(……さすがに、少しやり過ぎたかもしれないわね)


帰宅後のコーデリアを見た侍女たちは悲鳴をあげ、必死に磨き上げた。髪はボサボサ、日焼け、虫刺されの跡、打撲、顔にも小さな怪我。それらを全部跡形もなくするために、行動制限まで課した。


別に、顔に多少の傷くらい良いではないか。それこそ、婚約解消の理由づけになったかもしれないのに。その後の嫁の行き先もまた失うかもしれないが、それなら、領地でカインと共にゆっくり過ごしてもいいのだ。


なお、コーデリアが人生設計に既にカインを組み込んでいることを、本人は全く自覚していなかった。


リュカはブートキャンプから帰宅後、数週間自室から出なかった。しかしその後——


(別人のようになっていたわね……)


ガストンも帰宅後はしばらく大変だったらしいという話は聞いたが、なぜかガルドがさらに磨きがかかったと大層喜んでいたというから、特に問題ないかもしれない。


つまり、コーデリアのゲーム第一印象であった「脳筋」「あざとかわいい」は、今では見る影もなくなってしまったのだ。——脳筋は、ある意味脳筋のままかもしれないが、一応。


あのブートキャンプをもって、セドリックによる訓練は正式に終了した。しかしコーデリアは自主的に、影から暗器の使い方を習い続けた。定期的に、今も続いている。


そこで、ふとコーデリアは学園入学後の作戦用紙を見た。わずかな文字のみしか書かれていない、その紙を。


(まぁ、あの地獄を通過したのだもの。とりあえずナイフ一本持って逃げ切れれば、あとはなんとかなるわね)


それ以上の作戦を考えることを放棄したコーデリアは、リンが作ってくれたお菓子を一つ頬張った。



*****



さて。


本来であれば、カリタス院は、この物語における最大の舞台となるはずだった。


全てを裏から計画してきた黒幕が、長年かけて準備を進めてきた、邪神復活のための拠点。製作者が満を持して用意した、ラスボス戦の場所。物語はそこへ向かって収束し、全ての決着がつくはずだった。


しかし、コーデリアのうろ覚えにより、その場所は本ゲームが始まる前に陥落し、跡形もなく更地になっていた。


本ゲーム前にラスボス拠点を更地にされるとは、さすがに製作者も想像していなかっただろう。


一体この先、この乙女ゲームはどこに向かうのだろうか。


いよいよ、ゲーム本番である。



これで孤児院編は終わりになります。

学院編は現在110話まで書き進めていますが、作品の構成上、書き溜めが完成次第、連続更新予定です。

続きが気になる方、応援して下さる方は、よければブックマークや評価の方をよろしくお願いします。

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